第1話
目の前を優しい光が包んだ。
このままでもいい……まるで天国への道のような心地よさだった……。
「…うぅん……ああ……?」
優しい光がだんだん薄くなり、瞳の裏の色が鮮明に見えた。
恐る恐る目を開けると、そこには現実と変わらぬ青空が広がっていた。
「おぉ〜…青空が一面に……。」
腕を少し動かすと、ここは芝生のような場所らしい。
草の心地よさと、青空の日差しが最高だ……。
あ、やば……寝ちゃいそ………
…って!ダメだろ、仮にも異世界だぞ?
寝落ちしてたら襲われました〜なんて、たまったもんじゃない。
やっぱりまずは村に行かないとな。
周りを散策しようと立ち上がる。
「おぉ〜…。草木が生い茂ってるなあ…。」
見渡す限り、きれいな緑が広がっている。
「空気も心なしか美味しいぞ……!」
いや〜…この景色は現実では見られないな。
なんて贅沢なんだろうなぁ…。
…おっと、自然を楽しむのもいいけど、この世界についてなにか調べないとな…。
こういうのって、村で装備とか食料を集めるんだよな。
お金集めて装備とか日用品とか諸々買って…。
そこから俺のスローライフ、始まりだ!!
体感、数kmは歩いただろうか。
え、村ないじゃん。
天使様、転生下手くそなのかな?
嫌がらせってくらいなにもないよ。
ほんと、めちゃめちゃ何もないよ。
右手のほうに森はあるけど。
あれ、これ詰み?
村に到着せずに、詰み確定しちゃった?
……いや、まだないと決まったわけじゃないよな。
「もう少し歩いてみるか。人に会えればいいな。」
方角もわからないが、とりあえず勘で歩くことにした。
ザク…ザク…
しかし、この世界に来てから感じたことがある。
それは、日本にはない芝生のいきいきとした触感。
空気の清涼感。
ああ、なんて気持ちいいんだろう。
まあ死んだのは残念だけど、課題にも追われないし最高の場所なのでは?
あれから1時間くらい歩いただろうか。
運動不足のせいで体力が落ちてる……。
足がクタクタだ…誰か…人……
その時
「きゃーーーっ!!!」
なんだ?
遠くから、女の子の声が聞こえてきた。
やっと人に会えるのか!
日本語で行けるのかな、まあとりあえず喋りかければなんとかなるだろ!
俺は、声のする方法へと向かった。
「この辺かな………」
声の方向に向かうと、だんだんと木が多くなってきた。
木の枝がたくさん落ちているから、こういうのも焚き火に使ってみるか。
そして、人影が見えた…。
近づこうとした瞬間、足が一切動かなくなった。
疲労で足が動かなくなったわけじゃない。
「………」
騎士のような人が、血だらけで倒れていたのだ…。
横にはRPGに出てくるようなオーク。
そして、返り血で所々赤くなったドレスをまとった女の子がいた。
あまりの残酷さに、吐きそうになってしまう。
「誰か……だれかぁっ!」
涙目になった女の子の声で、はっとなる。
騎士であろう人の剣があそこにある。
不意打ちなら勝てるだろうか?
オークも無傷ではないみたいだ。
バレないように、そっと…そ〜〜っと…………
パキッ
「グルル…」
めちゃめちゃ小枝踏んじゃったよ。
手汗が見たことないくらい出てきてるよこれ。
あ、オークこっちに気づいた。
しかもめっちゃ短剣持ってるじゃん。
そして、剣を構えたオークはこちらに突進してくる。
「うわあああっ!!!」
足が動かない、恐怖で身がすくむ。
俺は転生直後にあっけなく死ぬのか?
ラノベみたいに、スローライフは送れないのか?
…いや、思い出せ。俺はこういうゲームは何個もやってきた。
アクション系のゲームは……やったことないけど。
とりあえず今の俺でもわかることは…………
……避けるしかないっ!!
「横っ!!!」
「グオオ!!」
あぶね…なんとか避けれたけどまだ来る……!!
しかも怒ってる……まずい!!
「グオオオオオオッ!!!!」
「右、左、下っ……」
いよしっ、動き自体は単調だ。
流石に高い知能は持ち合わせてないみたいだ。
逃げて逃げて、その隙に女の子を逃がせれば…
逃げ足だけは速かったんだ、俺だってこれくらい……
「グオォッッ!!」
「ちょ、そっちはダメだ!!!」
女の子の方に行きやがった!!
まずい、あの子だけは助けないと…!!
くそっ、考えてた作戦が総崩れだ!!
このままじゃ女の子は殺されちゃう………!!
でも自分の身を捨てて庇うのか…!?
どうする…どうする俺…!!!!
「危ない!!!」
人助け…そう思った瞬間、俺の足は最高速度で走ることができた。
あの子に指一本触れさせない…絶対に傷ひとつつけさせてたまるかぁぁぁぁ!!!!
「届けぇぇぇぇぇぇ!!!!」
人を抱きしめる感覚と同時に、背中には切られたであろう鈍痛が俺を襲った。
あ、異世界でも、普通に痛みって感じるんだなあ。
ごめん、天使様。
新しい人生、速攻終わっちゃったよ。
俺は女の子をギュッと抱きしめたまま、意識が遠くに行くのを感じた。
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