第13話
私は、物心ついた頃にはもう1人でした。
お父さんとお母さんは、私が5歳の頃に亡くなりました。
コノート村という、小さな村で農業をしていた私の両親。
ある時、隣の村まで野菜を売りにいくと言い、2人は村を出ました。
2人が働きに出ている時、私はよく、シュルクさんの、つまり団長さんのアジトで待っていました。
アジトには仲間の人もいて、あまり退屈はしませんでした。
その日も、夜には帰ってきてくれると思っていたので、いくら時間が経っても迎えにきてくれない両親に疑問を感じていました。
「父さん母さんは多分、思ったより野菜が人気だからあっちで寝泊まりでもしてるんじゃないか。」
そう団長さんは言っていましたが、私はこんなこと初めてで、もしかして捨てられたんじゃないか、とも思ってしまいました。
夜も遅かったので、その日はベッドを借りて団長さんのアジトで寝ました。
そして、日が変わった頃だったかな、部屋の外から何か物音がするのが聞こえました。
夜更かしをしていたと思われたら怒られてしまうと思って、ゆっくりと、ドアを少しだけ開けてみました。
その先には団長さんと数人の仲間がいて、その中には寝巻き姿の人もいました。
その時、団長さんと仲間の人が何か話していました。
「...イーファに勘付かれないようにしてくれ。両親が亡くなったなんて、あの歳の子には相当な負担だろう.....明日まで帰れないかもしれない。その時は頼んだぞ.......................」
団長さんの言葉は、そのとき知らない単語ばかりでしたが、一文を聞き逃すことはできませんでした。
「お父さんとお母さんが、しんじゃった...?」
理解ができませんでした。
だって、朝に見送った両親と、亡くなったなんて言葉は繋がるはずがなかったからです。
意識が戻ったのは、頬を伝う涙が足先に落ちた時でした。
なんとかドアを閉めると、ベッドに潜り込んでたくさん涙を流しました。
声を押し殺して。
*
その後、私は仲間の1人から両親の死を告げられました。
涙は枯れていたので、泣きたくても泣けませんでした。
そこからしばらくの間、どう過ごしたのかを覚えていません。
そして7歳の時、学校の類が村になかったので、私は傭兵団に入ることにしました。
傭兵団では後ろからのサポートをメインにして働いていました。
でも、私は魔法を上手く使えませんでした。
7歳になったら教えてあげると、お母さんが約束してくれていたけど、もう居なくて。
回復魔法すら使えず、荷物持ちがほとんどでした。
いつも、寝る時に自分の弱さに枕を濡らしていたのを覚えています。
*
10歳になっても魔法を扱えず、全てが嫌になった私は家出をしました。
今になって思えば、嫌なことから逃げてしまう弱さがいちばんの原因だったかもしれないと思います。
村を出て、あてもなく外をさまよっていると、1匹のモンスターに出会いました。
緑色の、キレイなスライムでした。
私はモンスターというのを初めて見たので、スライムがどれだけ危ないのかがよくわからず、手を伸ばしてしまいました。
すると、スライムは腕に体を伸ばしてまとわりつきました。
「ひっ...!」
スライムは腕を這い上がるようにうごめくと、肘あたりに到達しようとしていました。
こわい、こわい、こわい。
私も死んじゃうんだ、って思いました。
その瞬間、誰かの詠唱と共にスライムが凍り、粉々に砕けました。
声の主を探すと、ある男の人がいました。
「やあ、大丈夫かい?スライム、怖かったよね。」
「あ、ありがとうございます。あ、あなたは...」
彼はヒナタと名乗りました。
散歩をしていたら、近くに声がしたので来てくれたといいます。
「立てる?手、貸そうか。」
立つために手を借りた時、鈍感だった私でも感じるほどの、莫大...いや、形容できないほどの魔力を感じました。
その時、この人に頼んだら魔法が使えるようになるかもしれない、そう思い、すぐに特訓を頼み込みました。
彼は、少し困った顔をすると、毎日1時間だけならいいよと言ってくれました。
私は、すぐに帰ってみんなに謝ると、毎日森の近くで魔法の特訓に行くようになりました。
彼は氷属性の魔法使いでしたが、私の特性が風属性であることを見抜くと、風魔法を使えるように特訓のメニューを組んでくれました。
それから毎日、必死に魔法を使うトレーニングをしました。
魔力の練り方から、イツキさんに教えたような手順でコツコツと。
アジトでも時間を見つけては特訓をしていました。
魔法を出そうとしてもハッキリしたのが出せない理由は、その後知ることになります。
1年もすると、ある程度魔力操作ができるようになりました。
基礎的な魔力操作ができるようになると、ライセンスカードを申請して魔法を習得することができるようになることを知り、早速村のギルドでカードをもらいました。
...字が汚くて、笑われちゃったのは内緒ですよ?
初めての魔法は、ウィンドでした。
突風を発生させて、相手を吹き飛ばす基礎的な魔法。
初めて魔法を使えた時、私でも使えるんだ...って、とても感動したのを覚えています。
それに、今までハッキリ魔法を具現化できなかったものが、こんなカード一枚で扱えるようになるなんて、知らないことは多いんだなって思いました。
傭兵団の中でも、ちゃんとサポートができてる感じに、とても高揚感を覚えました。
それから4年くらいして、私はイツキさんと出会いました。
初めて話した時、昔の私を姿を重ねて、何か懐かしさを感じたことを覚えています。
私をかばってくれたイツキさんは、とても優しい人です。
常に私のことを気遣ってくれて、逆に申し訳なるくらいです。
イツキさんは私に、たくさんの借りを作らせてくれました。
だから、今返さなきゃいけないんです。
*
「ハイウィンドッ!!」
事前に習得していた上級魔法で、ハイアンデットを大きく吹っ飛ばすことに成功しました。
イツキさんは、誰かを覆うようにして震えていました。
ああ、また自分を犠牲にして庇おうとしたんですね。
「もう...私がいないとダメなんですから.....」
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