第22話
コノート村への移動に関して、イーファちゃんを説得するのは容易だった。
彼女自身も挨拶をしに帰るべきかと悩んでいたらしく、二つ返事で了承を得た。
ただ、心配なのはエフィのことだ。
街に滞在させるのは少し危ないと言うことで、俺が預かることになった。
突然の環境変化や、俺が守り切れるかと言う不安もありつつも、出発の時間は近づいてきていた。
そして、出発日の朝方、朝日の光がほんのり見えかかり始めた頃。
「ほら、イーファちゃん起きて。そろそろここ出るよ。」
「んゃ...いつきしゃん...抱っこ...」
...どうしてこの子はここまで寝起きが悪いんだろうか。
エフィは年相応というべきか、遠足当日の子供のように早起きしていた。
仕方がないので、イーファちゃんを抱き抱えるようにして無理やり連れて行く。
成長しているなあ...と、抱えている腕にかかるおも....お...いや、成長期真っ盛りってことで、うん。
イーファちゃんを馬車の荷台に降ろし、エフィと協力して荷物などを載せる。
日が昇って見え始めた頃には、全ての荷物の移動が終わった。
短い間だがお世話になった街。
最低限の感謝として一礼だけして、俺は荷台に乗り込んだ。
*
荷物からくしを取り出し、まだ意識がはっきりしていないイーファちゃんの髪の毛を解いてやる。
肩より少し下ぐらいまである薄緑の髪は、さらさらとしてくしの通りが良い。
ある程度解かしたら、ビーズ付きのヘアゴムで髪をまとめあげる。
イーファちゃんはいつもポニーテールのように髪をまとめていて、少し余裕を残しながらふわっと留めるのがいいらしい。
解かしきれていない髪の毛があるかを確認して、前髪を軽く整えたらお手入れ完了。
目覚めの悪いイーファちゃんのお世話をするようになってから、簡単な手入れはできるようになっていた。
「よし、お手入れ終わったよ。」
「ん...ありがとうございまふ....」
まだ声が眠そうな彼女をよそに、元気が有り余ってると言わんばかりのエフィが、外を食い入るように眺めていた。
今まで操られていた彼女にとって、平和な世界を落ち着いて見られるというのは、どう感じるのだろうか。
エフィにとって、良い刺激になってくれると嬉しい。
それにしても、今回は目立った魔物もおらずとても平和だ。
旅人らしき人もちらほらいて、平和さがより際立っている。
この調子なら、昼頃にはコノート村に到着するだろう。
イーファに関しての報告がメインだが、エフィについても少し話したい。
エフィはまだ幼く、俺が世話役をするにはあまりにも頼りなさすぎる。
できることなら、傭兵団で見てもらう...そう考えてしまうのは、少し無責任すぎるだろうか。
...いまだに、エフィと戦った時のことが少し気にかかる。
彼女はその辺りの記憶が抜けて、あまり覚えていないと言っていた。
だが、俺の頭にはいくつかの悩みの種が残っていた。
あのとき、俺がが氷使いと表現された理由、ヒナタという人物の名前など。
俺に対してそんな単語を投げかけるには、氷使いはともかく、ヒナタは当てはまらない。
...何か、すごく嫌な予感がする。
何か、大きな出来事に巻き込まれないといいけど...。
*
危惧していたギタイスライムや他の魔物は一切おらず、何事もなく村に向かえている。
今回はエフィも一緒にいるので、平和なのは結構ありがたい。
多分、そろそろ村が見えてくるはず...。
「...お腹すいた。お兄ちゃん、まだ着かない?」
「あともう少しだと思う....あ、見えてきたよ!あそこあそこ。」
噂をすれば、コノート村の方まで来ていたようだ。
マンスターの街は魔物対策で塀を立てていたから、コノート村は平和に見えるな。
「お客さん、着きましたよ!」
「ありがとうございます、これお代です」
そろそろ貰ったお金も尽きてきた。
エフィもいるし、村でバイトでもやらないと流石に厳しいな。
*
ちょうど昼時だったので、近くの居酒屋に立ち寄って食べることにした。
転生してすぐの頃、イーファちゃんに連れられてここのお昼ご飯を食べたことがある。
ここのオムライス、とろとろですごい美味しいんだよね。
異世界にオムライスあるの違和感だけど。
「甘いものかな、それともお肉にしちゃおっかなっ♪」
イーファちゃんは足をばたつかせながら、壁に貼ってあるメニューを眺めている。
いつも真面目なイーファちゃんが、食に関することになると年相応か、少し幼いしぐさを見せてくれるので可愛いなあと思いながら眺める。
「オムライス食べようかな...エフィは何食べたい?」
「お兄ちゃんと同じのがいい。」
「えー!じゃあ私もイツキさんと同じので!!」
イーファちゃんは突然気が変わったらしく、オムライスが食べたくなったらしい。
ということで、みんなオムライスを食べることになった。
*
オムライス。
それは、黄色に輝くトパーズ。
とろりと半熟の卵が流れるその様は、宝石の体に光が反射するときのよう。
まず視覚でオムライスを堪能する。
ここの店主はいくつのオムライスを作ってきたのだろうか。
この絶妙な卵の焼き加減、半端な人間では到底再現することはできないだろう。
ケチャップがかかっていない分、一糸まとわぬ姿でその半熟ドレスの美貌を見せつけているかのようだ。
おっと、そろそろ食べなければ。
楽しむのもひとつだが、温かいうちに食べなければ、作ってくれた人への冒涜だ。
スプーンで一口分すくう。
半熟のドレスは、ちょうどよくスプーンに収まっている。
この世界ではケチャップライスではなく、辛い木の実を潰したソースで味付けしているらしい。
なるほど、その辛さを半熟の卵の包容力でトントンにしてやろうという算段か。
実に甘い、しかし...美しい。
ああ、こんな御託を言っていては、オムライスも聞き飽きるだろうか。
何も言わず、俺はこのひとすくいの楽園を口に...。
「あーんっ♪」
「あっ」
「もぐもぐ...いふきひゃん、はやふはへないほはめちゃいまふよ?」
俺の...俺のグルメ路線が...。
仕方ない、ささっと頂きますか...。
「あれ、イツキくんじゃないか。」
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