第11話 ちょっとな、色々あって……
俺は家に帰ると、真っ先にヒナタと啓汰の二人のLINOの連絡先を今後、俺側から連絡を取れないようにするために消した。その勢いのままに一緒に撮った写真も全て消去していく。
その数多の数の写真を、思い出の数々を見ていて少し胸が痛んだが俺は気にせず、過去の清算の意味を込めて削除ボタンを押した。
俺は彼らとの思い出の写真が全て消えたことを確認すると息をふぅっと吐き出した。
(これで完全に俺側からできることは終わらせたな……)
ベッドに倒れこみ、今日のことに思いを馳せながら俺は謎の満足感に包まれて深い眠りについた……。
そうして詰め込んでいたバイトをこなしたり、変声機を外したムーンさんと話しながらゲームをして過ごしているうちにあっという間にあの事件から二週間が経った。
冬休みが明けて、初めての大学。
俺は彼ら二人と同じ講義を取っているので、必然的に彼らと会うことになるため少し気が重かったが、もう彼らとは無関係だと自分に言い聞かせ、家を出た。
大学の校門をくぐり、講義室に向かって歩いていると突然後ろから、おはよう洋介と声がかけられる。
俺は振り向き、その声の主に返事を返す。
「おう、亮か。おはよう」
大学に入ってから俺にできた友人の一人で、俺と啓汰、そして亮の三人で大学生になってからはヒナタのいないときは一緒に昼食をとったりしてよくつるんでいた。
寒いなとか正月どうだった?みたいな他愛のない話をしながら歩いている内にふと気付いたように亮は俺に尋ねてきた。
「というか岩崎さんは?いつも一緒なのに珍しいな」
「……ああ、まぁ色々あって別れた……」
俺の先ほどとは打って変わった声に冗談だと思ったのか軽めの口調で返事が返ってくる。
「えっ?マジで?」
「……本当だ」
「……」
俺のお世辞にも明るいとは言えない声から何かを亮は感じ取ったらしく気まずい空気が流れた。
「ああ、なんか、すまないな……。その、色々の部分、何があったのかとかは聞かない方がいい感じか?」
「ああ……、その方が助かったりする。少なくとも聞いてて気分のいい話ではないしな」
「そうか……」
そうしているうちに講義室に着き、俺はいつも通りの席に座った。
俺の通路を挟んで、隣に座っている眼鏡とマスクを着けた女子がいつも通りおはよう、水上君……と少しくぐもった声をかけてくる。俺は瀬川さん、おはようと返して亮の方を向く。
俺の目の前の席に座った亮は振り返り俺の方を向くと、なんであの熟練夫婦が別れるんだ?と静かにぶつぶつと呟き、一人で考え始めた。すると、タイミングを見計らったかのように亮に答えを示すように二人が手を繋いで教室に入ってきた。彼ら二人は並んで俺とは対極の席に座った。
それを見た教室にいるほぼ全員がそれを見てざわつき、俺をちらりと見てからもう一度彼らを信じられないという風に凝視し始めた。
それは亮もまた例外ではなかった。亮もそれを見て、しばらく呆気にとられた様子だったが、俺の方を向いてきた。俺は静かに困ったような顔をして見せる。
それで、亮は俺がヒナタを啓汰に奪われたことを察したのだろう。亮は勢いよく立ち上がると、啓汰に詰め寄った。
「おい、啓汰!お前、人の彼女を奪ったのかよ!」
その勢いに気圧されてただでさえもともと下を向いていた啓汰は更に下を向いてしまった。亮の言葉で周りにいた人の視線が彼ら二人に突き刺さる。
「おい、どういうことだよ。答えてくれよ!」
「……」
それでも何も言わない啓汰にしびれを切らしたのだろう、ヒナタが声をあげた。
「もう私が言うわよ。洋介くんが私に隠れて浮気をしていたの!だから洋介くんと別れて、啓汰と付き合い始めただけ!」
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