第6話



 あれから一週間、フリーズの特訓は無事終わった。

 フリーズ・・・・も安定して出せるようになって、イーファちゃんのお墨付き。


 しかし、この世界に来てからの一番の悩み事、それは。


 「暇だ……。」



 そう、この世界にはスマホやゲームなんて楽しいものはない。

 なら娯楽施設に行けばいいんじゃないかと思うだろう。


 ここ、しっかり村。

 家や畑など、自然に囲まれてはいるものの、遊べるような場所は一切ない。

 唯一図書館が暇をつぶせそうだけど、字が読めないと何も楽しめないし…。

 

 人助けをしようにも、人口の少ない村だから助けを求める声もほとんどない。

 というか俺が行ったところで助けにならない気がする。



 「うーん…勉強したいけど本も読めないしな…」


 何より今までは大学生だったわけで、学校に行っていた。

 それが、今では毎日休み状態…。


 なにか埋め合わせできることがないと、落ち着かないな…。



 そういえば、俺っていま日本語で喋ってるよな。

 日本語の語彙をフル活用して、セルフしりとりでも……



 「待てよ…なんで俺の日本語が通じてるんだ?」



 よくよく考えたら、この世界に来てから対話に不便を感じたことはなかった。

 文字を見る限り、この世界の言語は日本語と異なっている。

 なのに、話すことはできる……。


 まさか、無意識に魔力を使って翻訳でもしてるのか…?

 いやいや、魔力で翻訳なんてそんな……。

 ……ちょっとだけ試してみるか。


 えーと…あった、イーファちゃんが、暇つぶしにって借りてきてくれたこの世界の絵本…。

 文字を見て…魔力を頭に流すようにして……………。


 ……!!


 読める!

 日本語が浮かんできた!!


 「えーと、なになに……?王女様は知らない男に手籠めにされてしまいました、王子様は泣きました………」


 バッドエンドの絵本じゃねえか!!!!

 なんでこんなのが幼児向けの絵本になってんだよ!!!


 ただ……魔力で翻訳ができるという意外な事実が分かったし…。

 ギルドに併設されてる図書館でも行ってみるか。

 



 *



 「結構広いな…。」


 本のジャンル自体は現実とあまり変わらない。

 少し違うのは、この世界独自のモンスター図鑑や地図があることくらいか。


 ふと目に入った本を手に取る。

 氷の大賢者・・・・・ と書いてある。


 近くの席について、本をパラパラとめくってみる。


 「なになに…? 氷の大賢者とは、この世に生を受けた最強の魔法使い…。」


 要約するとこうだ。


 氷の大賢者と名乗る人は、若くして魔法使いの片鱗を見せ、魔王を倒す者となると騒がれた…。

 17の年、魔王討伐に向かった大賢者を含む4人の勇者…。


 とうとう平和の訪れかと言われた数カ月後、伝書鳩により勇者一行の負けを伝えられた。

 民は悲しみに溢れ、これ以上の力の持ち主は訪れないだろうと言われた…………。



 「大賢者様かぁ…。」


 いかにもファンタジーな人だな。

 しかし、この世界には魔王がいるのか…。

 ただ、大賢者様が負けたということは、凡人では一切の太刀打ちができないのであろう。


 ま、暇つぶし出来たしいいか。

 次は何読もっかなぁ…。



 「お!イツキ君じゃないか!」


 「あ、どうも!」


 オークのときにお世話になった、コルムさんだ。

 今日も大剣を背負っている。



 「コルムさんは何をしに?」


 「コルムさんって、なんかよそよそしいな…。コルムバーク…コバッさんって呼んでくれ!で、あーえっと?何をしにかってな。街に行く用事ができてな。最近魔物の数が増えてきたから調査してほしいんだとよ。ま、あそこは腕っぷしも多いから何故呼ばれたのかは知らんがな。」


 なるほど…。

 やけに語るなと思ってほとんど聞いてなかったわ。


 「あー、つまり…街で人助けってことですよね?」


 「お、そうだな!」


 なるほど、街か…。

 街と言うくらいなら広いだろうし、情報も豊富にあるだろう。

 ここを出て、街へ行ってみるのもありだな…。



 「あの…ついていってもいいですかね。」


 「ああ、構わんが……。だが、街の方のの魔物はこの近くのヤツより強いぞ?バカにするわけじゃないが、多少の怪我は覚悟しておけ。」



 ま、レベルもまだ低いし多少のダメージは仕方ないだろう。

 成長するには冒険をしなきゃいけないしな。

 可愛い子には旅をさせよ…ってのもあるしな、なんつって。


 「行くなら世話になったやつに挨拶をしておけ。街は近い場所じゃないからな。」


 「え、そんなに遠いんですか?」


 「えーと…これくらい?」


 いや距離を手で表すやついる?



 「まあ、馬車で一日かかるな。」


 「なるほど…。」



 「とりあえず、出発は3日後だ。行くなら準備をしておけ。」


 ま、イーファちゃんと離れるのは惜しいけど……。

 仕方ないよな、レベルアップのためだし。



 仕方、ないんだよな…?






 *




 「…………。」

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