第3話   ネッ友と通話

『あっ、ヨースケさん聞こえてます?』

「聞こえてますよ。ムーンさん」

 

 俺らはいつも通りボイスチャットツール、Discortディスコートで通話を繋いでゲームを始めた。


 このゲーム、Aqexという基本銃で語り合うバトルロイヤルゲームにも専用のボイスチャットはついているのだが、基本三人でパーティを組んで戦うこのゲームの都合上、ボイスチャットの内容が野良の三人目の人に聴こえてしまうので、俺らはわざわざ違うアプリを使って通話をしている。


『じゃあいつも通りよろしくお願いしま〜す』

「お願いします」


 そうしてゲームが始まる。物資を適当にムーンさんと二人で漁っているとゲーム内から敵が接近してくる足音が聴こえてくる。


『ヨースケさん、右から敵』

「おけです」


 俺は物陰にキャラを滑り込ませ、中に入ってきた敵目掛けて銃を放つ。ドドドンと銃の放たれる重厚な音と共に敵が倒れる。


「一キル」

『ナイスです』


 ふぅと俺は安堵のため息を漏らす。あのせいで少し震える手でもほとんどいつもと遜色のないプレイができたからだ。


 そこで少し気を抜いてしまったのが悪かったのだろう。頭の中で再びあの時の出来事が映像としてフラッシュバックする。


 吐き気が俺を襲う。それをなんとか堪えると今度はとうとつに今後のことについて考えさせられた。


 結局、どうするのが正解なんだろうな……。というか明日に予定してたヒナタとのデートどうしよう……。


 そんなゲームに関係ないことに思いを馳せていたからだろう。いつの間にか、目の前まで敵が迫っていることに気付かなかった。


『ヨースケさん!前前!』

「えっ?」


 俺がムーンさんにそう言われてゲームに意識を取り戻した時には俺のキャラが敵のキャラの使うショットガンで撃たれ地に伏していた。


 ムーンさんと味方の一人が応戦するが、敵の三人に対して、二人では、相手が連携の取れた上手い立ち回りをしてきたのもあって他勢に無勢だった。残りの味方の二人もまもなく倒れてしまい、“全滅“という文字が画面に映る。


「あっ……。申し訳ない……」

『いや、僕があらかじめカバーに入ってればよかったです。こちらこそごめんなさい』


 どこか集中しきれないまま対戦を終えたところで、しっかりしなきゃな......と反省している俺にムーンさんは突然尋ねてきた。


『ヨースケさん、今日何かありました?』

「えっ?」

『いや、なんか集中できてない、心ここにあらずみたいな感じがしたのと、なんというか……いつもより声のトーンとか低い気がしたので』

「……」

『悩み事とかあるなら、僕でよければ相談とか乗りますよ』


(相談してもいいものなのか……?)


 実際に会ったことはないネッ友とはいえ、週一で通話を繋ぎながらもう一年ほど一緒にゲームをしている仲であり、ツイッターでは俺の数少ないフォロワーの中で間違いなく一番絡んでいて、その人柄の良さも知っている。


(でもな……あんまり人に話して、聞かせて気分のいいものではないんだよな……)


 そうぐちゃぐちゃと考えながら止まっている俺の背中をムーンさんは押してくる。


『多分、話すべきか話さないべきかで迷ってますよね。そういうときは何かしらアクションをとったほうが良いほうに大体転びますよ』

「まぁ、そうかもしれませんけどね......。聞いてて多分不快になられると思いますよ......」

『それでもいいので話してみてください。......僕も力になりたいんです......」


 僕も......?


 気になるところはあったが俺はそこに今突っ込むべきではないのでスルーした。そういう風に言われると俺も嬉しかった。


「じゃあ、話しますよ」

『ええ』


 俺はぽつぽつと先ほどの出来事を、彼女をNTRれたという事実を語りだした...。

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