第15話
「やあ、まさかアンデットを丸ごと抱えてくるとは思わなかった。流石、コルム君だ。」
「そんな褒めるなよ。」
この白衣をまとった奴はアルベリア、いわゆる研究者だ。
近頃、この街でアンデットの数が増加しているようだ。
モンスターの増減自体は珍しいことではないが、ここ最近の増えように関しては、少し違和感を感じる。
前線でアンデットの巣窟でもあるのかと偵察にも行ったが、この辺りに異変が起こっているわけでもなさそうだった。
とすると、なんらかの理由で突然変異...と考えるのが妥当だろう。
そこで、知り合いでアンデット関係に精通してるやつがいたから頼んだというわけだ。
「じゃあ、こののアンデットを調べてみよう。少し待っていてくれ。」
促されるままソファに座ると、この状況に関して幾つか考察をする。
一つはアンデットの件だ。
突然変異で増えているなら、増員して数を減らすことで改善できるだろう。
まあ、相当時間はかかるだろうし、街の兵士達は一年以上休みなく働くことになるかもしれないが...。
しかし、突然変異でなかったら?
変異だとしても、やはりこの増え方は自然に起こったとは考えにくい。
誰かが、裏で増やしている可能性もある。
それこそ、召喚が得意な魔法使いであれば、アンデットを増やすことなど容易だろう。
その場合、根源の魔法使いをどうにかしなければならない。
となると、相当な被害が及ぶ可能性もある...まあ、これはあくまで仮説に過ぎない。
...アンデットについて考えるのはよそう。
まだ調べてもらっている最中だ。
下手に悩むより、結果を見る方が確実だしな。
...それにしても、イーファのヤツ。
いきなり傭兵団を抜け出すかと思えば、こっちでアンデット退治をし始めた。
前までは内気で、ただシュルクについて行っていただけだったのが、最近ではよく笑顔を見せるようになった。
...これもイツキのおかげか。
ちょこちょこ体を張るのが気がかりだが、それ以外はいい奴だ。
イーファがくっついているのも納得の人間だな。
...にしても、アイツは一体どこから来たんだ?
俺がコノート村に滞在している間にいきなり現れた。
冒険者にしては剣技や魔法も拙いし、商人のようにモノを売るわけでもない。
...まあ、アイツにも何かあったんだろう。
詮索はよそう、いい奴だとわかってるしな。
*
「コルム君、結果が出た。思っていたより、かなり厄介そうだ。」
「何?一体何がわかったんだ?」
顔をしかめながら、何かのビンを差し出してきた。
「これはアンデットの心臓を入れたビンだ、少し持ってみてくれないか?」
ビンを受け取ると、手のひらから勢いよく魔力が巡るのを感じた。
「うっ、なんだよこれ!?」
「解剖をしてみたんだ。刃を入れたらいきなり強大な魔力を感じてね...。」
聞くと、アンデットが持つ魔力量とは思えないほど、魔力量が多いらしい。
この街にいる魔法使いでも、このアンデットに含まれる魔力並みのヤツはいないと言う。
「僕なりに仮説を立ててみたんだ、聞いてくれるかい。」
「ああ。」
「端的に言えば、裏でアンデットを操る魔法使いがいる可能性がある。」
その仮説は、俺の危惧していたものとほとんど一致していた。
誰かが操っている。
それも、強大な魔力量を扱えるほどの実力者。
「...これは僕の推測でしかないが、魔王が関わっている可能性がある。」
「魔王だと?」
「ああ。もっと言うなれば魔王幹部...かな。この状況と似ている事例を思い出してね。」
アルベリアは本棚から分厚い本を取り出すと、あるページを見せる。
『アルベリー村にて、アンデットの大群が発生。その数日後、1人の黒い魔法使いにより村は壊滅寸前にまで追い込まれた。』
「これは10年ほど前の事例だ。幸いこの村は、ある氷の魔法使いによって崩壊を免れたが、アンデットによる被害は相当なものだったらしい。」
「確かに、今の街の状況に似ているな...。」
この話と同じ道を辿るとするなら、黒い魔法使いというのが気がかりだ。
アルベリー村は小さい村だが、傭兵団も常駐しているし簡単に侵略されるような場所ではない。
それが1人の魔法使いによって崩壊寸前にまで追い込まれるのは、相当な実力者だろう。
まずは情報共有をして、戦力を固めるのが即決か...。
「有益な情報をありがとう。また頼るかもしれないがその時は頼む。」
「ああ、もちろん。できることなら任せてくれ。」
文献の内容をいくつかメモしたあと、俺は研究所を立ち去った。
「...嫌な予感がするな。もう少し詳しく調べるとしよう。」
*
「...そろそろ頃合い、かな。」
「前に村の侵略に失敗しちゃったし、今度は慎重にいかないといけない。」
「...氷使い、次会った時が最後.....。」
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