第20話  撃退しました……

19話、流石に主人公がクズっぽかったので少し改稿入れました。


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「無理だよって……じゃ、じゃあ、私はどうすれば……」


 ヒナタは口を震えさせながらなんとかそう吐き出した。


「……」


 どうすればか……、それに対する答えを出す前に俺にはヒナタに言わなきゃいけないことがある。


 あの事件で枠内に嵌め込まれていたパズルのピースは飛び散り、びりびりに破けた。すなわち俺とヒナタの関係は瓦解したのだが、その壊れたピースを一枚一枚拾い上げるように俺は俺の記憶を振り返る。


 写真では消せても記憶には確かに残っている。彼女との出会いから告白されたときのこと、初めてデートをした時、初めて手を繋いだ時、初めてキスをした時。それだけじゃない。一緒に笑い会ったとき、喧嘩をした時。あの愛しい日々を俺は確かに覚えている。


 俺はそれに逃げずにしっかりと向き合い、乗り越える。クリスマスのときのように流れで別れるのではなく、今回はちゃんと伝える。


「イブとか、それ以外もそうだけどちゃんとヒナタと一緒にいてあげられなくて、ちゃんと考えてやれなくてごめんな。それは本当に俺が悪かった」


 俺は立ち上がるとそう言ってヒナタに頭を下げた。


「婚約指輪とかも、ただの俺を正当化するためだけの言い訳にしかすぎなかった。だからこそ言わせてもらう。……別れよう、今度こそちゃんと」

「いっ、嫌よ!……別れたら私は本当に、どうやって生きていけばいいの?」


 びりびりに千切れたパズルのピースはセロハンテープとかで留めれば、直るかもしれないがあくまでも元通りにはならない。


 俺はそれを端的に伝える。


「どうやっても、もう元の状態には、あの日々には戻れないんだ」

「っ——、それなら元通りじゃなくてもいい!だから……!」


 俺はそう必死な声で言ったヒナタに静かに首を振った。


「何よりも俺がもう無理なんだ……」


 過去と向き合ったからこそ分かる。間違いなく俺らはやり直せない。


「別れてくれ。頼む」

「……ねぇ!思い直してよ……。お願いだから……」


 ヒナタは消えそうな声を出した。俺はそれに首を横に振った。そして、あくまでもそれを拒否し続ける。


「もうお願いもへったくれもないんだ……」

「それでも……」

「いつまでもゴニョゴニョ言ってますね。あなたは本当に犯した罪が分かってるんですか?あなたのした行動は人の心を———殺すものなんですよ」


 あまりにも終わりの見えない会話を見かねたのか、そう瀬川さんが割って入って来た。


「あなたと一緒にいたら余計ヨースケくんは苦しむだけなんですよ。もういい加減にしてください」


 周りからもいい加減にしろ。もうやめてやれよ!などと声が上がる。


「なんで、なんで、なんで……」


 その後に続く言葉がなんとなく俺には分かった。


「誰も分かってくれないのか?か……。なんでだろうな?」

「……洋介くんは分かってくれるよね……」

「……分からない。……ただ、言えるのは今のヒナタのことを俺は嫌いだ」


 俺がそう縋るように再び手を俺に伸ばして来た彼女のことを切り捨てた。すると、彼女は目を見開いて、そして次の瞬間泣きそうな顔で何かを言おうとしたが、それを思い止まったのか走って教室を出て行った。


 教室には静寂が訪れた。


「やっと、終わったのか……」


 そう誰かが呟いて平和になったとホッと息を吐くのを横目に、俺はそれでも決して明るい表情などを浮かべることはできなかった。今回の件を通して俺には分かったことがあるからだ。それを誰にも聞こえないような小さな声で呟く。


「お互いにもう過去を背負って生きていくか啓汰みたいに死ぬしかない……」


 俺は前の俺のように過去の事を忘れて切り替えるのではなく、背負っていく道を選ぶ。なぜならこれが———今までの行いへの俺のせめてもの贖罪だから……。




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