第8話 前を向くのみ
「えっ?いや、まぁ予定空いたので構いませんが......」
「じゃあ、決まりですね!付いてきてください!」
ムーンさんは俺の手を引っ張る。俺は引っ張られるがままに池袋のムーンシャインシティのポケモ〇センターや、カラオケなど色々なところを連れまわされた。
「あっ、この赤いワニ可愛い!」
最初に訪れたポケモ〇センターでそう言って彼女が手に取ったのは少し太った間抜けそうな顔をしたポケモ〇だった。
「……」
(いや、なんだ……。このポケモ〇……。可愛いではなくないか?この圧倒的なんか違うやろ感……。こういうのがムーンさんは好きなのか?)
「この子可愛いですよね」
反応に困った俺は少し引き気味な声で返した。
「……えぇ、そうですね……」
「あっ、今引きましたね」
歌に自信がなかったので今まで人生上一度も行ったことのなかったカラオケでは
「おぉ、95点……凄いですね。ムーンさん」
「いやいやそれほどでも、ささヨースケさんも歌ってみてください」
「えっ、俺もですか?」
「そうやって見てるだけじゃつまらないじゃないですか」
そうしてマイクを押し付けられて俺は歌わされた。
なんとか聴いたことのある程度の曲を一曲歌い終わった俺は自分の点数を見て愕然としてしまった。
「56点……」
「……私は個性的な声でとてもいいなと思いましたよ!」
フォローの仕方に俺は思わず突っ込む。
「……そこは素直に下手と言ってくださっても」
「さっきのお返しです!」
会話を一部かいつまんで説明するとこんな感じだった気がする。
(なんでだろうな……。あんなことがあった後なのになんか不思議と楽しいんだよな……)
そんなことを回想しながら池袋駅に戻ろうと歩いているとムーンさんは突然足を止めて、俺に声をかけてきた。
「そういえば一つ聞きたいことがあるので訊いてもいいですか?」
「?……良いですけど」
「なんで、さっき元カノさんに反論しなかったんですか?別にヨースケさんが悪いわけじゃないのに……。あれじゃあ、勘違いされたままですよ」
「ああ……、あれは僕が悪いからいいんですよ……。別にバイトをしてたからって彼女のことをほったらかしにしてたのは事実ですから」
「……優しいんですね、ヨースケさんは」
彼女はそう微笑んで言った。いつの間にか雲が割れて差し込んでいる夕陽に照らされている彼女の綺麗な顔に俺の胸がドキリと跳ねる。
俺はムーンさんの顔を直視していられなくなり、思わず顔をそむけた。
なぜかそんな俺を見て彼女は更にふふっと微笑んだ。
その後、俺らは連絡先を交換して池袋駅東口前で別れの挨拶をしていた。
「ムーンさん、今日は本当にありがとうございました!」
「いえ、ちょっとでも気晴らしになったなら良かったです。……辛かったらいつでも頼ってくださいね!」
「ええ、それではまた」
そうしてムーンさんと別れた俺の足取りは軽かった。
(ムーンさんと会ってよかったな)
ムーンさんのおかげで俺の気分は軽くなっていた。
(帰ろう。ヒナタと啓汰のことはもういい。忘れて前に進もう)
俺は昨日と打って変わった軽快な足取りで帰路に就いた……。
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