第23話 初めての戦闘 ③
市内のあちこちから火の手があがり、
人々の悲鳴が木霊する。
所々で、武器を持つ人たちが応戦している姿も目に入るが、被害が広範囲に渡っているため、上手くいっているとは言い難い。
そんな時、市役所横の大通りの方から、女の子の泣き声が聞こえてきた。
反射的に、アイとオキクが声の方へと駆け寄ると、
歩道の
「どうしたの? どこか痛いの?」
年の頃は4、5歳くらいだろうか。
アイが膝をついて少女の頭を撫でても、
「ママー! ママー!」
と、泣きじゃくるだけである。
「お母さんと、はぐれたみたいね」
同じく、膝をついて少女の様子を伺っていたオキクが、呟きとも取れる言葉を発した。
と、その時、
「気をつけてください、オキク」
オキクの足下の何もない空間から、飛び出すように、白い仔猫がひょいと姿を現す。
「6体の灰色狼に囲まれています」
「え⁉︎」
ミーコの突然の警告に、オキクが慌てて振り返る。すると、半円を描くように、灰色狼が遠巻きに取り囲んでいた。
ぎっしりと鋭い牙の並んだ口の端から、グルルと喉を鳴らす音が漏れ、まるで血液のような真っ赤な瞳は、恐ろしいほどの真紅の眼光を放っている。
「あ……」
ジリジリと前傾姿勢で距離を詰めてくる灰色狼に、オキクは言葉を失った。
「アイもすぐに戦闘体勢を。武器を呼び出してください」
アイの右耳に付いている、銀色フープのピアスが同じく警告を発するが、
「え……、武…器……?」
本能的に自分たちが狩られる側だと悟ったアイには、セーレーの指示を理解する思考力さえ残ってなかった。
「転位者の戦意喪失を確認」
「アサノとサカシタに救援要請。位置情報を送信します」
ピアスのセーレーと仔猫のミーコが、独自に行動を開始する。
次の瞬間、
全ての灰色狼が一気に距離を詰め、一斉に襲い掛かってきた。
このとき、彼女たちの取った行動は、意図的に行ったものではない。
アイとオキクは無意識的に、自分たちの身体で、少女の身体を覆い隠した。
そうして両目を閉じて、やがて来る衝撃に震えていたその直後、
「そのまま伏せてろ!」
何者かの姿が、両者の間に割り込んだ。
同時に、痛々しい獣の鳴き声が、二人の両耳を貫いていく。
「お前ら、今のうちに逃げろ!」
自分たちに向けられたその声に、アイとオキクが顔を上げる。
二人の視界に、刃渡り30センチメートル程の片手剣を右手に握り、左手には小さな盾を持つ、黒パンツスーツ姿のアサノの存在を認めるが、
「おい、何してる! 早く逃げろ!」
二人の意識は、何故だか夢の中にいるような、虚ろな世界を漂っていた。
「チッ! サカシタ、その子を頼む!」
そんな中、続いて響いたアサノの声に合わせるように、
「セーレーはアイとオキクを帰還させろ!
アイとオキクは、まるでジェットコースターが急降下するかのような、突然の浮遊感に襲われた。
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