第17話
「付与魔法 : エンチャントフレイム!!」
詠唱と同時に、俺の剣が炎をまとう。
付与魔法がついた炎の剣は、敵に刃を通すと、アンデットくらいなら燃やし尽くしてしまうようだ。
効果は詠唱者の魔力に依存するというので、クロンメちゃんは何か一味違う魔法使いなのかもしれない...。
「すごい!これなら戦いやすいよ!」
「えへへ、ボクの魔法すごいですから!」
アンデットを押し除けて、森の方へと足を進ませる。
周りの人と上手く連携を取り、斬って下がり、また前に進み...とワンツーで息を合わせる。
進むほどにハイアンデットも増えてくるが、この炎魔法の効果が付与された剣なら2、3回くらい斬れば容易に倒せる。
しばらく剣を振り続けていると、少し離れた位置からコバっさんの声が響いた。
「よし、そろそろ森に入るぞ!!ここからは分かれて、連絡は魔道具に寄越せ!」
クロンメちゃんにしっかり掴まってもらい、走る準備をする。
薄れてきた身体強化を足に集中して発動させるように意識する。
足に魔力が溜まるのを感じる、その溜め切ったという瞬間に思い切り地面に足を踏み込む。
「しっかり掴まっててね!」
*
「し、しぬ....!!」
よく考えたら、この世界で動き回ってるとはいえ、運動不足なのを忘れてた。
身体強化は一時的なバフに過ぎず、使った分の体力消費は遅れて意識させられてしまう。
「あ、あの...もう大丈夫ですよ?」
「あ、ごめん。降ろすね...」
走ることに集中していたため気付かなかったが、すでに森の中に入っているみたいだ。
暗くてよく見えないが、コノート村付近の森と景色はさほどかわらないようで、見慣れた草木や花々が力強く根を張っている。
周りにいた人たちは声が微かに聞こえる程度には離れており、どれだけ全力で走ったのかがわかる。
しかし、森が発生源と聞いていたのに、この辺りにはアンデットの気配を全く感じない。
「...イツキさん。この辺り、何かおかしいです...。」
「やっぱりアンデットの気配しないよね...?」
「それもありますけど...この辺りから異常な魔力量を感じます。もしかしたら、報告にあった黒の魔法使いかもしれません...。」
魔力に鈍感すぎて気付いていなかったが、目を瞑ると薄らと魔力を感じる。
近くに黒の魔法使いがいるとしたら、俺らだけで戦うのは無謀だ。
魔道具で応援を呼んで、しばらく様子を見るのが1番現実的だろうか。
考えを巡らせていると、突然空気の流れが変わり、恐怖を覚える。
汗が止まらなくなり、呼吸が荒くなる。
彼女も手に握る杖を振るわせて、今にも腰が抜けてしまいそうなくらいに動揺している。
「な、なにか...すごく嫌な予感が...。」
草木の揺れが、時が止まったかのように落ち着いたその時、木陰から1人の少女が現れた。
暗い中目を凝らして確認すると、見た目はイーファちゃんより少し大人びているくらい、しかし遠目から見ている限りただの少女にしか見えない。
完全に気が緩み、とにかくここは危ないと声をかけようとする。
そのとき、少女が何かつぶやいているのが聞こえた。
「血に飢えた捕食者よ、今私に力を与え給え.....」
「っ!!召喚魔法です、伏せてください!!」
突然クロンメちゃんが声を張り上げたかと思うと、早口で詠唱を始めた。
「敵を貫く炎の槍となれ...フレイムランス!!」
詠唱を言い切り杖先が赤くなったと思えば、キーアンの時のようにあたりに熱が放出される。
瞬く間にその炎は少女めがけて飛び、彼女を貫いたかと思われた。
あたりが爆発と煙に包まれたかと思えば、いなくなっていたはずの人影が姿を現す。
いや、少女1人にしては大きすぎる、まるで何か獣のようなシルエットが....。
「すごいね、あなたの魔法。この子が唸る事なんてなかなかないのに。」
そこには、ライオンよりふたまわりは大きい、オオカミらしき動物が少女を乗せていた。
「この子は、私の友達で、ルプスって言う。隣のあなた、氷使いだよね?」
氷使い...。
コノート村に、氷の大賢者を 氷使い と表現した本を読んだことがある。
あの時は、純粋に氷魔法を使うからそう呼んでいるだけだと思って読み飛ばしていた。
なぜ、わざわざ俺に対して氷使いだと言ったんだろう。
ここまで身体強化以外の魔法を使っていないから、何魔法を使うかはわからないはず。
「あの人の言った通り。ヒナタと同じように、あなたも氷使いで間違いないみたい。」
氷使いを強調する理由、そしてヒナタという人の名前...。
「一体、君は何者なんだ...?」
「あ、自己紹介忘れてた。私は、エストフィア。魔王幹部の人に拾われたの。」
「ま、魔王幹部....。」
予想外の答えに、また大きな恐怖を覚える。
彼女がただの少女でなく、魔王幹部に拾われたと発言した。
...応援を呼ばないと。
俺らだけじゃ絶対に勝てない。
イーファちゃん、いやコバっさん。
いや、それでも勝てるのか?
ほぼ魔王幹部レベルを、俺たちで倒せるんだろうか。
隣から過呼吸気味になった呼吸音がする。
このまま立ってるだけなら、俺たちは負けてしまうだろう。
戦わなきゃいけない。
さっきの氷使いの発言、よくわからないが俺に因縁があるんだろう。
少しでも時間を稼いで応援を待てば、まだ勝つ希望はある。
「大丈夫、俺が絶対守るよ。悪いけど、魔道具でみんなに連絡だけお願い。」
腰掛けのポーチから魔力回復のポーションを取り出し、口にくわえておく。
そして腰から剣を引き抜き、相手に刃を向ける。
いつもより持ち手が滑りやすい。
「...その女の子を庇って、口にポーションなんかくわえて、なんのつもり。」
「はうは、ほっとはっほふへはいはけはお。」
「....?」
やべ、何も喋れん。
絶対何も伝わってないよこれ。
せっかくだからカッコつけたかったのに、台無しだ...。
「...お手なみ拝見。」
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