第2話   どうするべきなんだろうな……

 その後のことなんてよくは覚えていない。


 どことなく身の入らない、入るはずのないバイトをバイト仲間に心配されながらも終わらせたと思うと、いつの間にか俺は帰宅していて、自宅のベットに仰向けに倒れてヒナタとのメールのやり取りを眺めていた。


『(ヒナタ)クリスマスイブとクリスマスって予定あいてる?』

『(水上)ごめん。イブはバイト入れちゃった』

『(水上)スタンプ(可愛いらしいクマがペコペコ頭を下げている)』

『(ヒナタ)わかった』

『(ヒナタ)じゃあ、イブはキョウコとかと遊んでくるね』

『(水上)すまない。クリスマスに埋め合わせはする』

『(ヒナタ)うん。ああ、でもクリスマスは午後からしか空いてなさそう…』

『(水上)分かった。それなら14時くらいにヒナタの家に迎えに行く』

『(ヒナタ)じゃあ、クリスマスでまた』

『(水上)ああ』


(どうするべきなんだろうな……)


 自分に溜め息を吐く。とっとと別れを告げるべきなのか。それとも見なかったことにするべきなのか。それ以外にも選択肢だけならいくらでもある。せめてゲームのように選択肢を三つくらいに絞ってほしかった。選択肢が絞られたとしても、俺がその選択肢から選び、実行できるか否かと問われたらおそらく否と答えることになるのだが。


 そこで頭を悩ませていると、どうしても先程の衝撃的なシーンが頭をチラついてしまい気持ち悪くなる。


 キッチンに駆け込み、蛇口を捻りコップに水を注ぎ、喉に流し込む。

 

 この時期の水道水のため、ある程度は冷えていたが、そのときの水はやけに生温かった気がする。ただ本来の目的だった吐き気を飲み込むことには成功したので俺は少し満足して、部屋に戻った。


 俺はベッドにスマホを放り投げ、再びベッドに倒れ込んだ。


 ベッドから窓の外を見た。外は暗闇に包まれていた。


(なんか考えるのも疲れたな……ここ五階だから落ちたら流石に死ねるよな……)


 俺がこの現実から逃げるという選択を取ろうとフラフラと窓に手をかけたところで、スマホが通知を告げてブブブと唸ったため俺のその考えは阻害された。


 せっかくスマホを放したのにまた見ることになるのか……と俺は少しまた気が重くなったが、スマホを手に取った。


 スマホの画面に表示されていたのはSNS、ツイッターのダイレクトメールが来たことを告げるものだった。俺はそこで先程の出来事のせいですっかり頭から消え去っていた今日のこの後の予定を思い出した。スマホに表示されている時間を確認する。


(やっべ。時間過ぎてるし……)


 一応、スマホを開き内容を確認したが、そこに書かれていたのは俺の予想した通りのことだった。


『(ムーン)ヨースケさん、どうします?今日の対戦』


 俺は画面の前でこれに対する返信について頭を悩ませた。


(元々、約束していたことだからな……。今から謝ってでも本来はやるべきなんだろうけど、あんまり気分が向かないというか……。やっぱりあんなものを見せられた後だしな……)


 そこで俺は謝って断ろうとメッセージを打ち込み始めたが、『申し訳ない。対戦また今度でお願いできm』まで打ち込んだところで思い直した。


(でも、ゲームって元々は気分転換とかのために始めたものだしな…死ぬかどうか俺を悩ませている現状を少しは忘れられるんじゃないか?)


「まぁ、じゃあやるか……」


 俺はそう決意を固めると今打ったメッセージを消して新しく打ち込んだ。


『(ヨースケ)申し訳ない。遅れました。今から潜ります』

『(ムーン)じゃあ、いつも通りでお願いします』


 返信を確認すると、俺はいつも通り準備を始めた……。




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