第7話



 特訓終わりのお祝いに、お風呂にやってきた。

 いや、お風呂屋って隠語じゃないからな。


 銭湯だよ銭湯、なんでもこの村の湯はリラックス効果が抜群と。

 体を労うためとイーファちゃんが提案してくれた。

 早速入ろうと、受付のおばちゃんに声をかける。



 「あら、初めて見る顔だね。旅人かい?」


 「まぁ、そんなところです。」



 おばちゃんはにこやかに微笑むと、少し話を始めた。


 「ここの温泉はリラックス効果があるのよ。それと、親睦を深めやすいようにと思って混浴にしてるの。」


 へー、効能は本当みたいだ。

 しかも混浴…。


 混浴?


 ちょっまち、す、あ、混浴!?

 混浴なの!?


 今の時代混浴は多方面から騒がれちゃうよ!?

 あ、ここ異世界か…。


 じゃなくて!!!!



 「ここ、こ混浴なんですか!?」


 「え、ええ。そうだけれど…。」



 待った俺は女性の裸体なんて一度も見たことがないし今後見る機会もないと思ってたのにまさかこんなとこでいやここで見ちゃいけな…………………………。





 *






 「お背中流しますね?」


 「あ、ああ。ありがとう。」



 いや普通に考えたらタオル巻くよな。

 異世界で驚きの連続すぎて常識忘れてたよ…。


 ちなみに洗面所は男女別だったため、裸とかも見てない。

 本当に。



 しかし、夕方なのに人がほとんどいない。

 浴場の広さもあるぶん、少なく見えているだけかもしれないけど。


 


 それにしても…イーファちゃんの体ってちっちゃいよな…。

 傭兵団所属と言っても、まだ15歳の子供に過ぎないもんな。


 彼女は気にしてない素振りだけど、苦労してるんだろうな。

 強い子だよ、君は。



 「えっと…前も洗いますね?」


 「え、いや、前は自分で洗うよ!」


 「え、遠慮しないでください!」


 「ちょ、だめだって絵面的に!」





 *



 なんとか前の方は自分で洗えた。

 今は、ゆっくり湯船につかっている。


 …未だに、あのこと・・・・については言い出せない。

 行くと決めておきながら、イーファちゃんと離れるのが少し寂しいのだ。


 …でも、そろそろ言わないとな…。


 「あ、あのさ。話があるんだけど…。」


 「どうしましたか?」



 …言えない。


 彼女と離れるなんてこと、自分の口から言いたくない。


 でも、言わないと。今までの恩もある…。



 「あ、まだイツキさんの髪の毛洗ってませんでしたね。もうちょっとしたら洗いましょっか!」


 「あ、そ、そうだね。ありがとう。」




 *




 バスチェアに座り変えて、頭を洗ってもらう。

 …よく考えたら自分で洗えばいいよな。


 まあいっか、心地良いし。



 「そういえば、イツキさんはどこ出身なんですか?」


 …しまった。

 自分の身の上話について何も考えてなかった。


 別の世界なんて言っても伝わらないだろうし…。

 適当な村の名前でもいってみるか…?



 「………ずっと、遠い村だよ。コノート村と街より、何倍も離れたところ。」


 「へー…。そんなに遠くから来てたんですね!……でも、なんで帰らないんですか?」


 「……引っ越ししようと思って、かな?」


「引越しですか…。……そういえば、スキルについてもあまり知っていませんでしたよね?冒険者ギルド、とかはなかったんですか?」


「…………なかったよ。家が数軒しかない、すっごい田舎だったんだ。」


「ん……、そうなんですね。」


 そうこう話していると、泡立てきったシャンプーが頭から流れる。

 なんとか乗り切った…で良いのかな。



 ……話せなかった。

 ……上がった後に、上手く言うしかないか…。




 「あ、ありがとね。じゃあそろそろ上がろうかな……。」


 バスチェアから腰を上げて、外に出ようとすると、



 「………イツキさん、何か隠してませんか?」



 あ、まずい。

 街に行くこと、もしかしてバレてるのか?

 


 「い、いや…その…」


 「私…聞いちゃったんです。イツキさんとコルムさんの会話。」

 

 「………隠してるわけじゃなかったけど…話せなくて………………………………。でも…ほら!街に行けばもっとたくさんの事に触れられると思って…!」


 「……私を置いて、ですか?」



 イーファちゃんの視線が刺さる。

 …俺だって君と離れたくない。



 「離れたくないさ…でも、君は傭兵団に属しているから、ここから離れるのは良くないんじゃないかって….思って……。」


 「ッ………。」



 「…そうですよね……。…………いや、イツキさんも自分を磨くために行くんですもんね!すみません、変なこと言って…。」



 「…あ、いや…大丈夫..だよ……。」


 水面みなもの揺れる音が嫌に響く。


 「わ、私…先にあがりますね…。イツキさんも、早く出てきてくださいね。」



 「う、うん…。」




 *





 しばらくして上がると、イーファちゃんが顔をうつむけながら待っていた。

 鼻をすすっているので、おそらく泣いていたのだろう。


 すると、こちらに気付くと立ち上がって声をかけてきた。



 「今考えたんです…。イツキさんは離れてほしくないけど、あなたもレベルアップはしなきゃいけないことはわかってるんです…。…………わがままなのはわかってます………私も、ついていっちゃだめですか?」


 「………本当に?…嬉しいよ。でも、君は………」


 「傭兵団は…調査派遣の名目で行けないか相談してみます。だから…」



 か細い声で懇願してくる。

 ……彼女がそこまで考えてくれているなんて…。


 そっと、イーファちゃんを抱きしめる。

 

 「ありがとう………。」




 それ以上の声は出なかった。

 


 

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