第14話  それではご退場

 最後の詰めとばかりに、追い打ちをかけるように瀬川さんは続ける。


「それにあなたは水上くんが浮気をしていたと何度も言っていらっしゃいますが、そもそもそんな時間が水上くんにはあったと思いますか?」

「……私にアルバイトって嘘を吐いて、どうせあなたと浮気してたんでしょ!」

「もう、そこら辺から違うんですよ……」


 そう呆れたような声を漏らした瀬川さんは俺のことをチラリと見て、少し申し訳なさそうな顔を見せて続きを話し始めた。


「水上くんはあなたのために、あなたの誕生日に婚約指輪を贈るためにずっとアルバイトをしていたんですよ」

「……えっ?」


 俺が敢えて伝えていなかったことを瀬川さんに伝えられたヒナタは信じられないという風な声をあげ、それに対して周りからそれを浮気だとか言っていたの?ひどすぎ…など非難の声が上がる。ヒナタは自分に必死に言い聞かせるようにボソボソと呟く。


「そんなの、嘘……。洋介くんは、洋介くんは浮気をしていたの……」


 そんなヒナタにこれでもかというほど瀬川さんは容赦なく言葉を突き出す。


「そんなにそう思われるなら、水上くんのアルバイトのターム表とか見ればいいじゃないですか。そうすれば真実が分かってスッキリ?すると思いますよ」

「……嫌」


 そうヒナタは漏らすと堪えきれなくなったのかいやいや、やだやだと赤子のように騒ぎ出して、伏せていた啓汰を起こし半ば引きずるようにして教室を飛び出して行った。


(終わったのか……?)


「はぁ……」


 俺は特に何もしていない、というより本当に何もしていないのだが、どことなく疲れてしまったためそう溜め息を漏らした。


 隣で立っていた瀬川さんは眼鏡とマスクを再び付けて座り、彼ら二人に詰め寄っていた亮も俺の前の席に戻ってきた。亮はお疲れ様と俺の肩を叩いてくる。


 何もしなかった自分が情けなくなり、心の中で静かに謝罪する。


 すみません。何もしなくて。


 そうすると俺は顔をあげて、亮と瀬川さんを見て二人に感謝を伝えた。


「亮、瀬川さんありがとう……。普通に二人がいなくて俺だけだったら今頃あの二人じゃなくて俺が死んでた……」

「友達だろ!良いってことよ」

「いえ、お役に立てたなら良かったです」


 亮、瀬川さん……。俺が静かに感慨に打たれていると亮が尋ねてくる。


「というかそういえばマスクと眼鏡を外した瀬川さんのこと、ムーンさんって言ってたけど、どういうこと?」


 ああ、それはと話そうとしたところでちょうど教授が入ってくる。


「話すと長くなるから講義終わった後で話す」


 俺は端的にそう伝えると亮はOKと頷いてみせる。それを確認した俺は講義モードへ切り替えた……。



 そして講義終了後、俺が最初の寝取られた部分から整理して話すと亮は納得したように頷いた。


「なるほどな……。そう考えると凄い確率だな……。助けてもらったネッ友がたまたま瀬川さんなんて本当に奇跡だろ……」


 俺はそれに頷く。


「確かにそうだな……。本当に奇跡だな……。俺の人生全体で使える運、オールインしちゃったレベル。そう思いません?瀬川さん」

「……えっ?そっ、そうですね……」


 俺の言葉に何処か歯切れ悪く返した瀬川さんだったがそれの理由について俺はまだ知らなかった……。




———————————————


第一章完

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