第21話


 

 『かんぱーい!!』


 

 俺とクロンメちゃんは、街を救った英雄として、酒場でお祝いされることになった。

 酒場にはキーアンやエルフィンさんも来てくれていて、とても賑わった。

 色々な人から、英雄だなんだともてはやされる。


 .....ただ正直、俺が英雄だなんて言われるのは少し荷が重い。

 言葉にしづらいが、その称号を背負うほどの器ではないと感じてしまう。

 それは、クロンメちゃんも同じようだった。


 「なんか...ボクたち褒められすぎじゃないですか?」 


 「ねー...でも、街を救ったのは、この人たちにとっては故郷を守ったってことだもんね。」


 「んー...ボクたちだけの手柄じゃないのにな...。」



 そんなこんなで、わいわいと賑わっていた店内だったが、やっぱり気になることがある。




 退院してから、エフィに対しての風当たりはさらに強くなったように思える。


 ヤジだけなら、まだ軽い方だ。

 特にひどい時は、石を投げられることもある。


 エフィには身寄りがないので、親に渡してお別れというのもできない。

 というか、この状態でお別れはエフィにとって危険だ。



 「...」


 「ん、大丈夫だよ。エフィのせいじゃないから。」



 今のエフィの心の状態は、良くなったにしてもまだ治りきっていない。

 本当はここに連れてくるのもためらったが、エフィがついていきたいと言ったので連れてきてしまった。

 今思えば、俺が行かないっていえばよかったな。


 



 「おい!!このガキ!!お前が街を壊しやがったんだろ!?」


 

 いきなりがなりたてる大人がいたと思うと、その視線はエフィに向けられていた。

 多分、酒が入って気が大きくなったんだろう。


 もう帰るかと思った時、聞き逃せない言葉が聞こえてしまった。



 「この害虫が!!英雄サマは殺す勇気もなく助けたってか!?はは、害虫のガキ1匹くらい俺でもやれるわ!!」



 俺は、無意識にその男を殴っていた。

 周りからは、言葉にならない叫び声や、手のひら返しで俺を批判する声が聞こえる。



 「お前は!!この子の苦しみを考えたことはないのか!?」


 「チッ...そんなの、コイツがやったことだろ!?知らねえよ!!コイツはちくちくと魔物を発生させて俺らが苦しむのを楽しんでたんだ!!」



 「うるさい!!この子は...この子は!!魔王の幹部だか意味わかんないやつに操られて!!親も殺されて!!ひとりぼっちだったんだ!!その苦しみが、なんで...なんでわからないんだよ!!」



 俺はもう一度殴ってやろうと、腕を振り上げると、イーファちゃんに腕を掴まれた。

 

 「...イツキさん...ダメです...」



 その声で我にかえり、周りを見渡すと、他の人たちは俺から目を背けていた。



 俺は、怒りに任せて人に手を出してしまった。

 俺は、人を殴ってしまったんだ...。






 *





 

 宿屋に着く頃には、すでに月の光が鮮明なほどに見えていた。

 エフィを俺のベッドに寝かせると、落ち着くために部屋についているお風呂に浸かる。


 ...俺は、感情に任せて人に手を出してしまったんだ。

 あの時、俺が我慢していれば...。


 でも、エフィに対してあんなことを言ってしまうあの人もあの人だよな...。

 ...いやいや、だからと言って手を出す理由にはならない、自分を庇う逃げ道なんて探そうとしちゃいけない。


 俺が悪いんだ、我慢できなかった俺が。

 ...それでも、俺は本当に間違ってるのかな...。




 

 「...あの、一緒に入ってもいいですか?」


 「え、イーファちゃん!?いや、お風呂はちょっと...」



 あたふたしていると、問答無用で戸を開けて入ってきた。

 ちょっと待ってタオル一枚でお風呂入ってこないでこの絵面危ないってーーー









 *









 ちゃぷ...。



 

 俺は今、イーファちゃんと同じ湯船に入っている。

 体を向き合わせるのは流石にやばいので、俺がイーファちゃんを抱え込む形で許してもらった。


 ...よく考えたらこっちの方が危ないな。



 

 「...イツキさんは、悪くないです。」



 「...どうしたの、いきなり。」



 多分、さっきの話だろう。

 ...悪くないって言われても、人を殴ったのは事実だし...。





 「確かに...手が先に出ちゃったのはめっですけど...でも、ああやって他人に対して本気で怒れるイツキさんって、カッコいいと思います。」


 「...そんなことないよ、俺なんて...」



 言いかけた瞬間、イーファちゃんは体の向きを変えて、お互い向き合うような形になる。


 

 「イツキさんは、そんなこと言っちゃだめです!!」


 「え...いや...」



 「...確かに、あんまり強くなかったり、お人よしすぎたりはありますけど...でも、あんな大きな敵に立ち向かったり、人を助けることに戸惑わなかったり....私にとっては命の恩人で、憧れなんです!」



 「イーファちゃん...」

 



 ...絶対にお風呂で男女がする話じゃないなこれ。

 てか顔ちかっ、めちゃくちゃ鼻息当たるよこの距離。

 

 ...でも、イーファちゃんのおかげで、ちょっと心が軽くなった。

 年下の子に慰められてちゃダメだよな、今度からは気をつけるようにしよう...。










 *





 朝方、客1人いない時間帯に、話したいことがあるとコバっさんを呼んだ。

 本当なら連絡しなくても悪くはないが、ここまで助けてもらったぶん、お礼もかねてと考えた。




 「ふむ...じゃあ、街からは一度離れるんだな。」



 「はい。...昨日の件もありますが、イーファちゃんをこの街に連れてきたのは、あくまで調査派遣という名目です。」




 そう、イーファちゃんが遠い街まで来たのはあくまで調査派遣のため。

 彼女はあくまでも...ふう...なんだっけ、そう、なんか傭兵団の団員だ。


 あくまでも脱退しているわけじゃないので、あちらとしても早く帰ってくることを望んでいるだろう。

 ...それに、もういろんなことを学ばせてもらったしな。


 


 「...わかった、明日には出れるように手配しておこう。だが、イツキくんはこれからどうするつもりなんだ?」



 「...コノート村で、しばらくはすごそうと思います。あっちは顔見知りも多いので。」







 「わかった。...あまり気負いすぎるなよ、アイツらのためにもな。」





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