第10話 甘い誘惑【啓汰視点】
俺には小学生のときから片想いをしている幼馴染がいた。しかし、意気地なしの俺はそんな想いなど告げることのできずに、俺らの関係は進展しないままで、ただただ時だけが経っていった。
そして、俺たちが大学生のときに彼女には彼氏ができた。それは俺の高校時代からの親友だった。
俺は私たち付き合い始めたんだと俺の親友、洋介の隣に立ち、恥ずかしそうに笑う幼馴染を見てそうか……。良かったなと無理に笑って返すことしかできなかった。
幼馴染のことは好きだが、幼馴染の幸せが一番、それに親友との仲を壊したくないと自分に言い聞かせて、こうなった以上、俺は俺の彼女に対する想いを心にしまっておくことを決めた。
そんなある日、俺は幼馴染に相談をされた。洋介がバイトにかまけて私に構ってくれないと。ただ、一か月ほど前に洋介から二月の日向の誕生日にサプライズで婚約指輪をあげたいけどバイト入れないとまずいかな?と相談されて、なんで洋介が日向に構ってやれないのかを知っていた俺は洋介のことを庇いつつ、日向の話に付き合っていた。
それから、寂しいから話し相手になってと日向が電話、ときには俺の家に来るようになった。あんまりこういうのはお互いにとって良くない……そう思いながらも彼女と一緒に過ごす時間は楽しかった。
そのため、俺は自分自身にこれは決して浮気とかではない、そう必死に言い聞かせて親友の前でもいつも通りを装い、この関係を続けた。
そして、クリスマスイブの前々日。俺に彼女から電話がかかってきた。
『ねぇ、啓汰。イブって予定空いてる?空いてるならその……、一緒に夜を過ごさない?』
彼女の口から出された内容は衝撃的なものだった。俺は一応、聞き返した。
『……それってその、そういう意味か?」
「……うん」
ここで俺は断るべきだったのだろう。日向には洋介という彼氏がいるだろと。流石にそれは行き過ぎだと。
そうすれば少なくともあんなことにはならなかったと思う。だが、食虫植物と知りつつも、甘い蜜を出しているのを目の前にした虫が誘惑に負けるように、愚かな俺はその提案に悩んだ末に、親友への配慮より、彼女が欲しいという気持ちが勝ち、乗ってしまった……。
クリスマスイブ当日、俺は彼女と腕を絡み合わせて一緒に歩いていた。
そしてホテルに入り、彼女の生まれたばかりの姿を目にしたところで俺は洋介の顔が頭に浮かび、物凄く心苦しくなった。俺は押し寄せてくるそれに抗うように、彼女を強く抱きしめて交わった……。
禁忌を犯してしまった翌日、俺はもう少し一緒にいたいという日向に流されるように池袋を並んで歩いていた。
そこで日向が洋介くんが……と突然声を漏らしたところで、俺も洋介に浮気現場を見られてしまったことに気付き、目の前が真っ暗になった。ただ洋介の隣には綺麗な女性が立っていた。そこで俺はよく分からなくなった。浮気をしていた後ろめたさと洋介の浮気のような場面を見たということから、俺には気まずい顔しかできなかった。
その後、二人が言い争っているのを俺は黙って聞いていたが、洋介にクリスマスイブの現場も見られていた、それに言い返した日向に対する洋介の隣の女性のどこか物言いたげさに俺は洋介からは浮気ではない何か別のものを感じ取った。少なくとも洋介からは普通、浮気などから生ずるであろう後ろめたさを感じなかった。
最終的に二人が決裂したところで、俺は物凄い後悔に襲われていた。結局、俺は二人を不幸にしただけなのか?お互いを想い合っていたはずの二人を。
どんな形であれど俺は親友の彼女の提案に乗ってしまった。
俺はそこでどうしても洋介に謝らずにはいられなかった。謝ったところでもう外れてしまった歯車を元どおりに修復することは不可能だとわかっていながら。
どんなに謝っても、俺の中に渦巻く罪悪感が消えることはなかった……。
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