氷使いの日常

竹とんぼ

プロローグ

 ………いつもと変わらない日常だった。



 俺の名前は鈴本唯月スズモトイツキ

 現在大学2年生の、しがない学生だ。


 「いい朝だなぁ……」

 

 挽いたコーヒーに角砂糖を一つ入れる。

 ほんのり苦いコーヒーをすすりながら、ニュースを見ようとリモコンに手を伸ばす。


 テレビでは、やや物騒なニュースが流れる。


 「〇〇交差点で、トラックが歩行者を巻き込む事故が……」


 怖いなあと思いつつ、自分は大丈夫だろ…と、一切気を向けなかった。




 今日は休みで何をするかも決めてなかったから、とりあえず新作のゲームソフトでもやろうとカセットを差し込もうとしていると…



 プルルルル…



 「あれ、こんな時間に電話…?」


 鳴り響いているスマートフォンを見ると、そこには幼なじみのアイコンが表示されていた。

 

 「マジかあ……」


 無視すると面倒な相手なので、ため息をつきながら画面のボタンをスワイプした。


 「もしもし、いつき?」


 「…なんだ?俺の充実した休日を邪魔しに来たのか?」


 「充実したも何も、またゲームして一日過ごすつもりでしょ」

 

 …俺の幼なじみ、勘良すぎだろ。


 「別にいいだろ……することないんだしさ」


 「…課題は?」


 ぐっ……確かにあるにはあるが……


 「明日もあるんだ、今日やらなくてもいいだろ」


 「これでよく成績上位取れるね」


 「お前みたいにテスト前にだけ勉強するわけじゃないんでね」


 「………」


 徳を積めば自分に返ってくる。

 俺のじいちゃんはそう言い聞かせてくれた。


 それと同じように、勉強だってすればそれだけ結果が返ってくる。

 だから俺は普段から人助けだってするし、勉強も真面目にこなすようにしている。


 「はあ……だからってさ、だらけていいって訳じゃないんだからね?いつきも外に少しは出なよ」


 「うるせー、余計なお世話だよ」


 お説教じみた幼なじみからの忠告は、これまで嫌という程聞いていた。


 しかし流石の俺も、幼馴染との電話で休日を捨てたくはない。


 「…分かったよ」

 

 「やけに素直ね?明日は大雪かしら。まぁとりあえず私これから用事あるから切るね。どうせ新作ゲームやるために早く切りたいんだろうし?じゃあね!」


 …なんでバレたし…。


 ただ、あいつの言うことにも一理はある…。

 ちょっとだけ外を歩こうと、裏起毛のズボンに 流行りらしいぶかぶかのトレーナーを着込んだ。




 特に行く所もなかったので、散歩がてらよく行く公園に立ち寄ることにした。


 「あっ、お兄ちゃん!ボール遊びしよ!」

 彼女は近所に住む女の子だ。

 俺のことを " お兄ちゃん " と慕ってくれる、数少ない人物だ。


 彼女からボールを受け取ると、優しく投げる。

 彼女が受け取ると、目一杯の力で僕の体に当てようとしてくる。

 大振りな姿勢を取りながら投げてくれたボールは、自分を捉えられず、道路に向かって転がってしまう。


 「あ、お兄ちゃんごめん!」

 「大丈夫だよ!ちょっと待っててね」


 やけに転がるボールを追いかけると、そのボールは道路へと飛び出してしまった。

 車が来る前に拾わないとという思いと、彼女のために急いでボールを返してあげようという気持ちから、左右の確認を怠ってしまったのだ。



 プップーーーーー…………。



 最後に聞いたのは、無慈悲にもトラックのクラクションの音だった。



 ※



 「………はっ…。」

 俺、死んだのか?

 手を握ったり開いたりしたり、周りを見渡してみる。


 「…天国…ではないよな。トラックに轢かれるなんて、人を助けたならともかく……。悪いことしちゃったな………。」

 しばらく悩んでいると、コツ、コツとヒールを踏むような足音が聞こえてくる。


 「………お目覚めですか。」

 

 白髮のショートボブに、純白のワンピース。

 いかにも天使様っぽい人が来た。


 「あ、あのえと……ここは………?」


 「ここは天国と地獄の間です。あなたはトラックに轢かれて死んでしまいましたね。」

 我ながらなんて情けない死に方だ、と自己嫌悪に陥りそうになる。


 「はい……えーと、それで俺は……やっぱり……」


 「地獄に行ってしまうのではないか……そう悩んでいますね?」

 なんてこった、天使様にはお見通しみたいだ。


 「安心してください。あなたは生前、数え切れないほどの徳を積んでいます。地獄に落ちるような人ではありませんよ。」


 「じゃあ、天国に…?」


 地獄じゃないなら天国か、そう思った。

 

 「いいえ。あなたのその心優しさ。まだ手放すのには惜しいのです。もしあなたがよろしければ、新しい人生を歩んでみませんか?」


 「あ、新しい人生?」


 新しい人生?まさか、赤ちゃんからやり直すんじゃ…と思ったが、また別の話のようだ。


 「あなた方の世界では、いわゆる " 異世界転生 " というものにあたるところです。あなたはアニメや漫画を好んでいたようですし、ご存知なのではないですか?」


 え、待ってこの人。

 どこまで俺のことを知ってるんだ?


 でも、たしかに異世界転生モノはライトノベルで読んだことがある。

 ただ、それは創作の話であって、こんな現実にありえていい話なのだろうか……。


 「…新しい人生、嫌ですか?」

 少しばかり不安げに質問をしてくる。

 

 「いや!!あははー!楽しみだなぁー!!」

 天使様の不安げな顔が心苦しく、またから元気な答えを投げる。


 「……お人好しな人………」


 ボソリ、何か聞こえた気がするが気の所為だろう。

 それよりも一番気になるのはどんな世界なのかだ。

 転生モノといえば魔王討伐とか?最強能力もらっちゃったりするのかな?


 「それで、どんなチート級能力がー……」


 「? そんなのありませんよ?」


 えっ、?う、そ、うそだろ?

 異世界転生といえばチート級能力で最強になって、わーきゃーされながら魔王討伐じゃないの!?


 「え、じゃあ何がもらえるんですか!?」


 「なにもないですけど………」


 「え、お金とかも…?」


 「そんなの渡せるわけないじゃないですか!天使の仕事も安月給でそんなあげれるほどのお給料ないんですよ!!」


 天使の仕事ブラックすぎだろ!!

 悪魔か!!悪魔だろ!!


 「え、じゃあ素っ裸で転生するってこと?」


 「はい!」


 はいじゃねえよおおおおおお!?

 そんな満面の笑みで肯定されたら何も言えないじゃんかあぁぁぁぁぁぁぁ!!


 「え、そんなば」


 「あっ、すみません!後ろが詰まってるので!早速転生させますね!!」


 「えっま」


 「安心してください!なるべく村の方に飛ばせるように頑張りますので!!」


 怖いよ!!すっごく不安だよ!?

 2度死にとか嫌だよ!?


 てか転生先の情報何も得れてないよ!?

 どんな敵いるの!?

 それくらい教えーーーー

 

 あ、すっごい気持ちいい…光感じる………






 「あなたの新たなる人生に、神の御加護があらんことを……。」

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