第24点 叫びvs西風


「まずは話し合いを! 話し合いをしましょうよ!!」

「お前と話すことなど何もない!!」


 私はハムより太い足を必死に動かし、森の中を駆けていく。

 どんどん奥の方に入って行ってる気がするけれど、今はそれよりも直接的な危険の方だ。

 あの衝撃波を一度でも浴びたら命はないのだから。


 キィヤァァァーーーーーーー!!


 容赦なく<叫び>の衝撃波が私を襲う。

 どうにかすんでの所で躱しているけれど、その威力の強さに肝が冷える。


 ムンクの『叫び』の弱点は、攻撃までの予備動作が長いことだろう。

 プネウマ名を言って、息を吸い込み、叫び声を上げる。

 威力はもの凄いけれど、素早く反応できれば避けることは難しくない。


 体が動けば、の話だけど。


「はぁ! はぁ! もう……ダメ!!!」


 能力以上の動きを強要されていただろう両脚たちが悲鳴を上げ、ついには前のめりに倒れてしまった。

 やばい足つった! もうちぎれそう!!

 地面についた手の甲に、ぽつりぽつりと雨粒の感触を感じる。

 最悪なタイミングで、雨が降り出してしまったようだ。


 キィヤァァァーーーーーー!!


 これを好機とムンクの<叫び>が降り注ぐ。

 なんとか体を転がしてギリギリ避けたけれど、運悪く転がった先には倒れた大木があった。

 端に追い詰められ、身動きがうまく取れなくなってしまう。


「これで終わりだな。サンドラ・ボッティチェリ。 <叫び>」


 泥と草まみれになった上半身を起こして見ると、今まさにムンクが衝撃波を放つ瞬間だった。

 やばい!! まじこれやばい!!

 ええいこういう時こそ!!


「<ゼピュロスの西風>!」



 ビュオオオオォォ!!



 激しい風が巻き上がり、周囲の木々を薙ぎ倒す。

 ムンクから放たれた衝撃波が風の力で軌道を変え、私のすぐ右手に当たり、地面がえぐれて大木に大穴が空いた。

 あっぶない!! ギリセーフ!!


「今のは……一体どういうことだ!? お前のプネウマは、花を吐き出すだけのはずだ!」


 動揺を隠しきれないのか、ムンクは動きを止め、焦りを顔に浮かべている。

 いつの間にかフードが外れ、オレンジ色のボサボサな髪と黄色い瞳の三白眼、病的なまでの酷いクマが顕になった。

 クマがなければ可愛らしい顔立ちのはずなのに……きっとろくに寝ていないのだろう。


 にしても私のプネウマを知っているのは、どういう訳なのか。

 でもテオのプネウマの対処方法を知っている奴らだもの。あり得ない話じゃない。


「悪いけど、私のプネウマは1つじゃないのよ!」

「なんだと!?」


 驚きに目を見開いて、ムンクは固まってしまった。

 今のうちだ! どうにか逃げる方法はないかしら!?

 と周囲を観察した直後、舌打ちをしたムンクが再度<叫び>のモーションに入った。

 ちょっと待ってもうちょっと驚いててよ! えっえっどうしたら!!?



 ゴゴゴゴゴゴッ……!!!



 突如として、周囲に猛烈な音が響き渡る。

 と同時に、地面が大きく揺らいだ。


 さすがにムンクも<叫び>をやめて、何事かと慌てている。

 何!? 地震!!?

 そう思った途端、体が平衡感覚を失い、地面と共に落下する。


 気付かなかったけれど、すぐ後ろは崖になっていたようだ。

 ムンクがこの周りで衝撃波を何度も打つものだから、地面が崩れてしまったのだろう。


 自分ではどうにも出来ない流れの中で、ちらりと見えた風景からそう思った。

 命の危機に瀕すると風景がスローモーションに見えるというけれど、本当にその通り。

 車に轢かれた時もそうだったもの。

 いやだ! また死んじゃうの!?

 そんなの酷すぎるどうにかしてよ神様!!


 無情な創作の神に必死に祈る。

 そこで、私の意識は途絶えてしまった。

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