第4話



 「うおおおおおおおおお!!!!」



 オークの走りに合わせるように、村の人達が一斉に突撃した。

 剣や弓などの音が大きく響く。


 「俺もやるぞ…!」


 足を踏みしめ、剣の柄を握る。


  

 「おらぁっ!!」


 周りを参考にしながら、おもいきり剣を振る。


 肉を裂く感触がした。

 しかし、剣というのはマンガやアニメみたいに、簡単に相手を斬れるわけじゃないようだ。

 

 「あれ…?」


 あ、オークさんちょっと剣振り上げるのやめてくれませんかね。

 


 「うおああああああああ!!?」


 その瞬間、グォンという音とともにオークが真っ二つになる。


 「イツキ君、無理して戦いに行くな!!お前は嬢ちゃんを守ってろ!!」



 コルムさんは一喝すると、また戦いに向かった。


 「……俺って戦力外…?」


 「…そんなことないですよ。剣を初めて持ったんですし、おぼつかないのも仕方ないですよ?」


 惨めなものだ。

 年下の女の子に、こんな慰め方をされるなんて。


 村の人達はオークの侵攻を完全に抑えている。

 俺がいないほうが、戦いやすいんだろうな…。


 戦いを客観的にしか見ることしかできず、うつむきかけたその時。


 

 「グルル…」


 後ろから唸り声が聞こえた。

 振り返ると、オークがイーファちゃんめがけて剣を振り下ろそうとしていた。


 「危ないっ!!!!」


 先程とは違い、気持ちのいい金属音が響く。


 「イツキさん!!」


 大丈夫、俺だって力が弱いわけじゃ……無い!!!


 オークを思いっきり押し返し、少し距離を開けた。

 苛つきを溜めたオークは、もう一度俺の方に向かってくる。


 「グルルル!!」



 集中しろ…。

 相手の動きをよく観察しろ…、防御に専念するんだ。

 後出しで防戦一方な競い合いをするしかない。


 「横だ!!」


 オークは横向きに薙ぎ払うように剣を振った。


 刃先を下向きに、脇腹を守るように剣を構えた。

 思いっきり力を込める、少し押されたが追撃に備えてまた構える。


 さっきよりも出来てる。

 剣の持ち手が、自分に馴染んできている感触がする。


 何度も金属音が響き、その度にオークの攻撃を防ぐ。


 

 この調子なら、増援まで耐えられる…!!


 そう思ったとき、俺は後ろを見るのを怠っていた。



 「きゃぁっ!!」


 叫び声が聞こえたときには、武器なしのオークがイーファちゃんを押さえつけていた。


 周りに戦えそうな人はいない。


 俺が助けるしかない、でもこのオークで手一杯だ。


 また身を挺して助けるか?

 でもオークは2体だから、守ったところで共倒れだ。


 一か八か。


 俺は目の前のオークが剣を振り下ろす寸前、間合いを詰めて剣を刺した。


 オークは唸り声を出すと、地面に倒れた。


 剣を抜く暇はない。

 とにかくイーファちゃんめがけて走り、急いで助けようとする。


 剣がなかったので、横からオークに体当たりをした。

 力の競い合い。


 「このっ…うおあああああああ!!!!!!」



 死ぬ気で叫びながら、必死でオークの体勢を崩そうと力を込める。


 オークは驚いたのか、イーファちゃんから手を離し、こちらに対して殴りかかってきた。


 ダメージ覚悟でオークを抑え込む。

 人生で一番力が出ていた瞬間かもしれない。


 とにかく、攻撃させまいと腕に力を込めた。


 必死で、目を閉じて、呼吸を忘れるほど。


 今までで一番集中していただろうか。

 その瞬間、手に何かが・・・通る感覚があった。


 パキ…パキ…と割り箸を折るような音が弱く響いた。


 

 オークの押し返す力がいきなり弱くなったので、目を開けてみると、そこには完全に凍ったオークがいた。


 「え…!?」


 俺が…やったのか?


 俺が…凍らせたのか?



 いや、そんなことより……



 「イーファちゃん…!!ケガはない!?」


 急いで大丈夫かと駆け寄る。


 「だ、大丈夫ですけど…腰が抜けちゃって…。」


 「そっか…良かった…。」


 イーファちゃんが無事なことに安堵し、忘れていた呼吸を行う。



 「まだ動けないよね…。じゃあ…ほら、背中に乗れる?」


 まだ立てなそうだったので、おんぶを提案した。


 「あ、えっと…ありがとうございます。」



 華奢な手が首に来たことを確認してから、おじさんの方へと向かった。


 

 「そういえば…氷魔法、使えましたね!」


 「あれは…なんかまぐれだよ。気がついたら凍ってた感じだし。」


 そう、あくまであれはまぐれだ。

 実力でコントロールが出来たわけじゃない。

 

 「…でも、あの場面でスキルが発現するなんて、すごいです!」


 「そ、そうかな?」


 「はい!そ、それに……ちょっとカッコよかった…です。」



 ………照れるな…。

 でも、スキル自体は出せるんだ。

 

 これから練習すればなんとなるはずだ…!



 「おーい!!イツキ君!!」


 コルムさんの方も、戦い終わったみたいだ。

 

 「やあ、さっきは強く言っちゃってごめんな。……その顔だと、一仕事したな?」


 「ええ…「イツキさんすごいんですよ!土壇場で魔法スキル、フリーズを使っちゃうんですもん!」


 めちゃめちゃ興奮してるなこの子。

 ちょ、そんな揺れると落としそうになるって。



 「あのひよっこが魔法をなぁ…」


 いやコルムさんもしみじみすんな、成人した息子を見送る父親かよ。

 

 「あー…ただ、魔法スキルを出せはしましたが、意図的に出すのはまだ難しそうです…。」


 「なるほど…だが、一度出せたなら、素質はある!俺はそんなテクニックを使えないから、そこの嬢ちゃんに使い方を教わるといい!」


 いやこの展開ならあんたが師匠ポジになるんじゃないんすか。

 いかにもじゃん、この展開って。



 「じゃあ…イツキさん!明日からいっぱい特訓、しましょうね?」



 まじか………。


 「お手柔らかに………。」

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