第23話
その声には聞き覚えがあった。
渋めな声、そして重そうな鎧にこさえられた剣が、カチャカチャと金属音を鳴らしている。見上げると、短めに整えられた白髪と、うっすら生えている髭のその顔には、確実に会ったことがある。
シュルク・フューラー。
転生した直後、およそ1ヶ月間お世話になった、命の恩人とも言える人だ。
「団長さん!」
イーファちゃんは、久しぶりに祖父母に会った孫のように、食べていたオムライスを置いてシュルクさんに飛びついた。
「久しぶりだな、イツキくん。」
「あっ、は、はい。お久しぶりです!」
「はは、そうかしこまらなくても大丈夫だよ。しかし、戻っているとは驚いた。イーファも、元気そうでよかった。」
シュルクさんは俺らと同じ席に座ると、酒をジョッキ一杯と、適当なつまみの2つを注文した。
注文が終わると、両肘をテーブルに置き、俺たちに近況について問いかけた。
俺は、マンスター街での生活や魔王幹部など、起こった出来事を全て話した。
やはりシュルクさんも、魔王幹部の話についてはかなり驚いていた。俺が討伐に参加したり、エフィを救ったことなどを言うと目を丸くして驚いていた。
「そうか...イツキくんが...立派になったなあ...」
そんな親戚のおじさんが、成長に涙する感じで泣かれても。
イーファちゃんの近況も聞かれた。彼女はこの旅の中で立派に成長して、いろんな人と関わった。彼女は魔法の実力も、中身も大きく成長したと思う。
素人目線でも、彼女には魔法の才能があるんだと思っている。ハイアンデットを倒した時のハイウィンドを見ると、自分の氷魔法とは全く出力が違う。
やっぱり、年齢と同じだけ魔法に触れた子と、突然転生させられた人間では経験が違うんだろう。
そんな思いもありながら、俺はイーファちゃんの成長をシュルクさんに伝えた。
「...彼女はこの遠征で、とても成長したと思います。それこそ、初めて会った時の、何倍も。」
「だろうな。イーファの顔つきもすこし大人びてるしな。まあ、出る前より2人の距離が近いのは気になるけどな、はは。」
...なんか変な勘違いされてる気がする。
「そうだ、せっかくだしアジトまで来てくれ。時間があれば、イツキくんとも盃を交わしたい。」
「もちろん、ぜひお邪魔させてください。」
シュルクさんはジョッキをゴクリと飲み干すと、10ピラでお会計を済ませた。
「ああ、2人の分も払っておいたぞ。帰ってきてくれたお礼みたいなもんだ。」
「え、あ、ありがとうございます。」
*
「そういえば、その子はなんで連れてきたんだ?」
「街だとエフィに批判的な声が多いんです。引き取ってくれるひとはいましたけど、あそこに置いておくのは辛いだろうなって。」
「そうか。まあ、イツキくんらしいな。」
色々話すうちに、アジトに到着した。アジトと言っても、田舎の広い一軒家って感じで組織とかそんな印象がある場所ではない。
その風貌は変わっておらず、実家に帰ってきた時のような安心感がある。
中に入ると、見覚えのある人が何人か過ごしている。団員の人たちだろう。
もはやシェアハウスみたいなアジトだ。
「いつもの部屋で待っててくれ。そっちまで持って行く。」
「あ、じゃあお言葉に甘えて。」
シュルクさんに食事はお任せして、俺たちは2階の部屋に向かう。大怪我をしてかくまってもらったときの、あの部屋だ。
廊下を歩いていると、見慣れたひとの他に、初めて見る顔の人も何人かいる。傭兵団は出張で任務に勤しむ人もいるため、入れ替わりが結構激しいという。
出会う数人に挨拶をして、顔を覚えてもらうように心がける。しばらくはお世話になるだろうしな。
「あ、お疲れ様です。」
「お疲れ様でーす。」
あんなに洗濯物抱えて、あの人大変そうだな。後で手伝おうかな。
「...ちょっと待った。」
「イツキさん、どうしました?」
今すれ違った人、軽く挨拶で流したけどすごい見覚えのある人だった気がする。
もう一度声かけようかな。いや、ナンパとか思われたらどうしよ。
いや、絶対あれ知り合いな気がする。異世界で感じる機会のない既視感だもん。
アジトで一回顔合わせたレベルの感覚じゃない、完全に知り合いって感じだった。
...ここは、勘を信じよう。
「すいません、俺とどこかで会ったことありますか?」
「え、なんですか...って、え、あ...あんた...。」
その既視感は、間違っていなかった。イメージより少し伸びているが、お気に入りだってよく話していた茶髪のウルフカットに似ていて、俺と頭一つ分くらい違う身長、そして何より俺のことを " あんた " と呼ぶ人間。
俺は幻覚でも見ているんだろうか。
だって俺の知るその人は、現実での間柄だけで、異世界での知り合いではなかったから。
「な、なんであんたがここにいるの...?」
「こっちのセリフだよ、なんで...」
言葉を返そうとした瞬間、彼女は持っていた洗濯物のカゴを放り投げて、俺に抱きついてきた。
「会いたかった...会いたかったよ...!!」
俺がいまだに困惑している中、彼女は飛びついて胸の辺りに顔を擦り付けている。
ダメだ、頭が全く回らない。だって、こんなの信じられないからだ。
「...イツキさん、その人は誰ですか?」
イーファちゃんの声が聞こえると、やっと今の状況が理解できるようになってきた。
顔をもう一度見て、自分の目が間違っていた無かったことを確認する。...信じたくないけど、本当に人違いではないみたいだ。
「...この人は............」
「...ただの知り合いだよ。久しぶりに会ったから。」
今、ここで不必要に喋りすぎると、イーファちゃんを困惑させかねない。一旦ここは落ち着かせて、後でじっくり話し合うことにしよう。
「はぁ!?あんたそんな言い方はないんじゃないの?20年間、ずっと一緒に育った幼なじみをただの知り合いですって!?」
うわ、思い出したこいつの沸点めちゃくちゃ低いんだった...。
「あんたねぇ、死んだ勢いであたしのこと忘れたわけじゃないわよね!?幼なじみの朝希!サキって名前、覚えてるよね...?」
「お、覚えてるよ...ちょっと、この話はまた後で...今都合悪いからさ...」
「はぁ?感動の再会なのになんで?へーそっか、あたしのことなんか嫌いになっちゃったのかー。そんな可愛い女の子といるんだもんねー。異世界に来たと思ったら両手に華、いいご身分ね!」
話聞いてくれないよこの幼なじみ、現実にいる時よりなんか癖強くなってる気がするんだけど。
俺だって話したいことは色々あるけど、今ここで話すべきじゃない。現実のことが関わっている以上、困惑させないためにも一旦抑えるべきだろう。
「ちょっとごめんイーファちゃん、エフィのこと頼む!あとシュルクさんによろしく!!」
「え、あ、はい...?」
俺はサキの首根っこを掴んで、無理やり外に連れて行った。
「誰なんだろう...。イツキさんの知り合い...すっごく仲良さそうだったなぁ..,。」
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