第3点 王子様は万能の天才

 

 やっぱり!!

 やっぱり父だったよ!

 樽でも一応公爵令嬢なんだから、部屋にノックもなく入って来れるのは父親くらいだよね。

 いや、父親でもノックはして欲しいけど!


 にしてもお父様めっちゃ格好いいしイケメンじゃない?

 まず樽じゃない。シュッとしてる。

 でも確かに髪と瞳の色が私と同じだ。

 何でこのお父様から樽が2人も生まれるわけ?

 お母様が樽なの?


「全く。やけ食いの上喉を詰まらせ頭を打つなど。なんと恥晒しな。これ以上家門に泥を塗るな!!」


 思わずビクッと肩が跳ねてしまった。

 イケメンは怒らせると怖いと言うけれど、確かにそうだ。

 めちゃめちゃ怖い……!

 でもさ。

 確かにおっしゃる通り、もう愚か以外の何ものでもないんだけど、一応娘ならもっと先に言うことがあるのでは?


「確かにおっしゃる通りですけれど、他に言うことがあるのでは?」


 おっと。

 ついカチンときて思ったことほぼそのまま言ってしまった。


 私の言葉に、お兄様とお父様が目を見開いて驚いている。

 あれ、サンドラってあんまり口答えとかしなかったのかな。

 我儘令嬢ならそれくらいはしてるかと思ったんだけど。


「っいいからもう大人しくしておけ!!」


 そう吐き捨てて、お父様はプンスカ怒って部屋を出ていった。

 何あれ。感じ悪ーい。

 バタンッ! ってすごい音して扉が閉まったよ?

 あ、ロッセリがめっちゃ扉の状態気にしてる。

 調度の手配も侍女の仕事なのかな?

 いやー、いくらイケオジでもあれはないな。

 ないない。


「……驚いた。サンドラがお父様に反論するだなんて。いつもお父様の顔色を窺っていたのに」

「そうなのですか?」

「5年前のことがあったからね……」

「5年前?」

「そうか。それも覚えていないんだね。5年前……」




 ジョヴァンニは、過去の事件について語ってくれた。


 5年前。

 サンドラが12歳の頃。

 サンドラとサンドラのお母様が、二人で買い物に行った時のことだ。

 公爵家ともなれば、本来は全て馬車で移動して街を歩いたりはしない。お忍びでもなければね。

 けれど、どうしても広場の屋台に売っている飾り飴が欲しかったサンドラが、壮絶な我儘を繰り出し、無理矢理にお母様を引っ張って行ったのだそうだ。

 元々そんな予定はなかったため護衛は一人しか居なかったし、飾り飴を目にした途端急にサンドラが駆け出したおかげで、護衛はそれを追いかけた。

 一人取り残されたお母様はたまたま側にいた酔っ払いに絡まれ、なんと運悪くそいつがヤバイ奴で、ナイフで刺されて命を失ってしまったのだという。

 お母様のことを深く愛していたお父様は、それはもう悲しんだ。

 以来、原因を引き起こしたサンドラに、冷たく当たるようになったのだとか。



 ……うん。サンドラが悪い。

 いくら子供だからと言って、12歳は十分に分別が付く年頃だ。

 自分の立場を理解していなさすぎる。

 これは……普通なら相当な罪悪感を感じていたんじゃないだろうか。

 お父様に頭が上がらなくてもおかしくない。

 とはいえ、目の前で母親を殺された子供に冷たく接することが、父親として正しいとは決して思えないけれど。


「そうだったんですね……」

「でもサンドラのせいじゃないよ! まだ子供だったんだし」

「そうですが」


 コンコンッ


 私たちの会話を遮って、軽いノックの音がした。

 そしてガチャリと扉が開き、何やら執事っぽい人が入ってきた。

 なんだなんだ。

 登場人物が多いな。


「お嬢様、お目覚めになったと伺いましたが、どうやらお元気そうですね。ではすぐにお支度を。レオナルド殿下がいらっしゃっています」


 執事さん、ずいぶん塩対応ね?

 もうちょっと労りの言葉とかないのかね? 3日ぶりに起きたのよ?

 てかレオナルド様って誰? もしかしてサンドラの婚約者のこと?

 王子って言ってたよね。


 ところでなんで王子にはみんな「レオ」が付くんだろ。ラノベのセオリーかなんか?

 レオンとかレオンハルトとかレオナルドとか。


 そんなことを思いながら、あれよあれよという間にロッセリに身支度をさせられて客間へと向かう。

 ちなみにジョヴァンニは「またあいつが無礼なことをしたら追い返していいからね!」と言って去っていった。

 そんな訳にはいかんでしょう。

 仮にも王子なんだから。


 客間のドアをロッセリに開けてもらい、頭を下げカーテシーをする。

 案外見よう見まねでも出来るものだ。

 もしくはサンドラの体が覚えていた? と思ったけど、隣のロッセリから驚いている雰囲気を感じる。

 サンドラ、仮にも公爵令嬢なのにマナーをちゃんとしてなかったのかしら?

 正しいのかどうかは分からないけれど、とりあえずweb小説を思い出しつつ、きちんとお嬢様を意識した言葉を選んで口に出した。


「レオナルド殿下、ご足労いただき誠に光栄でございます」

「ああ。珍しく随分と丁寧だね」


 その声に顔を上げる。

 すると、輝かしいほどのシルバーブロンドの巻き髪に、澄んだ空のような青い瞳の超絶イケメンが居た。

 物静かな雰囲気で、とても大人っぽい。多分元の私よりも少し上くらいだろうか。

 ともすると甘い雰囲気の色合いなのに、どこかミステリアスな雰囲気を感じる。


 ……と外見を観察したのは0.5秒くらいのこと。

 私の視線はすぐに、そんな麗しいご尊顔よりも、彼の前に出ているコマンドに集中してしまった。


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|レオナルド・ダ・ヴィンチ

|代表作『モナ・リザ』『最後の晩餐』

|「万能の天才」と呼ばれる美の巨匠。

|ダ・ヴィンチとは「ヴィンチ村の」という

|意味である。

|この世界でヴィンチは国名であり、

|王族を示す名である。

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 な、なんだって……!?

 婚約者、レオナルド・ダ・ヴィンチなのーーー!!?

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