第26話 小さな勲章 ③

 アイとオキクが目を覚ますと、そこはランカータ市役所の中だった。


 お互いが支え合うように座っていたソファーから立ち上がり、周りの状況を確認する。


「皆んな、忙しそう」


 無理もない。


 市役所内には被害は無かったが、舞い込んでくる報告や被害届に、職員全員てんてこ舞いだ。


「そうね、何かを教えて貰える状況じゃ無さそうね」


「あ、そうだ。セーレー、アサノさんたちに会いたいんだけど、何処にいるか分かる?」


 そのときアイが、自分の右耳に光る、銀色フープのピアスに話しかけた。


「ちょうど、コチラに向けて移動中。表で待っていれば合流可能です」


 あまりにも良過ぎるタイミング。もしかしたら向こうも、アイたちが再転位してくるのを待っていたのかもしれない。


 アイとオキクは、少し浮かない表情で、お互い顔を見合わせた。


 先ずは、アサノさんにちゃんと謝る。全てはそれからだ。


 アイとオキクが表に出ると、ちょうど市役所に着いたアサノが、


「よお、お二人さん。ちょっとは落ち着いたか?」


 右手を挙げながら笑顔を見せた。


「あ…あの、アサノさん…っ」

「まあ待て、そっちの話は後だ。おい、サカシタ!」


 呼吸を合わせて意を決したアイたちの言葉を遮って、アサノがサカシタを手招きする。


「はいはい、全く。俺の方が先輩なんだぞ」


 呼ばれたサカシタは愚痴りながらも、髪の長い大人の女性と、ツインテールの小さな女の子を連れてきた。


 その小さな女の子には、アイもオキクも見覚えがあった。


「あ、さっきの…」


「娘の危ないところを助けてくださり、ありがとうございました」


 そう言って大人の女性が、深々と丁寧に頭を下げる。


 どうやら母親とは、無事に合流出来たようだ。最悪の事態にはならなくて、アイとオキクはホッと胸を撫で下ろした。


「お二人とも無事で本当に良かったです。ですが…」


 続いて若干の誤解があるようなので、オキクが困惑気味に声をかける。


 すると、さっきの女の子がアイとオキクの前に駆け寄って、


「アイお姉ちゃん、オキクお姉ちゃん、リンのこと助けてくれて、どーもありがとう!」


 母親と同じように、深々と頭を下げた。


 その女の子の行動に、アイもオキクも顔を見合わせて苦笑する。


 それからアイが膝をついて、小さな女の子の頭を優しく撫でた。


「リンちゃんを助けてくれたのはアッチのお姉さんで、私たちじゃないよ。だからお礼ならアッチのお姉さんに…」


「違うよ。だってお姉ちゃんたちも魔物が怖かったのに、リンのことちゃんと守ってくれた。だからいっぱいイッパイありがとう!」


 本当に無邪気に、輝くような笑みを浮かべるリン。


 その瞬間、アイのから涙がこぼれ落ちた。


「ど…どーしたの、お姉ちゃん⁉︎ どこか痛いの⁉︎」


「大丈夫、どこも痛くない」


 自分でも驚いたように、アイが慌てて涙をぬぐう。それでも涙は、後から後からあふれて止まらない。


「ごめんね、大丈夫だから。リンちゃん、ホントにありがとう」


 最後には泣きながらも、アイはリンに笑顔を見せた。


 その光景を真横で見守っていたオキクのにも、アイと同じように涙が浮かぶ。


 すると突然、いきなり背後から、二人の頭部がわしゃわしゃと揉みくちゃにされた。


 慌ててアイとオキクが振り返ると、


 そこには、ニヤつくアサノの姿。


「初日にしては上出来だ。この調子で頑張れよ、ルーキー」


 そのときはたかれた背中の痛みは、何だか少し、誇らしく思えるものだった。

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あいうえお!〜RPGにようこそ。こちら竜宮市役所異世界支援課〜 さこゼロ @sakozero

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