第4話 なんだったんだろうな……
ぼそぼそと俺が話し終えるとしばらく俺らの間には沈黙が流れた。
気分悪くさせちゃったよな……と俺が一人で静かに反省して、謝罪をしようとしたところでムーンさんがこの静寂を破った。
『クソじゃないですか、そのカノジョさんと親友?さん』
いきなり辛辣……
「いや……、でも俺がイブに、本来はカノジョと過ごすべきだった日にアルバイトを入れたのが悪いので……」
その日にアルバイトをしてまで、お金を貯めていた理由もなんだったんだろうな……と言った俺は喪失感に襲われた。
『一応、クリスマスイブにアルバイトを入れてた理由、訊いてもいいですか?』
「……彼女の誕生日が二月にあるんですけど……、そのときに婚約指輪を贈りたくて……、そのためにはどうしてもアルバイトを入れないと足りなそうだったので……」
『それだと余計クズじゃないですか……。そんな、そこまで想ってくれてるヨースケさんを裏切るなんて……。私なら……』
「えっ?最後なんか言いました?」
『いえ、何も』
最後のほうのムーンさんの声は小さかったので、俺には聞き取れなかった。
ムーンさんが特に何もないというのでまぁ、いいかと俺もあまり気にせず会話を続ける。
「僕が悪いんですよ……。ちゃんと計画的にアルバイトをしてこなかったから、イブにアルバイトを入れざるを得なくなったんですから。……またはしっかりと彼女に伝えられたら違ったのかもしれませんね……」
『ヨースケさん……』
「なんかおかしくなってきましたね。なんでこんなことしてたのか......。ハハ、ハハハハ、ハハハハハハ……」
俺は虚無感に襲われて狂ったように乾いた自虐的な笑い声を漏らした。ムーンさんはそんな俺の様子に困惑してしまったのか黙りこくっている。
俺は申し訳なくなり、少し強制的に自分を落ち着かせると、この話を締めにかかった。
「……ああ、すみません。じゃあ、もういいので、Aqex続きやりま」
『明日って予定空いてますか?いや、空いてなくても明日会いましょう』
……うん?今なんて言った?今、俺は会いましょうと言われたのか?
「僕の聞き間違いでなければ、会いましょうと聞こえたんですけど、今なんて言いました?」
『ヨースケさんが今言われたとおりですよ。ちなみに基本拒否権はありません』
おぉ……、押し強いな……。
俺がそう驚き、感嘆している間にも話は進んでいく。
『確か、ヨースケさんって住んでるの東京でしたよね』
「いや、そうですけど、そういう問」
ムーンさんは俺を最後まで話させてくれなかった。
『じゃあ、池袋駅東口に、九時半でいいですか?』
俺はやっとのことでしっかりと会話をした。
「いや、僕は構いませんけど、ムーンさんはいいんですか?」
『僕は力になりたくて言ってるんですよ』
そういう風に言われると俺は素直に嬉しかった。
「……それならお願いしますけど、一つだけ聞かせてください。なんで俺のために顔も知らない男にそこまでしてくれるんですか?」
『そうですねぇ……』
ムーンさんはどこか懐かしむような声で話し始めた。
『しいて言うなら僕が昔とある方に助けてもらったからですかね。その人がいなかったら今の僕はいないので。本当にあの人には感謝しかないです』
「……じゃあ、僕はその人に感謝しておきますかね。ありがとうございます、名前も顔も知らない方」
『……そうですね……。今日は僕もう終わりにしますね。それでは』
そう言われて通話は切られた俺は窓の外を覗いた。俺の視線の先には一つの煌々と輝く電灯があった……。
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