第8話
「おい、準備はできたか?」
『大丈夫です!』
普通の人なら熟睡しているであろう時間。
俺はイーファちゃんとコバっさんと共に、街へ向かおうとしていた。
幸い俺の荷物は少なく、軽く済むかと思ったが…
「おっっっっも!!」
イーファちゃんの荷物重すぎじゃない?
石鹸とか日用品全部持ってくタイプか………。
「だ、大丈夫ですか?」
「こ、これくらい………」
やっと載せられた...。
どんだけ持って行くんだ...?
でも...ほとんど積み終わったな。
「よし、そろそろ出発だ。途中で眠くなったら寝ていいからな。」
「わかりました!」
*
支度が終わり、馬車はコノート村から離れ始めた。
お世話になった村を出るのは少し寂しいが、街へ向かうことの高揚感がその感情をかき消す。
村付近の草原を抜けて景色を見るのは初めてなので、初めての動物やモンスターが目に入る。
「あ、イツキさん!ヤギがいますよ!」
「おぉ!草食べてるね!」
そして、この世界の動物は、現実と変わらないものもいるらしい。
見渡すと、ヤギ以外にも牛のような動物や鳥も生息している。
「おい、あまり乗り出すなよ。この辺のヤギはギタイスライムの可能性もあるからな。」
「ギタイスライム...?」
「簡単に言えば動物のふりをして人を攻撃するスライムですよ!」
「へー...あのヤギこっち向かってきてるけど。」
一匹、二匹、さんしいご....
いや全部ギタイスライムなの?
40匹はいるよ!?
「まずいぞ!おい御者!もっと早く動いてくれ!」
「いや旅人さん、これ以上は無理ですって!」
話しているうちにヤギはこちらへ向かってくる。
早く手を打たないと、馬車もろともゲームオーバーだろう。
「荷台に弓か何かはありませんか!?」
「弓か?あるぞ!使えるのか?」
「多分!!」
異世界転生後初めての遠距離武器だが、少しでも時間を稼ぐ必要がある...。
しかし、俺には弓を扱えるという確信がある。
高校時代、珍しい部活第5位くらいのライフル射撃部に所属していた。
...いやダメか。
せめて弓道部ならまだしも、ライフル射撃は役に立たないか...?
「いや、一か八か!!」
矢筒から矢を一本取り出し、羽根の部分を摘んで引き絞る。
距離はだいたい500mは離れている。
ヤギは時速40kmものスピードで走ると聞いたことがある...つまり、猶予は数分くらいだろう。
息を整える暇もない。
少し上に向け、指を離す。
バシュッと空を切る音と共に、鋭く矢は放たれた。
あとは届くかどうか...!
「...だいぶ、近くに刺さったな。」
「100mも飛んでないですね...」
俺の放った矢は、情けない弧を描いて地面に落ちた。
不甲斐なさすぎる...。
そうこうしているうちにヤギは、400m程度まで近づいていた。
「イツキさん、私にやらせてください!こう見えても、射撃スキル持ってるので!!」
「わ、わかった!」
イーファちゃんに弓を託すと、素早く引き絞り、矢を放つ。
その一本はヤギの頭を貫くように刺さり、その個体はよろけた後動くのをやめた。
「す、すごい...!」
「イツキさん、次!」
急かされるままに矢をどんどん手渡すと、イーファちゃんは続々と矢を命中させて行く。
あと2匹、もう終わると思った瞬間、横から何かがぶつかったような衝撃を受けた。
「きゃっ!?」
「しまった!死角からも来てやがったか...!」
別の場所にいたギタイスライムが荷台に体当たりをしてきたらしい。
大きく揺れ、イーファちゃんは体制を崩してしまう。
「大丈夫!?」
「な、なんとか...でもヤギが...!」
もう100mもないほど、ヤギは近づいてきている。
この距離なら矢も当たるだろうが、引き絞る余裕がない。
こうなったら...!!
「だあぁああああああっ!!」
俺は剣を握りしめ、ヤギに向かって飛び込んだ。
1匹さえ倒せば、もう片方はコバっさんがやってくれると信じて。
しかし、加速している馬車を飛び降りたらどうなるかを想定していなかった。
「あ、死んだ。」
*
「....」
「....」
結果的に、ヤギが俺に気を取られている隙にコバっさんが仕留めてくれたらしい。
しかし、俺は地面に叩きつけられるわ体当たりを受けるわで満身創痍。
イーファちゃんの治療も、いつもより長い気がする。
「...まあ、お前のそのチャレンジ精神は流石だと思うぞ。旅人ってのは肝っ玉があるやつがいいからな。だが...もうちょい予測をだな...」
「すみません...」
コバっさんからお叱りを受ける。
イーファちゃんも、どことなく怒った顔をしている。
「...次そんなことしたら、縄で縛って動けなくしますからね。」
「す、すみません...」
あ、これまずい。
聞いたことないくらい低い声だ。
*
「とりあえず、2人とも朝早くから起きてたんだ。少し昼寝でもしたらどうだ?」
コバっさんの言葉に甘えて、俺とイーファちゃんは少し眠ることにした。
「イツキさん...」
イーファちゃんが抱きついてくる。
抱き返すと、既に眠ってしまったようだ。
ふと目を見ると、少しうるんでいるのがわかった。
「...お前のこと、心配してるんだ。これからは無理すんなよ。」
俺は、イーファちゃんの背中をさすりながら眠りに落ちた。
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