第15点 グーピルレーダー


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|テオドルス・ファン・ゴッホ

|フィンセント・ファン・ゴッホの

|実の弟であり、

|画商であった。

|経済的にも精神的にも

|フィンセントの支えとなり、

|フィンセントが精神病院に入った後も

|手紙でのやり取りを続けた。

|フィンセントの唯一の理解者であり、

|二人の間には固い絆が結ばれている。

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 そう。テオという愛称で親しまれるフィンセントの弟テオドルスは、画商であって画家じゃない。

 なのにタブローのメンバーとは、これ如何に??


「テオのプネウマはかなり特殊でな。昨日、私たちにはプネウマの所持者の居場所が分かると言っただろう? それがテオの能力だ。本来なら学園に入学するまではタブローに誘わないんだが、テオの能力は非常に貴重だ。異例として、タブローに所属してもらっている」


 そう言ってレオナルドは、テオに優しく微笑みかけた。

 雰囲気からして、テオのことをよく可愛がっているのだろう。

 あのいやーな雰囲気のゴーギャン先生でさえ、どこか瞳が柔らかい。

 タブローのマスコット的な感じ?

 フィンセントとゴーギャン先生が幼馴染なら、テオとも付き合いがあったろうし、親しい仲なのかもしれない。現実のテオとゴーギャンもよく手紙を交わす仲だったしね。

 それで、そんなテオの特殊な能力ってなんだろう。


「僕の『真価を見出す眼グーピルレーダー』はプネウマを持つ人の位置が分かるんです。と言ってもどんなプネウマかは分からないし、僕か相手が屋内に居ると分からないんですけどね。何故かこの秘密基地では問題なくプネウマを使うことができます」


 テオの言葉に反応して、すぐさまコマンドが現れた。


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|テオドルス・ファン・ゴッホ

|プネウマ<真価を見出す眼グーピルレーダー

|画商としてのテオドルスの才能は

|本物だった。

|美術商であるグーピル商会の役員となり、

|アカデミックな古典的絵画が持て囃される

|時代にあって、流行とは全く異なる

|兄の絵の才能を信じた男には、

|芸術を視る眼があったのだろう。

|プネウマ<真価を見出す眼グーピルレーダー>は、

|プネウマの所持者の位置を把握できる。

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 すごい。

 つまり人間レーダー。プネウマ探知機ってことか。

 これは、タブローにとってかなり有利なのでは?

 某アメリカンコミックの異能モノにも居ましたよねそんなキャラ!


 テオの能力でアンナも見出したってことかぁ。

 でもそれなら、事件の黒幕も見つけられそうだけどね?


「黒幕の位置はいまだに分からないんだ。プネウマを持っていないか、ぼくの能力の限界を知った上で対策をしているか……だけど。きっと後者なんじゃないかと思ってる」


 顔に出ていたのか、私の内心の疑問に答えるように、テオが言った。


「つまり、顔見知り?」


 私は目を剥いた。

 それは……なかなかに厄介な気がする。


「心当たりはある。だが、行方はわかっていない」

「そうなのですね……」

「それに、向こうも組織を形成している可能性が高い。我々は仮に『デカダンス』と呼んでいるけれどね』


 レオナルドの言葉に、アンナと私以外は頷いている。

 私たちの敵は、その『デカダンス』なる悪の組織、ということか。


「とりあえず現状、相手の位置が分からない以上、我々が出来ることは、事件を未然に防ぐことだ。もちろん、この間の男子生徒含め、加害者にさせられた者たちの共通点や過去の足取りを探ることも大事だが」


 そう言ってレオナルドは皆を見回した。


「クロードは私の補佐に付いてくれ。ポールとテオは引き続き加害者の周辺を探るように。ルソーくん。君も協力してくれるかな。君のプネウマは隠密に適しているからね」

「はい! 分かりました!」


 元気よくアンナが答える。

 確かに彼女のプネウマを使えば、どこかに忍び込んだり、誰かを尾行したりするのに役立つだろう。

 少々、彼女の浮き足だった気質は気になるけれど……。


「フランソワとエヴァレットは街中の巡回だ。それから、フィンセントとサンドラ、君たちも巡回に行ってくれるかい?」

「はぁ!!? なんで俺がこんな奴と!!」

「ちょっと! こんな奴って失礼じゃない!? 仮にもレオナルド殿下の婚約者で公爵令嬢なのだけど!」

「学園でもタブローでもそんなもの関係あるかよ!!」


 ムカつくーーー!!

 なんなのこいつ!!

 伯爵家の癖に生意気じゃない!?

 なんて言うと元のサンドラみたいだけどそれでもムカつくーー!!

 高貴な樽をなめるなよ!!?


「フィンセント。君の力を見越して言ってるんだ。私の婚約者を頼むよ」

「ふんっ!……仕方ねぇなあ!」


 とか言いながら顔が赤い。

 レオナルドに褒められてちょっと喜んでるじゃん。

 素直じゃない奴だな。


「あ、でも。私たち一応貴族なのですし、護衛もなしに出歩くのは危ないのではなくて?」

「そこは君たちのプネウマがあれば問題ないだろう。特にサンドラ。君のプネウマは役に立つ。フィンセントのプネウマは派手だからな。それに、きちんと変装して行ってもらう。ポール、頼む」

「はぁ。しゃーない」


 ゴーギャン先生は煙草を咥えたまま、至極面倒くさそうに私に手を翳す。


「<我々はどこから来たのか>」


 ゴーギャン先生がそう唱えると、どういう訳か、周りが急にみんな背が高くなっていく。

 違う! 私が縮んでる!?

 あっという間に、皆を見上げるようになってしまった。


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|ポール・ゴーギャン

|プネウマ<我々はどこから来たのか

|  我々は何者か 我々はどこへ行くのか>

|ゴーギャンは晩年、

|南国タヒチに2度移住している。

|そのタヒチで彼が遺書代わりに描いた

|と言われるこの大作は、

|右から左に時が流れる。

|画面右端には赤子が、

|中央には果物をもぎる成年、

|左端には死を待っている様子の老婆が佇む。

|愛娘の死、借金——。

|失意の中でこの作品を描いた時、

|彼は死を決意していたとも言われている。

|ポール・ゴーギャンのプネウマは、

|物体の時を自在に操ることが出来る。

|「我々はどこから来たのか」と唱えれば

|時が遡り、

|「我々はどこへ行くのか」と唱えれば

|時が進む。

|「我々は何者か」と唱えれば、

|現在の時に戻る。

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「な、なんですってーー!!」


 手元を見てみると、明らかに小さい手。

 低い身長にブカブカな服。

 明らかに子供になってるわ!!

 ていうか子供になったのに樽のままだわ!!


 ゴーギャンはフィンセントにも同じように唱え、フィンセントもするすると身長が縮み、私と同い年くらいの少年になった。

 フィンセント、マジもんの美少年なんですけど!

 子供になって髪が細くなったからか、ツンツン立てている髪の毛が程よく寝て、目の覚めるような美少年になってしまった。

 ちょっと、これはこれで街中を歩いてて大丈夫? 全然関係ない人に攫われそうなんだけど!


「子供というのは一番相手が油断しやすい。服はそこに用意してある。着替えて街中を巡回してきてくれ」


 レオナルドはにこやかにそう言った。

 いやそうなんだけどさあ!

 そもそもそれならそうとちゃんと断ってからにしてくださる!?

 仮にもレディーがこんなブカブカな服で素肌が見えたらどうするつもりだったのよ!!


「頑張ろうね、ボッティチェリさん」


 憤る私の頭上からそう声をかけたのは、ゴーギャン先生のプネウマで壮年の男性へと変身したフランソワだった。

 あらやだこっちもイケメン。

 元々ふわふわ系イケメンだったのが、ちょっと大人の渋みが増してかなりいい感じになっている。

 その隣で、エヴァレットは私たちのように子供になっていた。

 二人が並んでいると……まるで親子だ。


 きぃーーー!!!

 こうなったら、やってやりますわ!!

 あ、なんだかお嬢様言葉が板についてきたっぽい気がする!!


 婚約者の素肌を見せても気にしない悪徳王子を見返してやる!

 意地でも結果を出して見返してやる!!


 私は内心、拳を突き上げた。



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