第19話 遥かなる異郷 ②

「何コレ何コレ、めっちゃカワイイ!」


 オキクの足下から白い仔猫を抱き上げて、アイが狂喜乱舞する。


「私のセーレー、名前はミーコ」


「うわああ、良いなあ」


「アイはどうしたのよ?」


「私?」


 聞かれてアイは、一瞬、ポカンとした。それから徐々に、ニンマリと笑みを浮かべて、


「さて、私のセーレーはどこでしょう?」


 両手を開いて、くるりと回った。


「見えてるの?」


「もう、ずっと」


「え、ずっと?」


 オキクは口元に右手を当てて、アイの周辺を観察する。


 足下には何もないし、周りに何かが浮かんでいる様子もない。可愛い系ではないのだろうが、まさか虫とかお化けのたぐいとは考えたくない。


「アイ、そろそろその辺で。これ以上はオキクが可哀想です」


 そのとき、アイの右耳に付いている、直径5センチメートル程の、銀色フープのピアスが明滅を繰り返した。


「え、まさか、そのピアス⁉︎」


「うん。エルフなら、やっぱコレかなって」


 アイがニャハっと、ゆる〜く笑う。


 同時にオキクは衝撃を受けた。


 まさか目の前に浮かんでいる物の形状を、身に付けるアクセサリーにしてしまおうなんて発想はお菊には無い。こう言うところは、亜衣には敵わないと思わされる。


 と、その直後、


「遅いぞ、新入り! いつまで待たせやがる」


 バーーンと大きな音を響かせて、勢いよく玄関扉が開け放たれた。


 〜〜〜


「はい! すみません!」


 突然、響き渡った怒鳴り声に、アイとオキクの背筋がピンと伸びる。


 そう言えばマルヤが、表で仲間が待っていると言っていた。


 アイがそーっと後ろを振り返ると、


 扉の隙間から、「あらあら」とマルヤがこちらを覗いていた。


「どこを見てる!」


「すみません!」


 再び響いた怒鳴り声に、アイが慌てて姿勢を正す。


 と同時に、声の主が女性であることに、アイは不思議な違和感を覚えた。


「あん? もしかしてお前、亜衣か?」


 ツカツカと歩み寄ってきたのは、黒のパンツスーツ姿の格好良い女性。肩ほどまでの銀髪を、青いバレッタで留めている。


「え…、浅野さん⁉︎」


「何を驚いてやがる。確かに髪の色は変えてるが、お前ほどじゃないだろうが!」


「いやいや、アサノ。今のは、そう言う意味じゃないよ」


 続いて現れたのは、真っ赤なジャージに真っ白なマントを羽織った、独特なセンスの体操のお兄さん。


「だったら、どう言う意味だよ?」


「アサノはこっちに来ると性格が…」

「性格が、何だって?」


 アサノにギロリとにらみつけられ、サカシタは思わず口籠もる。


「あー、性格が…素晴らしい」


「チッ! 覚えとけよ、サカシタ」


「ちょっ…ちょっと、アサノさん。俺の方が先輩だって、ちゃんと分かってる?」


 苦笑混じりで放たれたサカシタのささやかな抵抗は、アサノのスルーと言う運命から逃れることは出来なかった。

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