第9話   言い訳【日向視点】

 最近、洋介くんが以前と比べてあまり一緒に過ごしてくれなくなった。理由を尋ねてもアルバイトとしか教えてくれなかった。


 彼は私が不満そうな顔をするたびに申し訳なさそうな顔でごめんと謝ってくれた。


 ただそれでも、私は放っておかれている気がしてどうしても寂しくなった。だから、洋介くんの親友であり、私の幼馴染でもある啓汰に尋ねてみた。どうしたら洋介くんが私と一緒にいてくれるのかと。


 啓汰は親身になってそんな私に接してくれた。久しぶりだった、こんな感覚は。この寄り添ってもらえる温かい感じは。


 私はそれからも洋介くんがアルバイトなどで私と一緒にいてくれない時間は啓汰と過ごすようになった、あくまでも相談とかこつけて、誰にも言わずに。


 そして、クリスマスイブ、カップルにとってお互いの誕生日の次くらいに大切な日の前々日。


 私はメールで一応洋介くんに予定を尋ねた。すると『ごめん。アルバイト』とそう予想した通りの返信が返ってきた。


 軽く溜め息を吐いた私はそこでいつもより一歩踏み切ることにした。啓汰に電話をかける。


「ねぇ、啓汰。イブって予定空いてる?空いてるならその...、一緒に夜を過ごさない?」

『......それってその、そういう意味か?』

「......うん」


 電話なので啓汰の表情は分からなかった。ただ彼は少しの間の沈黙のあと、分かった。そうしようと私に言ってくれた。私はそこで洋介くんには安心させるために嘘を吐いた。女友達と一緒にイブは過ごすと。


 クリスマスイブの夜、私たちは待ち合わせをした。クリスマスの気分を啓汰と味わうためにわざわざ駅前の綺麗なイルミネーションの飾り付けのなされたクリスマスツリーを見て、ケーキを買った。そうして空気を作った私たちはホテルに入った。そして、体を重ねた——。



 翌日、クリスマス当日の朝。


 同じ夜を同じ場所で明かした朝、啓汰と一緒に歩いていた。洋介くんでは埋められなかった穴を埋めてもらえた気がして、気分よく池袋を洋介くんと会う時間までぶらぶらとしていようと思い、啓汰と並んで歩いていた。


 その時、洋介くんと目が合った。彼の隣には私の知らない綺麗な女性が彼を支えるように立っていた。


 なんで?洋介くんが女の人と?


 私は思わず、洋介くんが......と口から漏らしてしまった。隣にいる啓汰も私が言ったことで気付いたのだろう。啓汰はバツの悪そうな顔を浮かべた。そんな顔をされると本当に私たちだけが悪いことをしているみたいじゃないと無言で悪態を吐いた。


「どういうことだよ......」


 彼のその心底辛そうな声に一瞬私は詰まってしまったが、洋介くんの隣にも女性がいる。彼もまた浮気をしていた、私に寂しい思いをさせて。そう思うと腹が立ってきた。


 だから私もしっかりと言い返した。ただ、彼はそれに対して冷静に返してきた。


 それは余計に私のことをヒートアップさせた。また、それは私を一瞬、もうどうでもいい気にさせた。


「それはその……、クリスマスイブっていう恋人同士の大切な日に私をほったらかしたのが悪いのよ!その間どうせ洋介くんもその隣にいる女の子と楽しんでたんでしょ!」


 言っちゃった......そう思った時にはもう遅かった。


 洋介くんは何かを言いかけた彼の隣にいる女性の言葉を止めて、静かな声を出した。


「そうか……。ごめんな。ヒナタの気持ちを分かってやれなくて……、じゃあもう終わりにしようか……」


 ああ......、もう終わりなのか......。こんな形で終わるのかと私は一瞬胸が痛んだが、啓汰がいるからいいと自分に言い聞かせた。


「洋介くんとその隣の子がどういう関係かは言わないのね……。まぁ、そうね……。じゃあ、別れましょうか……」


 そう言い捨てて、私は啓汰の手を引っ張り、さっさとこの場をあとにした。


 あんな男なんて忘れて、啓汰と幸せになる。そう私はもう一度言い聞かせ、一緒に帰った。


 ただそのとき、私はまだ何も気付いていなかった。——隣にいる啓汰が何かに襲われて、苦悶の表情を浮かべていたことに。




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補足説明で次回、啓汰くん視点回になるかもしれません。

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