第4点 屋敷をアトランティコ
レオナルド・ダ・ヴィンチ。
言わずと知れた絵画の巨匠。
そしてボッティチェリは、彼と同じ工房の兄弟子兼ライバルとしても知られている。
レオナルドが後に書いた書物の中で、唯一同世代の画家として名前を挙げたのがボッティチェリだったという。
しかも内容は批判的だったそうで、作風も異なる二人だったから、その複雑な関係性が窺えるというものだ。
で。
そんな複雑な彼が私の婚約者だって!?
おいおいおい〜!!!
嫌な予感しかしない!!!
「前回会いに来た後に頭を打ったと聞いてね。様子を見に来たんだが、思ったより元気そうで良かった。それじゃあ、学校で待っているから。始業式くらいは寝坊せずに来るように」
それだけ言うと、レオナルドはさっさと立ち上がり扉へと向かっていく。
え? それだけ?
「儀礼として仕方なく婚約者の見舞いに来ました〜」感がハンパないな!?
ちょっと流石に失礼じゃない?
カチンときた。
「いや、もうちょっと何かないんですか。仮にも婚約者ですよね?」
私の言葉に、レオナルドもロッセリも目を剥いて驚いている。
レオナルドなんて完全に背を向けてたのに、ぐいんって首捻ったもんね。
サンドラ、レオナルドにも反抗したことなかったのかな?
……って、やばい! 第何王子なのか知らないけどとにかく王子にこの態度はまずかったか!?
「な、なんちゃって〜。冗談デス! 顔を見に来て頂いただけでもう光栄でございます! はい! では学校で!」
私は引き攣る口角を無理矢理上げて、笑顔でレオナルドを見送る。
レオナルド、めちゃめちゃ不審な目で見てるよ。
駄目よ気にしないで!! 何も怪しいことなんてないのよ!
こうなったらとにかく笑顔でゴリ押し!
直接は触れてないけどどうしても近くに寄るとお腹がね! 当たっちゃって!!
ああ〜意図してないのにレオナルド様を玄関まで押していってしまうわ〜。
「ふう。なんとかなった」
かどうかは分からないけれど、無事お腹の脂肪と圧でレオナルドを馬車に乗せることに成功した。
つい思ったことが口をついて出ちゃうこの性格、本当になんとかならないものかしら。
それで松野智香の時も苦労したのに……。
でも、レオナルドとの会話で分かったことがある。
この世界、学校があるタイプの世界なのね。
いよいよ少女漫画とか乙女ゲームっぽい。
レオナルドはサンドラよりも何歳か上そうだったけど、同じ学生なのかな?
ボッティチェリの方がレオナルドの兄弟子なのに年下? なんて思うけど、まあ、そういうことはあんまり考えちゃいけない世界なのかも。
樽の体でどうにか足を動かし、自室へと戻る。
自室が2階だから階段を登らなきゃいけないんだけど、とにかくこの巨体を持ち上げるのが大変。
ロッセリに背中を押してもらい、ヒイヒイ言いながら登るしかない。
なんかこんなシーン見たことあるよ? ジ○リのアニメで……。
どうにかこうにか自室へと戻り、文字通り椅子に倒れ込んで、ロッセリにレモン水をもらいひと心地つく。
ただ自分の家を移動しただけなのに……。
いやでもここでだらけてる場合じゃない。
この世界のこと、よく知らなくちゃ。
「ねえロッセリ。学校っていつからなの? 始業式ってことは今春休みなんだよね?」
「始業式は明日でございます。間に合って本当にようございました」
明日ぁ!?
もうちょっとくらいゆっくりしてからでもいいと思うんだけど……。
病み上がりだし……。
とにかくこのままではかなりまずい。
「ロッセリ!! 色々教えて!!」
ロッセリに聞きただして分かったこと。
ここはヴィンチ王国という、この世界ではそこそこ大きな国らしい。
気候とか地理とかを聞くと、なんかちょっとフランスっぽい?
そんな印象を受けた。
サンドラは国立アルス学園という、16歳から18歳の少年少女が通う学校の2年生。
アルス学園は何も貴族だけが通っている訳ではなくて、裕福な商家の子や優秀な平民の子も通っている学校らしい。
魔法学園とかではなく、普通の学校っぽい。
どうやら魔法があるタイプの世界ではないようだ。
ロッセリは今年で25歳の平民だけど、アルス学園の卒業生だとか。
平民でも優秀な子は、ロッセリのように高位貴族の家で上級使用人になったり、官僚になったり出来るみたい。
そしてなんと、レオナルドは学生ではなく学園長だという。
ロッセリと同い年らしく、同級生だったとか。
いや25歳で学園長って!!
王子力ぱないな!?
レオナルドはこのヴィンチ王国の第一王子なんだって。
国王陛下がかなり気の多い人のようで、異母兄弟が何人も居るらしい。
確か本物のレオナルド・ダ・ヴィンチの父親も女好きで、兄弟が多かったって聞いたことがあるような?
現在絶賛王太子の地位を賭けて、異母兄弟たちと壮絶な椅子取りゲームの真っ最中だという。
それでも一番王太子の地位に近いと言われてるのが、レオナルドらしい。
ええ〜〜その壮絶な王位継承権争いに巻き込まれそうですごく嫌なんですけど……!!
にしてもロッセリの言葉の端端から感じることだけど、どうやらレオナルドの婚約者だということを笠に着て、かなりやりたい放題していたな、サンドラよ。
玄関と自室の間の移動でも分かったけど、この家の使用人たち、めっちゃサンドラ嫌ってる。
何ならちょっと馬鹿にされてるよ。
ヒィヒィ言いながら階段登ってる所、陰で何人か笑ってるの私見てたからな!?
そう考えると、このロッセリという侍女は私にとって貴重な味方。
お父様にも嫌われているようだし、ジョヴァンニとロッセリはめっちゃ大事にする。
これ決めた。
けど……。
明日から学校なんじゃーん!!
学校にはどっちも居ないんじゃーん!!!
「私やりきれるの!? いや、やるしかない!!」
私の唯一と言っていい長所はポジティブなことだ。
どんな時も諦めない、へこたれない。
あの地獄のようなブラック企業でも何とか耐えてたんだもの。
出来るわ!!
よし。
なら今出来る最善のことをしなければ。
バッと着替えてスポンとベッドにイン!!
「はい! おやすみなさーい!」
だってもう何だかクタクタなんだもの〜!!
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