第9話



 あれからずっと寝ていたようで、目が覚めたときには街に到着していた。

 コバっさんの声かけに反応して起きようとすると、イーファちゃんはまだ寝ているようだ。


 俺はゆっくりと起きると、イーファちゃんをおんぶするような形で連れて行くことにした。


 「やべ...ふらつく...」


 「大丈夫か?俺が持っても...」



 「いや、罪滅ぼしにもならないですけど...お世話になってるのでこれくらいやらせてください。」



 少し歩くと、武器屋や飲食店など建物が増えてきた。

 この街の名はマンスターというらしい。

 村とは違い、人口がかなり多い。

 道を歩けば、綺麗な装いをした女性や背の高い男性がちらほらと見える。


 「とりあえず、宿屋を取ってるんだ。そこに向かおう。」


 「わかりました」



 *




しばらく歩いていると、イーファちゃんが目を覚ました。


 「んあ... 」


 「お、おはよ。ぐっすりだったね。」


 「あ...ひゃっ!?い、イツキさん!?」


 慌てているイーファちゃんを降ろすと、頬を赤らめていた。

 

 「あ、ありがとうございます...//」


 「いいよ、全然!」


 寝起きのイーファちゃんはまだ足元がおぼつかないようだったので、軽く手を繋ぐ。

 そうこうしているうちに、目的地の宿に到着した。



 「すごい...!街の宿屋ってこんなにも大きいんですね!」


 「そうか、イーファは街に来たことなかったか。いい感じだろ?」



 早速宿の受付でチェックインをする。

 部屋はふた部屋とっているらしく、鍵の1つを渡された。


 「あれ、1本足りなくないですか?」


「いや、お前ら2人は同じ部屋だぞ?」



 『えぇ!?』



 まさかの、俺とイーファちゃんが同室。

 てっきり3人別の部屋だと思っていたので、流石に驚く。

 というかこの年齢の男女同じ部屋にしちゃダメでしょ。

 

 「まあまあ、節約ってことで許してくれよ。」


 「まあ、節約なら...仕方ないです、よね?」


 イーファちゃんこっちをチラ見しながら言わないでくれ...。

 俺はまだ驚きで頭が働いてないよ。



 

 *



 

 コバっさんは仕事があるらしく、街の探索でもしてくれと言われた。

 

 まず、重い荷物を部屋に置きに入る。


 部屋はビジネスホテルを少し広くしたようなイメージだ。

 ベッドは...流石に分かれてるよな。


 お風呂やトイレも完備されている。

 アメニティといった小物も、しっかりと常備されている。


 意外にも、現実のホテルとほぼ同じな感じだ。

 荷物を置くと、やることがないので暇ができる。


 すると、イーファちゃんはもじもじしながら言う。


 「あの、こんな広い街に来るの初めてなので...ちょっとお出かけしたいなー、なんて...」


 「そっか...よし、行こう!」





 *




 

 「わ...!」


 イーファちゃんは初めてのものに目を光らせている。

 ジュースやらお菓子やら、村では見ないような華やかなものばかりだ。


 「これが俗に言うインスタ映えってやつかな...?」


 「いんすた...?」



 「あ、いや、なんでもないよ。それより、何か欲しいものはある?」



 彼女はぱあっと目を光らせると、ある出店を指さしてみせた。

 コモモの実ジュース、ヤギの肉サンド...初めてみる食べ物ばかりだ。

 だが、こんな時のために、コバっさんにお小遣いをもらってきたんだ。



 「いいよ、これ一緒に食べようか。」


 「ほんとですか!?やった...!」



 値札を見て、持たされた硬貨と照らし合わせる。

 ジュースとサンドウィッチを合わせて12ピラ...日本円で1ピラ100円くらいなのかな...。


 まあ、東京ならこれくらいするか。

 

 

 「えーと...これでお願いします」 


 「まいど〜」




 

 *





 ザクリ。

 サンドウィッチのサクサクとした食感を感じる。

 ヤギ肉のジューシーな食感もそうだし、ここの食べ物は最高だな。


 ...どこぞのグルメみたいなことを言ってしまったが、味はとても美味しい。


 ...ま、イーファちゃんの手料理には敵わないと思うけど...。


 そんなイーファちゃんを見ると、幸せそうな顔で口いっぱいにサンドウィッチを頬張っている。


 「いふひひゃん!ほのはんおうひっひおいひいれすほ!」


 「飲み込むまで待ってあげるから、ね?ほら、口元にソースついてるよ。」



 「あ...ありがとうございます...」



 

 しばらくして食べ終わると、洋服を見に行ったり、街中に放し飼いにされているネコに構ってやったりした。



 


 *





 「おう、2人とも帰ってたのか。どうだ、街は広いだろ?」


 「はい!すっごく広くて、楽しかったです!」



 「おうおう、楽しそうでなによりだな。」



 学校であったことを楽しそうに話す子どものように、イーファちゃんは今日の出来事を話す。

 傭兵団として戦ってきた彼女には、街というのは新世界のようなものなのかもしれない。


 

 「そういえば、コバっさん。仕事は大丈夫ですか?」


 「ああ、だが...少し妙なんだ。」


 

 聞くには、街の周りや中にアンデッド、つまりゾンビが発生しているらしい。

 アンデッド自体の強さはあまりないらしいが、なんにせよ数が多く捌ききれないとのこと。


 「しかも、街の人が失踪する事件もあってな。なかなか激務だな。」


 「はぁ...。......あの、俺も手伝ってもいいですか?」



 アンデッドの数が多いなら、それだけレベルアップの機会もあるはずだ。

 強さもまあまあなら、特攻さえしなければなんとかなるだろう。


 その後、コバっさんを通じて防人から了承を受け、明日から前線の補助として防衛を任されることになった。

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