第21話 初めての戦闘 ①

「もしかして、竜宮市役所の方ですか?」


 ランカータ市役所に入ると直ぐに、スラっと高身長の女性秘書が、アイとオキクに話しかけてきた。


「あ、はい、そうです」


「市長がお待ちです。こちらへどうぞ」


 そうして、通されたのは市長室。


「市長、お客さまをお連れしました」


 すると、恰幅かっぷくの良い小柄な男性が、椅子からゆっくりと立ち上がった。


「ようこそ、ランカータ市へ。ワシは市長のサンダスじゃ」


 白いスーツ姿で、愛嬌のある優しい顔立ちをしている。頭髪は既になく、ハの字形の白いちょび髭が生えていた。


「ところで今日は、アサノくんは?」


「お見えになっておりません」


「そうか…、残念じゃのう」


 市長と秘書の会話に若干の疑念を感じながらも、オキクがぺこりと頭を下げる。


「初めまして、私はオキクと申します」


「アイです、よろしくお願いします」


「今回は、なんとも愛らしい娘さんらが来たもんじゃな」


 市長は、アイとオキクに来客用のソファーを勧めながら、自分の席へと腰掛けた。


「先ずは、現在の状況を伝えておこう」


 市長の話によると、


 魔王軍は、険しい山々の連なる、北のエーザーン連峰を拠点にしているらしい。


 らしい…と言うのは、ランカータ市の横を流れるヨルド河より川向こうは、現在魔王軍に制圧されており、詳しい情報が入ってこないためだ。


 そしてヨルド河とは、エーザーン連峰を源流とし、大小様々な川と合流して海まで流れる一級河川である。


 その川幅は、河川敷を含めると、優に五百メートル近くあり、現存している大橋は、ここから南西にあるネヤガー市と、川向こうのセーツ市をつなぐセーツ大橋しかない。


 ゆえに、現在はネヤガー市が、様々な戦力の集まる最前線となっているのだ。


「それと、もうひとつ」


 そこで市長が、右手人差し指を一本立て、優しい目元を少しだけ強張こわばらせた。


「実はこの世界は、はるかな昔にも、魔王の侵略を受けたことがあるのじゃ」


 魔王の侵略により

 世界が破滅の危機に瀕したとき、

 赤と白の御使みつかいが現れて、

 やがて魔王を討ち倒した。


 この伝承の話を聞いたとき、アイは「んんん?」と小首をかしげた。何だか、ごくごく最近にも、似たようなワードを耳にしたような気がする。


「じゃが、伝承が古すぎて、ほとんど何の情報も残っておらん。ワシの推測じゃが、君らのような存在が、現れたのではないかと思うちょる」


「それで、その赤と白の人は、今は何処にいるんですか?」


 アイが「ハイ」と右手を挙げて、市長に向けて質問した。


「調べてみたが、分からんのじゃ。生きちょる訳はないからの、残っておるとしたら血筋じゃが…」


「そうですか…」


「何じゃ? この伝承が、そんなに気になるかの?」


「あの、はい、まあ…」


 何とも歯切れの悪いアイを見つめて、オキクが口元に右手を添える。こう言う時のアイには何かある。オキクは意を決した。


「すみません、市長。この伝承について、もう少し調べて貰えませんか? 魔王討伐の重要な手掛かりですし」


「それはもちろん構わんが…。君らのような存在なら、血筋が残っておるかも怪しいぞ」


「はい、お願いします」


 オキクが返事を返したその直後、


 けたたましいサイレン音が、市役所館内に鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る