第17話  遺書という名の重石&決断のその末に【啓汰視点】

 寝耳に水とはおそらくまさにこういうことを言うのだろう。


 最初に刑事さんが俺の家にやってきて俺に啓汰の自殺を伝えたとき、俺は俺に啓汰が頼み込んできたのが昨日の今日であったこともあり、目を思わず丸くしてしまった。


 そこで俺は、それなら何故他殺でもないのに俺のところにわざわざ来たのかと思わず身構えたが、それは空振りに終わった。どうやら俺のところに来る前に、おそらく事情の知っている大学の同級生に聞いたのだろう。刑事さんは俺と啓汰の間にあったことを知っていた。そのため、俺にあまり深く要因などは聞くことはなく、事実の確認だけすると、啓汰の書いたという遺書を渡し帰っていった。

 

 俺は刑事さんが帰った後、一人で遺書と睨めっこをした。


 あまり見たくはなかったが、何を書いているのか少し興味をそそられたため、最終的に俺は刑事さんから渡された啓汰の遺書を開いてしまった。


『拝啓 水上洋介様


 まず初めに謝らせてください。もう謝っても遅いし、意味がないのは分かっていますがそれでも謝らせてください。

 申し訳なかった。

 そして、もう一つ。こんな形で、置き土産みたいな形になって申し訳ないが、日向のことを頼みます。お願いだからどうか救ってあげてください。


 敬具』


 俺はそれを最後まで読むと思わず溜め息を漏らして、遺書を読んだことを後悔した。普通に頼まれただけでは何とも思わなかったものでも、死という要素を絡められたことにより、それは途端に形をタチの悪いものへと変え、俺に重石としてのしかかってきた……。




ー啓汰視点ー


 

 あの日、俺と日向が浮気をしているところを洋介に見られて日向と洋介の二人が別れを告げあった日以来、日向は俺に余計依存するようになっていた。


 それ自体は少し後ろめたさを引きずったが別に彼女と一緒にいられる。それだけで嬉しかったし、良かった。


 ただ、その時から既に日向は足りないものを補うように、俺に依存してきた。その足りないもの、その正体が分かってしまう俺にはそれが心苦しかった。


 

 そして、冬休み明けて初の大学の日を迎えた。俺はあまり乗り気ではなかったが、日向が手を繋いで一緒に大学に登校してほしいと俺に言ったため、渋々首を縦に振った。


 彼女は大学の講義室に着いても俺の手を離そうとはしなかった。そこでそれについて亮に追及された俺が何も言えないでいると、彼女は洋介が先に浮気をしていたから別れて俺と付き合い始めたと堂々と言い放った。俺はそうだよね?啓汰と日向に言われても何も言うことができなかった。


 俺にはただでさえ洋介に対する罪悪感があったのでそれ以上罪を重ねることは出来なかった。結果、俺は亮からも日向からも迫られた結果、逃げてしまった。


 そのせいで道連れ式に彼女も嘘がバレてしまい、最終的にそこで洋介のアルバイトの理由を打ち明けられておかしくなっていった。どういうこと?私が間違えてたの?それとも……?そう言っては狂ったように彼女は頭を抱え、壁に頭をぶつけたりして一人で悩み始めてしまった。


 俺はそれを和らげるためにも、なるべく彼女の隣にいるようにした。彼女は俺のそれに頼りつつも一人で悩み続けていた。そんなある日、彼女の家に泊まったある日、夢でも見ていたのだろう、彼女はうわ言で洋介くん……、洋介くん……と洋介を求めるように呟いていた。


 俺はそこで自分を責めた。俺が最初から洋介のアルバイトの理由を言っていれば……。考えれば考えるほど俺も俺で卑怯な自分がどうしても物凄く醜く見えてしまい、嫌になってきていた。



 悩んだ結果、俺は日向の誕生日の二日前に日向に何も言わずに一人で大学に向かった。


 以前のように途中で屈しそうになりながらも堪えて、なんとか洋介に話を聞いてもらうところまではいった。


 ただ、洋介には肝心の目的であった日向を救ってあげてほしいという俺の申し出は断られた。それも、洋介のことを慮れば当然ではあった。寝取られたという苦しみを与えられた上に、嘘を吐かれ冤罪を押し付けようとしてきた相手を救ってくれと俺は言っているのだ。



 それでも俺は止まるわけには行かなかった。翌日、俺は身勝手なのは分かっていたが、日向と洋介に対しての遺書を書くと意を決して、俺は自殺による押し付けかつこの罪悪感からの逃げという最後の手段に出た。


 死ぬ間際、俺は祈った。神様、いるならお願いします。どうか日向のことを救ってあげてください。その結果、俺の頭に最期に思い浮かんだのは洋介だった……。




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次回からヒナタさんの非救済、もしくは救済ルートに入ると思います。

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