第5話   えぇっと……ムーンさん?

 翌日、俺は十分前に池袋の人混みの中にいた。この人込みじゃお互いに顔わからないから会うの大変そうだな……、服装くらい送っておくべきか?と悩んでいた。


「ヨースケさん」


 突然後ろから声をかけられた俺が振り返ると俺は後ろに立っている人を見て困惑に陥ってしまい、咄嗟に言葉が出てこなかった。それでも、なんとか言葉を紡いで尋ねた。


「……ええっと、どちら様でしょうか……?」

「どうもはじめまして!ムーンです」


 俺の頭の中には?マークが三十個ほど並んでしまい、俺は黙りこくってしまった。


「……」

「立ち話もなんですし、カフェにでも入りましょうか」


 そうして俺は頷くわけでも断るわけでもなく、連れられるがままに駅の目の前にあるカフェに入った。


「アイスコーヒーお願いします。ヨースケさんどうします?」

「あっ、じゃあ僕も同じのでお願いします」


 俺は店員さんにそう頼んだところでようやく一部を除いた困惑から解き放たれた俺は頭の中で現在の状況について整理しだした。


(いや、ちょっと待って。どういうこと?俺はネッ友、男のネッ友と会いに来たんだよな?それなのに、なんで俺はこんな絶世の美女といっても差し支えない女性と対面してるんだ?)


 俺の目の前にいるムーンさんを名乗った女性は肩にちょうどかかるくらいの長さのサラサラとした質感が見てるだけでも伝わってくる黒い髪に、ドラマのヒロイン役を演じるような女優さん似の顔立ちをしている、百人の男に美人かどうかを訊いたら間違いなく百人とも美人と答えるような方だった。


 実際、チラチラとムーンさんを見ている男性の姿も見られた。


 お互いに座っているだけで話が進まないので、店員さんがコーヒーを持ってきてくれたところで俺は口を開いた。


「あの、何個か質問してもよろしいでしょうか?」

「いきなり改まらなくていいですよ。いつも通りでお願いします」


 そういって微笑んだあとで、ムーンさんは俺の質問に答えてくれた。


「質問ならいくらでもどうぞ!なんならバスト、ウエスト、ヒップとかのサイズでも構いませんよ!」


 コーヒーを飲んでいた俺は思わず吹き出しそうになったのを堪える。それを誤魔化すかのように、ムーンさんの言葉をスルーして、俺は質問を始める。

 

「ええっと、まずムーンさんって女性の方だったんですか?」

「ええ、そうですね。隠していたようでごめんなさい。女性と名乗ると寄ってくるウジ虫がどうしても湧いてしまうので……」

「ああ、なるほど……」


 それは男の俺でもよくわかる。所謂、出会い厨のことだろう。ツイッター上でAqex女子とやらにしつこく言い寄っている男を見たことがある。


「じゃあ、次いきますね。どうやって男の声出してたんですか?」

「あの、変声機ボイスチェンジャーを使ってました」


 ボイスチェンジャーか……。某国民的探偵アニメの主人公が使っているのを見たことがあるだけだな……。


「じゃあ、そろそろ私もヨースケさんに質問してもいいですか?」

「……ええ。どうぞ」


 正直なところ、まだ気になるところはあったのだが、俺ばかり聞くのも不公平であろうから俺は頷いて彼女を促した。


 彼女は真剣な顔を俺に向けた。俺は唾を飲んだ。


「……ヨースケさんって今後どうするつもりですか?」




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