第14話
「危ない!!」
キーアンの静止も耳に入らず、俺は彼女を庇うことしか頭になかった。
彼女を思い切り押し、距離を離す。
腰が抜けていて、うまく押し出せなかったので今度は覆い被さるように庇った。
攻撃が来る。
あの攻撃を受ければ、俺は生きていられないだろうな。
ま、でも...この子が生きていれば、何とかしてくれるはず...。
「グオオオオ!!!」
あ、やっぱ怖い。
怖くて涙出てきた。
俺、最期ですら格好つけられないんだな。
---ハイウィンドッ!!
*
---さん。
...あれ、もう死後の世界に来たのかな。
---ツキさん。
意外と痛みとかないんだな...。
「イツキさん!!」
「はぁぇっ!?」
聞き覚えのある声先に目を向けると、そこにはイーファちゃんがいた。
「あれ、俺死んで...」
ふと腕の中を見ると、あの魔法使いの子が顔を伏せて震えていた。
よく見ると、自分の腕や体に傷は一つもない。
周りを見渡すと、ハイアンデットが倒れているのが目に入った。
ハイアンデットに焼けた痕跡はないから、キーアンではないだろう。
...てことは。
「まさか、イーファちゃんが...?」
「...」
彼女はこっちに歩み寄ると、膝を屈めて俺の目線に合わせてきた。
華奢な両手を俺の頬に当てると、そのままつねって来た。
「いででっ!!ちょ、まっ!!」
「...心配したんですよ!!」
*
「...ゴメンナサイ。」
ハイアンデットは、あの一撃で倒れた。
怯えていた魔法使いの子は、イーファちゃんの連れの人が慰めているので、大丈夫だろう。
その横で、俺はイーファちゃんにお説教をくらっている...。
イーファちゃんからは、自分の命を軽く見過ぎとか、自分を犠牲にして守るのはやめて欲しい...そう言われてしまった。
確かに、俺はこの世界に来てから、何度か死んでもおかしくないところがあった。
初めて会った時も、オークと戦った時も、そして今も。
自分の実力を振るって守ったわけじゃない。
結局、自分を犠牲にしているだけ。
肉壁になって一時的に守ろうとしているだけにすぎない。
そう思うと、自分の弱さを目の当たりにしているようで情けなくなった。
「...もうやめてくださいね。」
*
その後、それぞれ交代の時間になったので、みんなで昼ごはんを食べに行くことになった。
連れのエルフィンさんが負傷した剣士の介護を引き受けてくれたので、一度別れることにした。
剣士の体調も心配だが、1番気になるのは魔法使いの子の精神状態だ。
彼女は腰も抜けていたし、今も顔色が優れていない。
「...あの、さっきのはやっぱり怖かった...かな?」
「あ...はい...。でも...あなたが守ってくれたので、ちょっとだけ安心できました。」
よかった。
無謀なことをしたけど、感謝されるのはやっぱり嬉しい。
今度はいいカッコできるように、強くならないとな。
「お待たせしました。ヤギ肉のコリンゴ煮です。」
「あ、ありがとうございます。」
食べている間、情報共有と共に彼女についてもいくつか話した。
彼女の名前はクロンメと言い、この街で生まれ育ったらしい。
キーアンとは面識があるらしく、間で話が盛り上がっていた。
情報共有に関しては、これといったことはなかった。
イーファちゃんの話で、アンデットの知能が高くなっている...という話は少し気になった。
理由なしに知能が上がるとは考えにくいし、何か裏があるはず。
コバっさんに後で聞いてみよう。
とにかく、今は食べて気を紛らわせよう。
午前中だけで、色々とあって少し疲れてしまった。
「イツキさん、それ、美味しいですか?」
「あ、うん。すごく美味しいよ。」
「へぇ〜...」
おわ、すっごい目を輝かせながらよだれたらしてる。
女の子が出していいよだれの量じゃないよそれ。
「...一口いる?」
「いいんですか!?」
スプーンに一口分のヤギ肉と、すりおろしたコリンゴを乗せて、イーファちゃんの口元に寄せる。
目を輝かせながら、スプーン全体を味わうように口に含む。
「むぐむぐ....おいひぃ...!」
幸せそうな顔をして、ひとくちを噛み締めるように食べる。
口にあってよかったと思いながら、食べるのを再開しようとした。
「....」
このスプーン....。
めちゃくちゃ間接キスじゃね。
これ女の子と間接キスしちゃってるよね。
え、待って。
これ大丈夫なのかな、俺捕まったりしない?
イーファちゃん結構しっかり咥えてたし、もはや間接ディープキスじゃんこれ。
いやこんな思春期の男子みたいなこと考えなくても、別にイーファちゃん気にしてないだろうしな、うん。
し、仕方ないよな...。
「いただきます......!!」
*
イツキさんから一口もらったヤギ肉の料理、すっごく美味しかったな〜。
今度来る機会があったら頼んでみようっと。
...あれ、そういえば...イツキさんのスプーンって...。
「あ、ああ....はわわぁ...///」
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