第14話 異世界にも土下座ってあるのかな
「何てことしてくれたんですか!!」
正座である。
まさか異世界まで来て、畑のど真ん中で正座することになるとは思わないじゃないですか。
でも、これが現実なんですよねぇ、困ったことに。
「いや、あの……すいません……」
うなだれて頭を下げるしかない僕、僕の後ろに隠れている妹、ふてくされて胡坐をかいている母、どこかに行った父。
そして正座で謝罪している僕の目の前にいるのは、畑を台無しにされて怒り心頭のタケムツさんと、約束を破られて怒り心頭の領主であります。
「だから言ったじゃないですか!!畑は荒らさないでくださいって!!」
そう、領主は畑の地下に油田がある事がわかっていたから、畑を傷つけるな、と注意したらしいのです。
だったら最初からそう言ってくださいよ……!!
と思ったものの、油田があると知ってたら僕らは容赦なく掘っただろう。主に母が。だって……
「ああもう、土が、土が台無しだ!あの変な臭い水のせいで!!」
嘆くタケムツさん……だって思わないじゃん!!
原油がこの世界では大した価値がないなんてさ!!
そもそも石油を精製する技術が存在しないし、化石燃料を必要とする産業が存在しない。エンジンの付いた車が無いからガソリンも必要として無いし、プラスチックに加工する技術も無いし、何より一番の問題は――――この世界には魔法があるってことなんですよ……!!
そもそも地球であれだけ原油が重宝されているのは、それを使う技術があってこそ。火を使う上で燃料が必要ないこの世界において、原油を精製して石油にするような技術を研究する必要性があまりにも薄いのです。
まあ、魔法が基本の世界とは言え、将来的には精製技術が発展して燃料や化学繊維として使われる可能性も無いわけではない……ですが、それにはまだ何十年、何百年の時間がかかるでしょう……つまり、現時点では本当に使い道の無い、ただの臭い水なのです……。
ああもう、僕らに知識と技術があればこの世界の文化レベルを一気に上げられるのに!!しょせん一般人の家族!!そんな特殊な知識も技術も持ち合わせてはおりません!
今は、ユウミの土を操作する魔法と父の風で盾を作る呪文の組み合わせで作り上げられた高い土の円柱で原油吹き出し口の周りを囲むことで、円柱の中に原油を溜めて畑に流れ出ないようにしているけど、数日も経てば溢れ出してしまうでしょう。
……どうすりゃいいんだろうこれは……。
「一攫千金が……一攫千金の夢が……」
隣で母がぶつぶつと何か言ってます。
一攫千金どころか、これ場合によっては損害賠償とかでは……?
いや、そういう制度があるのかどうかよくわからないけど、少なくとも何らかの責任は取らされる可能性があります。
ああーーーもう……僕のせいだ……僕が完全に読み違えたから……。
「すいません、僕が責任を……と言っても何が出来るかわかりませんけど、出来る限りの事はさせてもらいますので……」
タケムツさんに謝罪する僕に、母が後ろから声をかけて来る。
「待て待て、なんでお前が責任取るんだよ」
「なんでって、だって母さん、これは僕が読み間違えたから―――」
「馬鹿だなツバメは。家族みんなでやったことなのに、一人に責任がある訳ないだろ。もし誰かに責任があるとしたら、それは親であるアタシたちの役目だよ」
……うっ、急に親らしいこと言われてちょっと感動しそう。
「誰だろうと構わないが、責任はしっかりとってもらうからな。何ならギルドの方にも話を通して―――」
「あのー、ちょっと待ってもらえますか?」
突然、少し離れた位置からの声。
そちらを向くと、こちらに向かって歩いてくる父と、その横を何か大きなものを咥えて引きずるピィの姿があった。
何を引きずって――――って、モンスターだ!
さっき戦ってたモンスターのうちの1匹で、いわゆるゴブリンのような人に近い形をしたモンスターが、全身を縄で縛られ、その縄をピィが引っ張っている。
いやピィ力強っ!!……って、よくみるといつもよりムキムキだ。父さんの筋力アップ呪文でしょうか。
「なんだアンタ、そんなの連れてきて!!」
突然のモンスターに、少し距離を取るお怒りの二人。
「いやいや、今回の事に関しては、確かに私たちにも責任があります。しかし―――そもそもあなたがモンスターをけしかけなければこんな事にはならなかった……違いますか?」
父さん?
「な、なんだあなたは失礼な!そんな根も葉もない話を!」
助けようとしてくれてるのかもしれないけど、それはさすがに悪手じゃないかい父さん? その件はあくまでもタケムツさんの話と状況証拠だけで、何も明確な証拠はないじゃないか。
「いいえ、証拠はありますよ。この方が教えてくれました」
そう言って父さんが指さしたのは――――
「この方って……モンスターじゃないか!モンスターが何の証拠になるというんだ!」
ちょっと父さん、大丈夫なの?
領主さんの心を逆なでしてる気がするんだけど……。
「いやね、私ずっと考えてたんですよ。もしもあなたがモンスターを操ってるとしたら、どうやってるんだろうなーって。そこで、魔法をトレースしてみたんですよ」
「……なんだと?」
……ん?領主さんの顔色が変わった……?
「以前読んだ本に、モンスターを操る魔法の記述があったのを思い出して、それが使われてるんじゃないかー、って。えーっと、説明するより見せた方が早いですね。
――――――足跡(トレース)」
父さんが魔法を使うと、モンスターから出た光の糸のようなものがふわふわと空中を漂って―――――……領主さんの処へとたどり着いた。
「ね? これは魔法がどこから発せられたものなのかを辿ることが出来るんですよ。あなたが、モンスターを操っていたのですね?」
マジか父さん、凄いファインプレイ!!
「領主……あんたやっぱり……!」
お、タケムツさんの怒りの矛先が領主に向きましたよ。
これは流れが変わったかも?
「そ、そんなもの証拠になるか!だいたい、その魔法が正しいと誰が証明できるんだ!わたしに罪をきせようとでっちあげてるだけかもしれないぞ!」
うっ、そう言われたら確かにそうです。
「ええー、それは……あのー……そんなことないですよー……」
弱い!!反論が弱いよ父!!
うーーーん、何とか助け船、助け舟を……
「あっ!!そうだ父さん!あの魔法を使ったらいいじゃないか!あのほら、人の記憶を映像として見せられる魔法!!」
「えっそんなの無……」
違う!気づいて気付いて!!目で訴える!!アイコンタクト!親子の絆で通じろ!!
「あっ、あーあーあー、アレね!あーあーはいはい!アレかー!!」
通じたーーー!!
「そうだよ、忘れてたのかい?あの魔法を使えば、領主さんが潔白ならその証明にもなるし、良いですよね?」
もちろんこれはブラフです。
実際にはそんな魔法は聞いたことも無いけど―――
「えっ、そ、そんな魔法が、あるんですか?」
動揺してる!!効いてる!!さっきまで強気だったのに急に敬語が出るくらい効いてる!
「そうなんですよ。凄いでしょ?さすがにこれなら映像を今すぐ偽造するなんて出来るわけ無いから大丈夫ですよね」
「い、いやしかし、わたしにもプライベートがありますからな!他人に記憶を覗かれるなんて!」
「大丈夫ですよ。記憶魔法はそのトレースと結びついてるんです。だから、その魔法を使った時の記憶だけを見ることが出来ます。トレースで反応が出たのも、たまたま何か事故的に、領主さんの使った魔法が当たっただけかもしれないですけど、それも全部見ればわかることです」
こんなに嘘がスラスラ出るの自分でもわりと怖いな?
もしかしてこれ、僕の異世界転生で得た能力とかなのでは……?
……だとしたら嫌な能力!!!!
いやまあ、前世の時から言い訳とか得意なタイプだったからきっと違うと思う、思いたい。絶対もっと凄い能力が隠されてるハズなんだ!そうであれ!!
なんてことを考えながらも会話を続けてる僕。さすがに自ら困惑しますよ。
「だから、プライバシーなんて気にすることないんですよ。まあ……領主さんが全裸じゃないと魔法が使えない、っていう変な性質持ってたら困りますけど……」
「持ってるよ!それ持ってる!わたしはそういう性癖なんだ!!だから困る!」
凄いこと言うじゃん……自らのウソ性癖が広まる危険を冒してまで記憶を見られたくないって時点でもう確定なのでは……?
いやまあ、万が一本当だったらそれはそれでアレだけども。
「わかりました、じゃあ女性陣にはちょっと目を瞑ってもらっておいて、男だけで確認しますから」
「嫌だ!!わたしは短小で包茎だから見られたくない!」
そこまでして記憶を隠したいんですか……?
「でもそれじゃあ、潔白が証明できないじゃないですか。今の領主さん、だいぶ怪しいですよ?まあでも確かに、村の人たちに見られると潔白だったとしても今後何か下半身関係の悪いあだ名とかついても申し訳ないので、父と僕だけで確認します。僕らなら外部の人間で、今後二度と会わないんだから良いでしょう?」
「いや、だから、それは……だから……」
だんだんと反論の言葉も出なくなってきた領主さん。
そろそろ、かな?
「領主さん……もう認めましょうよ。どのみちここまで過剰に否定したら、タケムツさんたちのあなたに対する疑惑は晴らせませんよ。ねぇ?」
「あ、ああ。そうだとも。ハッキリさせてくれ!」
僕の問いかけに同意してくれるタケムツさん。
「いやその、しかし……」
「――――領主ウサクシさん……もう、楽になりましょうよ。……あなたが、やったんでしょう……?」
最後の一押しは優しく。
なんか昔刑事ドラマで見た感じのやり方で!
「………わたしが……やりました……!!」
落ちたーーー!!!本当に落ちるんだこういうの!!
ありがとう刑事ドラマ!!
「貴様!!ふざけるなよ!!」
怒ったタケムツさんが殴りかかろうとしたので、間に入る。
気持ちはわかるが止めねばなるまい、刑事の責任として!!
「ぎゃぶ!!」
無理でした。流れで殴られました。
「あ……す、すまない。あなたを殴るつもりでは……」
「……いや、こっちこそすいません……なんか流れ的に止められる気がしてました……そんな訳ないのに……弱い癖に調子に乗っていません……」
普通に戦ったら日々の肉体労働で鍛えてる成人男性には敵わない現実!!
やっぱ弱いな僕!!ちっくしょう!
「てめぇ!!!アタシの息子に何してんだぁぁぁ!!!!」
「あっ、ちょっ、待って母さ……」
当然これも止められるはずがなく、蹴られたタケムツさんが上空高く吹き飛び、そのまま頭から畑に落下して上半身が埋まりました。
「タ、タケムツさぁぁぁぁぁーーーん!!」
父が魔法で落下の衝撃を緩和しつつ、回復魔法をかけてくれたので無事でした。
今日は父のファインプレイが目立つ!!ありがとう父!!
……さて、ちょっと場が荒れたけど落ち着いたところで―――
「じゃあ領主さん、話を聞かせて貰いますよ。……なんでこんなことしたんですか?」
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