第19話
俺が立てた作戦はこうだ。
1番怪しいネックレスを狙う。
まず、彼女とそのオオカミは一心同体、降りたり別れて攻撃したりすることはないだろう。
つまり、警戒すべきはオオカミ、このマークだけで十分戦えるはずだ。
もちろん、彼女が魔法で攻撃してくる可能性も考慮する、だからクロンメちゃんが必要になって来るんだ。
...お互い幹部並みの魔法は使えないしな、俺ができるのは時間を稼ぐことだけ。
もう魔力回復のポーションもないから、今後はクロンメちゃんの魔法頼りになりかねない。
身体強化は魔力消費が少ないからあと少し使えるが、もう魔力残量はほぼゼロに近い。
...あとは、作戦通りにお互い動ければなんとかなるだろ。
大丈夫、クロンメちゃんは俺より全然優秀な子だし行ける。
「...作戦会議、終わり?」
「ああ、待っててくれてありがとうね。」
「...うん。」
...なんかさっきより素直だな。
やっぱり、自分の意思でこんなことをしているわけじゃなさそうだ。
敵だから倒さなきゃと思っていたが、自我の残った子に俺は剣を振れない。
「...ルプス、とっしん。」
先ほどとは違い、今度は俺たちに向かって突進して来る。
距離がなければ、こんなの避けられないだろう。
「今だ!!」
俺の合図と共に、お互いが横に避ける。
オオカミは二手に分かれたことに気付き、俺を狙いに走ってきた。
ここは開けているにしても森なので、人間の俺が隠れながら逃げるには都合がいい。
うまく木の間や草に潜りながら、オオカミの視界から逃れるように動く。
オオカミは嗅覚が抜群にいいので、二手に別れたとしてもクロンメちゃんの位置は完全に把握しているだろう。
だが、ひとつの体で2人を追うのは絶対に無理だ、その隙を狙って動けばいける。
わざとらしく葉っぱの音や、木の枝を折る音を出しているのはクロンメちゃんに位置を知らせるため。
オオカミだけなら視認するのは簡単だが、そっちに意識を取られて俺の位置がぼやけると作戦に支障が出る。
逃げるのと同時に、音を立てて動くのは結構難しいが、意外と動けてるし大丈夫だ。
...その油断のせいで、後ろのささやくような声に気がつけなかった。
「ルプス、ひっかいて。」
彼女が何か指示したかと思ったその瞬間、油断していた俺は鋭い爪を受けてしまった。
幸い、木の影にいたから完全に当たったわけではなく、致命傷って程ではないが、あまりにも痛すぎる。
「イツキさん!?」
ダメだ、クロンメちゃんをこっちに来させたらお互いやられるに決まってる。
声を出さないと...。
やばい、魔物の攻撃ってこんなに痛いんだ...。
振り向くのが遅れたせいで、剣じゃなくてほとんど腕で受ける形になってしまった。
痛みで全く力が入らないから、剣すら握れない。
ああ、俺このまま死ぬのかな...。
「...聖なる炎の使い魔に、今こそ力をお貸しください.....。」
飛びそうになる意識の横で、離れたところから魔法の詠唱がわずかに聞こえる。
もしかして、クロンメちゃんが...。
...ダメだよ、もう俺たちじゃ歯が立たないよ。
さっきの魔法だって、あのオオカミは無傷で耐えて見せてた。
...クロンメちゃんを信じてないわけじゃないけど、俺たちじゃ時間を稼ぐような実力すらなかったんだよ。
「ボクはっ!!まだ諦めてなんかいない!!」
その言葉は、彼女の精いっぱいの想いを詰めたように感じた。
こわがりの彼女が、本当ならこんな強い敵、絶対に怯えてしまうはずなのに。
なんで彼女は前を向けるんだろう......。
...まさか。
彼女はむやみやたらに魔法で立ち向かうような子だとは思えない。
彼女の方に目を寄せる。
遠めでどんな表情をしているかは全くわからない。
ただ一つ、気づいたこと。
彼女は俺の方を向いている。
...そっか。
カッコつけてこんな無様になったのに、作戦だってうまくいっていないのに、弱い俺なのに...。
「...クロンメちゃんは...信じてくれるんだ。」
彼女は、俺を見捨てようなんて思っていなかったんだ。
俺が彼女のことを、過小評価しすぎていただけだったんだ。
...だったら、このまま死ぬのは彼女の勇気を無駄にしてしまう。
「敵を焼き払え!!ブリリアントフレイムーーッ!!」
声がかすれそうなほど大きな詠唱が終わると、ものすごい勢いで炎がオオカミを襲う。
今まで色んな人の魔法を見てきたけど、ここまですごいのは初めて見た。
「ッ...ルプス、守って!」
オオカミは防御態勢になると、炎を真正面から受けた。
熱気がこっちまで流れてきて、暑さでバテてしまいそう。
でも、この精いっぱいの行いに応えないわけにはいかない。
俺は動く左手をあの女の子に向ける。
もう魔力はない、でもここで決めなきゃ全てが無駄になる。
全神経を左手のひらに集めるようにして、残る魔力を溜め込む。
今だけは、痛みや苦しみを感じない。
人差し指と薬指のあいだを、女の子の首元のあたりに合わせる。
俺は、この1発を絶対に外すわけにはいかない。
「うおあああああああッ!!アイスバレット!!」
*
手のひらから放たれた氷の粒は、少女の首元をかすって外れたと思われた。
しかし、少女は体のバランスを崩すと、オオカミから落ちた。
「あ...危ない.......」
薄れていく意識の中、落ちていく少女に手を伸ばすが届かない。
ああ、あの子...ケガしちゃうな.....。
とすっ。
地面に落ちたにしては優しい音に、開かない目を凝らして前を見る。
そこには、大柄な大剣持ちの剣士らしき人がいた。
ああ、よかった...助かって......。
そして、俺は意識を失った。
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