第22点 さすなら日傘を
いやぁーよく寝た。
まさかレオナルドが見ている前で、あんなにもぐっすりと眠れるとは思わなかったよ。
不思議なことに、朝起きたらレオナルドはもういなかったんだよね。
まあロッセリとかに見られたら厄介だから、いいんだけども。
しかし昨日はびっくりしてあんまり気にしてなかったけど、プネウマ関係なく2階の窓から入ってくる王子って何。
どういう身体能力してるの?
ムンクも飛んで屋根の上に登ってたし、この世界の人たちみんな身体能力高めなのかしら?
私も物凄い転がるしね。それは関係ないか。
さて。
色々あったものの、学園は通常通りある訳で。
皆さん知ってました?
私がこの世界に転生してから、まだ4日目なんですよ。
信じられませんよね?
小説だったらもう6万字は超えてるんじゃないかってくらい色々あったのにね?
放課後忙しすぎるから、勉強する時間も取れやしない。
このまま私が赤点を取りでもしたら、きっとお父様の血管はブチ切れてしまうに違いないけど、どうしていいか分からん。
ムンクに命を狙われてるヤバい状況だけど、学業の方もマジでヤバい!!
「なら、僕が勉強を教えようか?」
移動教室の道すがら、私、クロード、オーギュストの3人で肩を並べつつぼやいたら、オーギュストがにこやかに提案してくれる。
まっじっか!!
オーギュストなんなの神なの!?
なんとオーギュストは、学年で成績がトップなんだって。
は? こんなに人当たりが良くて爽やかで割とイケメンなのに頭も良いとかなんなの?
創作の神は、この世界の「陽」を全て彼に集めたの?
ちなみに2位はクロードらしい。
生徒会とタブローの活動をしながら2位をキープって、クロードもすごすぎない?
サンドラの成績がどうだったのかは分からないけれど、ロッセリやオーギュストたちの反応を見れば、推して知るべしだ。
「いいの!? 助かるわ! やっぱり持つべきものは頭の良い友人ね!」
樽な頬を染めてほこほこ顔で答えてしまった。
たぶん犬だったら完全に尻尾を振っていただろう。オーギュストにはそんな幻が見えたかもしれない。
だって本当に嬉しいのだもの!
「仮にも学園長の婚約者なのに、いいんですか?」
完全にノリノリな気分に水を差すように、少々呆れた声のクロードがため息混じりで言った。
ちょっと! いい気分でテンション上がってたのに!
「
「そっそんなことはないですよ!」
クロードが顔を真っ赤にして怒ってくる。
いつも無表情なクロードにしては珍しい。
もしかしたら、あながち間違いでもなかったのかもしれない。
交友関係が狭めで少数の親しい人と深く付き合うタイプの人って、そういうとこあるよね。偏見?
「なら、クロードも来る? あっクロードと呼んでもよかったかしら」
「それは構わないですが……」
「なら敬語もやめてちょうだい。クラスメイトじゃない! そうと決まったらみんなで放課後は勉強会にしましょう!」
半ば強引ではあるけれど、晴れて放課後の勉強会の開催が決定したのだった!
「って、全然勉強会できないじゃん〜」
オーギュストとクロードと勉強会の話をしてから、かれこれ2週間が経った。
なのに放課後は、生徒会もといタブローの活動で時間が取れやしない!!
不思議とムンクもその後何か仕掛けてきたりはしないから私自身は無事だけど、成績は無事じゃない!
どうしてくれるのよ!!!
ちなみにあの日以来、レオナルドは毎晩私の元にやってくる。
きちんと寝ているのか不安になる半分、有難い半分、鬱陶しい半分。
あ、いけない1.5になっちゃった。
初日以来どうにもレオナルドの様子がおかしくて、「何か体調の変化は?」「どんな夢を?」「変わったことはなかったか」などと質問攻めにしてくる。
私に心当たりがなさそうだと分かると、何かを考え込むような素振りでブツブツと呟いていた。
なに? どうしたっていうの?
しかも毎晩どこか興奮しているようなウキウキさで私の部屋に来るようになったのだ。
寝る前の「おやすみ」を言う時に見えるレオナルドの瞳には、何かを期待するような色が見える。
なんだろう……私、すごい面白い寝言でも言ってんのかな。連続ドラマ形式の寝言とか。
続きが気になってワクワクしてるの?
私もすっかりレオナルドに見られながら寝ることに慣れてしまって、秒で爆睡できるようになってしまった。
最初からそうだって?
そういうこと言っちゃいけないんですよ。
そんな訳で、2週間前と変わらず日々を過ごし、今日は初めての美術の授業。
ちゃんとあるんだね美術の授業。
これだけ画家たちがたくさん居て、美術の先生は全く知らないおじいちゃんなのはなんでなのよ。
なんなんだこの世界の設定!
で、初日にしてまさかの学年合同校外授業という。
「まずは自然にある美しい形を丁寧に写生することが大事」などと最もらしそうなことを言って、自分が教えるのがめんどかったのではなかろうか。
とにもかくにも、私たちはスケッチと鉛筆だけを持たされて、学園の近くにある森へと行かされることになったのだった。
アルス学園は、王都の西側の郊外にある。
そもそも王都は国のちょっと北部にあって、さらに王都の最北部に王城が存在し、サンドラたち貴族のタウンハウスがその近くに立ち並ぶ。
貴族の住むエリアと平民の住むエリアの間にはディヴィという大きな川が流れているのだけど、アルス学園はそのディヴィ川沿いに建っているのだ。
川の北側、つまり貴族の住む区画の方にあるから、平民の生徒たちはいつも橋を渡って来ているというわけ。通えないほど遠方の生徒の為に寮もあるけどね。
で。
学園より更に西側は、山に繋がる森が広がっている。この森が面倒なことに、起伏が激しい。
けど今日みたいに校外学習で使うこともよくあって、深く入らなければ安全性は問題ないのだとか。
……本当に? なんかこう、嫌な予感しかしないのだけど……。
「はい。それではね。まず4人グループを作ってもらいましょうかね」
教授棟のすぐ裏、森の入り口に全員集まった所で、ヨボヨボなおじいちゃん先生が杖を突き小刻みに震えながら無情なことを告げる。
いや……マジで?
「グループを作れ」はぼっちな生徒に最も酷な命令なんですよ!
先生、分かっていらっしゃいますか先生!
私がグループを組めるとしたら、クロードとオーギュストしか居ない……!
そう思って血走った目で二人を探すと、あっという間に女性陣に囲まれていた。
くそっ! 間に合わなかった! この人気者がぁ!!!
私にどうしろって言うのよぉ!!!
と、遠くの方に、木にもたれかかって腕を組んでいるフィンセントを発見した。
どうやら、彼もぼっちだ。
「フィンセントぉ〜〜!!!」
ドスドスドス!
わぁ足音がまるで地響きみたい!!
フィンセントもまるでトラックが突っ込んできたかのような恐怖と驚愕の顔を浮かべている。
「なっなんだ!?」
「一緒に組みましょうよ〜〜!」
「ああ!?」
なんでそんな風に引くのかな? なんでちょっと2、3歩引くわけ?
私たち一緒に街をパトロールした仲じゃないの!
「フィンセントも一人なんでしょう? だから一緒に組みましょうよ!」
「別にっ俺は一人がいいから一人で居るだけで友達が居ないとかじゃねえからな!」
「あはははそうよね! でもとりあえず組む人が居ないなら私と組みましょ!」
「……お前、誰とも組んでもらえないんだろ。仕方ない。可哀想だから俺が組んでやるよ」
いや典型的なツンデレ!
フィンセント面白いわー。
もう絵に描いたようなツンデレじゃないですか!
画家だけにね!!
あっそういえば、パトロールの時から流れで下の名前で呼んでるな。
ま、いっか。
「じゃ〜あと2人はどうしましょうか?」
「それなら僕たちを入れてくれる?」
急に後ろから声をかけられ振り返ると、オーギュストがひらひらと手を振って微笑んでいた。
その後ろにクロードも居る。
更にその背後から、グループを断られたらしいA組女子からの殺意のこもった視線が飛んでくる。
めちゃくそ怖い。
「な、なんで!? 彼女たちは!?」
「なんだか収拾がつかなくって。それに、クロードが君のことすごく気にしてたしね」
「そんなんじゃない。ただ学園長先生から、サンドラを頼むって言われただけだ」
オーギュストのからかいを含む視線に、さらりと躱すクロード。相変わらず表情は変わらない。
知ってる知ってる。
レオナルドから、私の単独行動は危ないから付いててやってくれって言われてるのよね。
本当、子守り番にさせられてて可哀想だわクロード……。
でも、この4人なら一番気心が知れてるし、私として万々歳!
やったね!
まあ、A組女子の視線を気にしなければ、だけど……。
しかも、今気付いたけどB組女子からの殺意も感じる。
フィンセントもイケメンだし、もしや「怖くて話しかけられないけど憧れてる」対象なのかな!?
ヒィッ!!!
私、このままじゃ女の子の友達出来ないんじゃないの!?
それは嫌ーーー!!!
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