第16話



 「...そういえば、あのアンデット...この辺では見たことないですよね。」


 食事中、クロンメはさっきのハイアンデットについて話を始めた。



 ハイアンデット。



 コノート村でもアンデットは見たことがあるが、あんな大きい個体は初めて見た。

 どうやら、この街でも大きい個体は非常に珍しいらしい。


 「もしかして、最近アンデットが増えていることも関係しているんじゃないかな。」


 「うーん...外で異変が起こってる可能性はあると思います。こんなの、ボクも初めてですけど。」


 やはり、何か外で異変が起こってると考えるのが自然だろうか。

 まあ、変化があるなら他の人が気付いているだろう。


 「まあ、危険なら僕らに指示が来ますよ。それまでは、おとなしくしていましょう。」


 キーアンの言う通りだ。

 なにか報告があるまでは、大人しくしていよう。



 「イツキさん、これも頼んでいいですか?」


 「え、あ、いいよ」



 ...イーファちゃん、よく食べるなぁ.......



 





*






 ―――マンスター街 ギルド





 「これが、異変に関しての私の意見です。」


 アルベリアから貰った資料を共有するため、俺はギルドへとやって来た。

 アイツの仮説が正しければ、この街も甚大な被害を被る可能性がある。


 そうならないためにも、いち早く共有して対策を講じるべきだろう。



 「うん...わかった。根拠もあるし、コルムくんが言うのならそうなのだろう。」


 俺はギルド長に話を通した後、街の防衛に関していくつか会議をした。




 まず、敵勢力の戦力について。

 アンデットの異常な量、そして体内から検出された魔力量から、文献に載っていた黒い魔法使いだと考えた。

 魔王幹部の可能性も考慮し、街側の戦力を集めなければならない。


 腕っぷしの魔法使い、経験豊富な剣士たちを多く集めるべきだと考え、近くの街の傭兵団に応援要請を行うことにした。


 そして、これまでは夜間の警備は数人の剣士で回していたのを、魔法使いを含めた数十人に変更するように決定をした。


 とりあえず、これだけ決めれば攻め込まれたとしてもある程度は対応できるだろう。

 だが、相手が召喚魔法を使っている魔法使いであるなら、そいつを倒さなければアンデットの流れは止まらないだろう。


 これも街の魔法使いに頼んで、周辺の魔力について探知してもらうことにした。



 これだけやれば、すぐに街が崩壊することはないはずだ。

 あとはこの情報を街のヤツらに回して警戒体制を作れば、大丈夫だろう。


 あとは魔力探知で大元を探した後だが...相手が動き始めた瞬間に攻め込むべきだな。

 防衛に全力を注ぐのは勿論だが、守り切るには部が悪過ぎる。

 相手が魔王幹部ならなおさら、いつか力負けをしてしまうだろう。


 となれば、いくらかの人員を前線に送り込んで、戦わせる。

 相手勢力がわかりきっていない状況で、この作戦はハッキリ言って賭けに近い。


 だが、守り切るには戦力差がありすぎる。

 アンデットだけでなく、ハイアンデットも発生するとしたら危険だ。


 

 「...この作戦は賭けです。ただ、これ以外に考えられるものもありません。」



 「...わかった、この方向でやろう。すぐに通達を。」






 *



 





 −−−その日の夜





 「ふあ...」


 「大丈夫?イーファちゃん。」



 昼ご飯を食べ終わり、街を散歩していると、魔道具に連絡が来た。

 軽く魔力を込めて文字を浮かばせると、街の総合連絡...的なところからのようだった。


 要約すると、アンデットの対策が決定したから街の防衛よろしくねってことだ。

 俺以外にも、ライセンス登録している人に対して連絡が入っているらしい。


 そしてそこには、自分の担当日も書いてあった。

 送られてきた情報には、今日の日付にイツキと書かれていた他に、イーファ、クロンメ...そして他の人たちも載っていた。

 てな感じで、早速今日の夜から仕事をしているってこと...。


 

 「でも、アンデット対策が決まってよかったですね。相手が黒の魔法使い?なのがちょっと...ボクは怖いですけど...。」


 「まあ、俺らの他に実力派の剣士や魔法使いもいるし、自分の仕事をやれば大丈夫だと思うよ。」



 黒の魔法使いというのがどんなやつかわからないが、詳しい情報が来ないということは上もハッキリと確認しきれていないのだと思う。



 「森の方に強い魔力反応があるとも書いてましたし、もしかしたら...ん...ぐぅ....。」


 

 あ、イーファちゃん寝た。

 ああちょ、そのまま寝たら倒れちゃうよ。


 仕方ない、おんぶするか...。

 

 「おも....あぁ違う......成長してるな...。」


 人っこ1人おんぶしながら仕事って相当きついなこれ。

 まあ、担当の日にそうそう大変なことなんて起こらないだろ...。


 

 「あれ、魔道具が光ってる。連絡ですかね?」


 あ、ほんとだ。

 ごめん、手が塞がってるからクロンメちゃんの見せて。


 「えーと...アンデット大量発生...ハイアンデットも多数確認。控えのライセンス登録者も早急に対応求む。」



 あ、終わった〜〜〜。

 アンデット大量発生でも絶望感やばいのに、ハイアンデットも多数確認されちゃってるよ。

 

 「あ、あわわ...ひぃ...。」


 あぁクロンメちゃんが腰抜けちゃってるよ、絶対戦わせられないってこの娘。

 てかとにかく剣持って戦わないと、いやまだ近くないからアイスバレットで応戦しなきゃ...。



 「おーい!!応援を呼んだぞ!!」


 「コバっさん!よかった....!」


 コバっさんから応援の知らせが届き、まずは安心する。

 だが、その後にとんでもないことが耳に入ってきた。




 「お前らは俺に続いて前線突破だ!!森からアンデットは出てきてる!!そこを抑えに行くぞ!!!」


 



 え、俺前線に出るの?

 待ってこないだの門警備の時より全然数多いよ?

 絶対突破できないって、いやコバっさん率いるこの人たちなら大丈夫か...?

  

 「時間がない!!合図したら俺についてこい!!」


 

 ウソだろこっち1人ぐっすりで1人腰抜けてるぞ!?

 寝てる子と怖がってる子を連れていくのは流石に無理だ...。


 「仕方ない...クロンメちゃん、イーファちゃんをお願いしていい?」


 

 「え、あ...」



 もう時間がない、合図が来たらすぐに出れるようにしないと。

 前に出るだろうから剣抜いておかないとな...。



 「あ、あの!.....ぼ、ボクも行きます!!」


 「え、でも...」



 「2人ともここで待ってたら、イツキさんを守る魔法使いがいないし...、ボクだって戦えます!!」



 俺守られる前提かぁ〜〜〜。

 ...いや、でも確かにそうだ。

 相手が黒の魔法使いなら、対抗できる人は多いほうが絶対にいい。


 「...わかった、クロンメちゃんを信じるよ。時間がないから...よし、背中に乗って!」


 「え、は、はい!」



 イーファちゃんを背中から降ろし、急いで近くにいた人に頼んだ。

 あとは、この子を背負って...走る!!

 結構おも...いや運動不足だけど、身体強化でバフかけながらいけば大丈夫だろ!!


 「しっかり捕まっててね、あと魔法頼んだ!!」



 「はい!!」

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