第20話



 .......



 ...................




 ...この光景、少し前にも見たな。

 この光の入り方、そしてふかふかのベッド...生きてはいるみたいだ。

 多分、病院的なところかな...。


 右腕大丈夫かな......あ、よかった...軽い包帯だけで麻痺はしてなさそうだ。

 てことは、足もとにイーファちゃんがいたりして...。



 「...増えてる。」



 イーファちゃんだけじゃなく、クロンメちゃんまでいた。

 結構ぐっすり寝てるな....そりゃあれだけ頑張ってくれたんだし、当たり前か。

 ...よかった、見た感じ大きなケガはしてなさそうだね。


 

 「...起きたのね、イツキくん。」


 「はっ、はい!?」



 「驚かなくても大丈夫よ。この間、顔を合わせたじゃない。」



 コリンゴを剥いているこの女性には、なんとなく見覚えがある。

 イーファちゃんと一緒にいた...えー...。



 「...エルフィンよ。覚えていなくても、不思議ではないから大丈夫よ?」



 「ああ、すみません...。あの、この状況は?」





 彼女いわく、援軍が来なかったのは、アンデットの量が異常に多く進めなかったかららしい。

 そして、俺たちを見つけた時のことも話してくれた。



 「私たちが合流した時には、もう魔物はいなかったわ。...最初は、その魔物が逃げたのかと思ったのだけれど...」



 「...そこには俺たちがいた、と。」



 「そ、クロンメちゃんは腰が抜けてただけだったけれど、イツキくんは出血が多くて危険だったのよ?」



 「それは...ありがとうございます。」



 あの時めまいがしたのは、出血が多くて頭に血が回ってなかったんだ...。

 援軍がすぐ来てくれていなかったら、もしかしたら俺は...。

 いや、そんなことを考えるのはやめよう、俺たちは生きて戻って来れたんだから。


 ...あれ、そういえば。



 「あの、そういえば...エストフィアっていう女の子は...。」


 「あ、その子なら隣のベッドで...ほら、いるわよ。」



 そこには、森で見かけた時と変わらない、白髪の女の子がいた。

 すでに目は覚めていたようで、膝の上にはオオカミ...いや、オオカミ...?



 「え、ああえ、お、オオカミ?」


 

 「...ん、おはよ。」



 え、そのテンションで話すの?

 さっきまで戦ってたオオカミがめちゃくちゃ気になるんですけど、というか柴犬くらいのサイズ感になってるんだけど...。



 「...助けてくれて、ありがと...。私、操られてて...。」


 そこからエストフィアは、ぽつぽつと自身のことを話してくれた。

 やっぱり、俺の読みは合っていたらしく、あの石によって行動を操られていたという。


 

 「あのね、私ほんとはここよりもっと遠くの街にいたの。でも、いきなり変な人がきて...おとうさんとおかあさんが...ひぐっ...」



 「...そっか。」



 俺は足元で寝ている2人に気をつけてそっと足を抜くと、痛みを我慢しながらその子のベッドに腰掛ける。

 震えて涙目になっているその子の頭を、軽く撫でてみる。


 

 「っ...うぅ...ごめんなさいっ...ごめんなさいっ!!おにいちゃんのことも傷付けちゃった...!!」



 「ううん、全然大丈夫だよ。怒ってない。ほら、見てよ!全然傷も痛くないよ?」



 そう言いながら、立って元気だというアピールをする。

 正直、右腕も痛いし、体全体に筋肉痛が発生して立つのもおっくうなくらいだ。


 でも、この子にはなんの罪もない。

 何にも悪くないのに、幼い子に罪を背負わせようとする人がいるだろうか。


 

 「おにいちゃん、本当に痛くない...?」


 「もちろん!この包帯だって、どうせすぐ取れちゃうよ!」



 「そっか...。よかった...。」



 そう呟くと、エストフィアは初めて笑顔を見せてくれた。

 ...あんなことがあったからこそ、心が潰れてしまわなくてよかった。


 そう思いながら、また彼女の頭を撫でた。




 「...お人よしねぇ...。」



 



 *







 


 その後、目を覚ましたイーファちゃんに泣きながら抱きつかれたり、クロンメちゃんの声がかすれていたこと以外は、何事もなく時間が過ぎた。


 

 完全な回復には、幾分かの時間を要した。

 治癒魔法というのは、ダメージを受けた人の傷や痛みを和らげる、または治すというものだ。


 俺がこの病院に運び込まれた時、イーファちゃんが魔法をかけてくれたらしい。

 ただ、俺の場合は出血がかなり多く、傷自体はほとんど治ったものの痛みやふらつきはまだ残るらしい。


 だから、こんなに痛みが残るのか...。



 大事をとって数日間入院することになり、その間はとても退屈だった。

 ただ、その数日間で色々な人が部屋に来てくれた。


 ある人は俺のことを、街を救った英雄と称したり、またある人は涙を流しながら感謝をする者もいた。

 その時に感じたのは、自分がこの街を救ったんだと。


 もちろん俺だけじゃ簡単にやられていた、この結果はクロンメちゃんがいてくれたからこそだ。

 ただ、わざわざ来てまで言葉をかけてくれるのは、とても嬉しかった。


 ...少し問題なのは、エストフィア...いや、今はエフィって呼んでって言われたんだ。

 エフィに対しての目が、結構気になってしまうことだ。


 街の人たちの中には、巨大なオオカミに被害を受けたという人もおり、そう言った人は部屋に来ると冷たい目で彼女を見ていた。

 その度に、エフィは涙目になりながらうつむいてしまった。


 彼女は、まだ10歳だと言っていた。

 そんな子を、冷たい目で見るのは少し薄情すぎるんじゃないかと思うが、いざこざになるのは面倒なので心に留めておく。


 俺は、同じ部屋のエフィと一緒に遊ぶことにした。

 イーファちゃんに絵本を何冊か持ってきてもらい、読み聞かせをしてあげたり。

 勉強がしたいと言っていたので、簡単な算数を教えてみたり。


 エフィは、ただの女の子なんだ。

 この街にいる同年代の子と、全く変わらない、普通の女の子なんだ。


 それなのに、魔王の幹部なんかに操られて、無理やりひどいことをさせられて。

 どれだけ苦しんだのだろう。




 計り知れないその内面に、俺は同情すらできる気がしなかった。





 



 

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