第5話
「…あの、これは一体?」
俺の腰の高さくらいの机に、木と鉄でできたイス。
学生時代に嫌というほどお世話になった机とイスだ。
「これはですね、学校に置いてあるモノで、そこに座って文字を書いたり本を読んだりできる…優れものなんです!」
そっか、なんか詳しく説明されてると思ったら、俺こっちだと読み書きできないって思われてるんだもんな。
まぁでも…学校があるのは元の世界と変わらないんだな。
懐かしい…。
「さあ、座ってください!」
「よろしくお願いします、イーファ先生」
学生時代、といっても数日前までのことだが。
思い出しながら、席に座る。
今日は、魔法スキルの特訓をするらしい。
「まず、魔法スキルには
イーファちゃんが言うにはこうらしい。
属性魔法は、5つの属性に分けられる。
火、水、風、氷、雷。
無属性魔法は、大きいものが3つと、細かい派生スキルが数え切れないくらいあるらしい。
大きいものは、重力、時間、光。
「みんな一つの属性しか扱えないわけじゃなくて、練習すれば他の属性もある程度は使えるようになります。」
「あと、魔法スキルには決まったスキル名がありますが、人によっては応用して新しいスキルを作っちゃうこともあります!」
「なるほど…」
今までやってきたファンタジーゲームと同じ感じだな。
「いま教えた魔法は、レベルでその威力が変化するんです!なので、イツキさんのフリーズはまだまだ低レベルなんですよ!」
「????????????????」
サラッと悪口言われた?
いや、レベルが低いからまだ弱いのは確かだな。
レベルを上げればスキルも覚えられるだろうし、とにかく練習が必要みたいだ。
「座学はこの辺にしておいて…実践しましょう!」
ん?
今なんて言った?
実践…?
*
「うおああああああああ!?」
絶賛スライムと実戦中。
ゲームファンタジーの弱いスライムと違って、なんか毒液を飛ばしてくるから非常にまずい。
てかこれ当たったら死ぬだろ絶対。
「イツキさん!フリーズです!」
「どう見てもさわれないよねこのスライム!?」
「指先に魔力を集中させるんです!触っていなくても、思い切り飛ばすイメージで放てば、離れていても凍らせられますよ!」
なるほど、飛ばすイメージ…。
指先に魔力を…………。
「ぬぬぬ………!!」
なんか流れてる気はするけどうまくコントロールできない…!!
つかめない物体みたいな感じで逃げられてる感じがする……!
「ああっ、止めてください!魔力が漏れてます!」
「え、ああっ!!」
しまった、魔力の無駄遣いだ…!
これじゃ、ただでさえ打ちづらいフリーズが打てなく……
その瞬間、生暖かい液体が腕にかかるのを感じた。
「ああっ、イツキさん!?」
*
「いてて……焼けてるみたい………」
「も〜〜!油断しちゃめっ!ですよ!私が回復スキルを持ってなかったら、今頃もっと苦しんでましたからね!」
イーファちゃんがぷんすこ怒りながら、回復してくれる。
確かに魔力の操作に意識を集中させすぎた。
けど、ゲームみたいに簡単に出せるわけじゃないんだな…感覚がいまいちつかめない。
「う〜ん……あっ!」
イーファちゃんがぽんと手を叩く。
「魔力の動きを感じて慣れましょう!実戦をするのはまだ早いみたいなので、私がイツキさんに魔力を流してみますね!」
「?」
*
場所はかわりコノート村、風牙の刃のアジト。
俺は今、イーファちゃんと恋人繋ぎをしている。
「どうですか?ゆっくり魔力を流してみてるんですけど…。」
「うん…指先から流れて来ている感じがする。」
指先から腕、脊髄。
最後は頭だろうか。
魔力が流れてくるごとに、魔法やスキルを出す位置のイメージがなんとなくついてきた気がする。
にぎにぎ………。
「♪」
「……これってこのつなぎ方じゃないとだめなの?」
「い……ダメです!これしかありません!!」
あ、隠したなこの娘。
絶対意図的にやってるなこれ。
「じゃあ、今度は私に向けて魔力を流してみてください。今のイメージですよ、ゆっくり…優しく………。」
「ゆっくり…優しく………。」
先程のように指先に意識を集中させる。
体の中から指先に、ハッキリと何かが通る感覚がある。
「んっ…そうです……。きてますよ……。」
よし、なんとか魔力は流せたみたいだ。
あとは、この魔力をフリーズに変換する技術を養えば……。
「……これいつまで続ければいい?」
「もうちょっとだけ……すぐやめますから……。」
あの、魔力無くなりそうなんですけど……。
しかしこれ、結構照れるな……。
*
「ふぅ………。」
あれから魔力をイーファちゃんにすべて吸い取られ、脱力感と疲労感に包まれる。
イーファちゃんはご飯を作ってくれるらしく、下に向かった。
ベッドに腰をかける。
「俺って…この世界に適応できてるのかな……。」
この世界に来てから何日か経った。
ここにある本を読み漁って、なんとか文字を読めるようにしたいと思ったが日本語訳がないから結局読めなかった。
まあ言語解読スキルみたいなの習得すればなんとかなるだろ。
ただ、この世界についてはまだ謎なことが多い。
謎なことが多いということは、知らないことが世界にはたくさんあるということだ。
漠然とした不安。
俺は生きていけるのだろうか?
こうやって誰かに支えられ続けて、そのままなのだろうか?
いや、そんな頼りないことをしてちゃダメだ。
練習、人を助けられるくらい強くならなきゃいけない。
目標も必要だ。
生きる目標………。
「とりあえず…異世界なんだし冒険者的なのを目指してみるか……。」
ま、こんなところだろう。
今の自分にはできないけど、そんな目標があればやる気も出る。
「イツキさん、ご飯できましたよ!」
「ありがとう。あのさ…明日また訓練に付き合ってくれないかな?」
「…!もちろんです!」
*
「フリーズ!!」
腕から手を抜ける感覚、昨日よりもはっきりと。
手先、正確には手のひらあたりから冷気が小さな音を出して、スライムに命中する。
スライムは当たった箇所から、パキパキ…と音を立てながら凍り始めた。
「………よし…!成功した!!」
「おめでとうございます!イツキさんっ!」
スライムは数秒程度で透明な固体に包まれ、凍ってしまった。
初めての魔法スキル、成功の瞬間だった。
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