第24話  ルート分岐If 階段は崩壊し、空は翳る【ヒナタ視点】

 私は家を飛び出して大学に舞い戻った。


 ぎりぎり講義の終わる前に大学に着くことのできた私は講義室前で息を整え、心を落ち着かせた。そして、教授が出てくるのと入れ替わりで講義室に入った。ただ、心を落ち着かせた意味はすぐになくなった。洋介くんの隣で瀬川さんが微笑んでいるのを見ると私の心がそれに対抗するように暴れ出したからだ。


 彼の隣にいるべきなのは私なのに!


「洋介くん!」


 声をあげた私を見て、彼は少し面倒臭そうな顔を、周りにいた人たちはなんでここにまたいるんだ?という意味を含んでいる怪訝な顔を浮かべ、痛いほどの視線を浴びせてきた。


 ただ私はそんなものは気にせず、洋介くんの前に向かった。彼の前に立つと彼の隣の席に座っていた瀬川さんが再び声をかけてきた。


「またいらしたんですか?今度は何のご用件でしょうか?」


 瀬川さんに構っていると先程のように洋介くんにろくに話しかけられずに終わってしまう可能性があったので、私はそれを雑音だと思い、無視することにした。


「洋介くん、私は知らなかったの!」

「……いきなりどうした?」


 少し先走りすぎたので私の言葉を理解できなかったのだろう。


「洋介くんが私のために、婚約指輪のためにアルバイトをしてたなんて。啓汰には教えてもらってなかったの。啓汰が教えてくれてたら…」

「……だからどうした?俺に浮気されたから啓汰と付き合い始めたんだろ。……明らかにもう俺と関係ないだろ」


 皮肉を込めて放たれた洋介くんのその言葉に私は詰まりそうになるがここで止まったらおしまいだと自分を言い聞かせその場に踏みとどまった。


「……さっきのは誤解だったの。あんなことを本当は言いたかったわけじゃないの」

「いや、誤解って……。俺に明らかに冤罪を着せようとしてたっていうのはまごう事なき事実だろ……。それにあんなことを本当は言いたくなかったって……、犯罪と同じだろ……、別に人を殺したかったわけじゃないっていうのと。どちらにせよそれは有罪だぞ……」

「そうかも知れないけど……」


 私は言葉に詰まってしまった。まずい。とにかく何かを言わなければその一心だった。


「私は何も知らなかったの!……だから、もう一度やり直さない?」

「知らなかったから、元通りって普通できるか?」

「……元通りにはできなくても!」

「……そんな都合よくはいかないだろ」

 

 洋介くんは一つ一つ言葉を選ぶように私に伝えていく。


「浮気をされました。それは俺にも原因があるぞ。……でもな、その浮気っていう行動自体がとっても大きなことなんだ。どんな熟練の夫婦だろうが関係の歯車が間違いなく外れるぞ。その上、ありもしないことを言ったんだ。……歯車は間違いなく粉々に壊れて、修復不可能になる」


 事態はどんどん悪化していく。なんとか打開策を見出さないと……。


 焦った私は更に階段を踏み外していく。


「でも、何事もやってみないと分からないし」

「いや、分かる。この世には確かにそれが正しいこともある。ただ、これだけは絶対に言い切れる。俺らは元には戻れない」


 元には戻れない。新しくやり直すことは出来るの?そうは恐ろしくてとても訊けなかった。ただ、一つだけ訊けることがあった。といっても訊けるというのは正しくはない。訊かなくてはいけないことだった。


 私は震える声で訊いた。訊いたらもう完全に——終わりだと分かっていたのに。


「ねぇ、洋介くんはもう私のこと嫌い?」

「……キライだ」


 私にとってのピーマン、食べれるけど嫌いみたいなものではなかった。洋介くんの放ったのは——生理的に受け付けない、受け付けられない方のキライだった。


 全身を今まで感じたことのない悪寒が襲う。ああ、目の前が真っ暗になるってこういうことなんだと私は朧げな薄れていく意識の中で思った。




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この流れからの復縁ルートは少し厳しかったですね……。(ヒナタさんにそれだけの魅力が足りなかった……。というよりそういう風に書かなかった……。)

別ルートで書かせていただきます。

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