第2話 ここだけ僕の役目です。

「はい、ではお待ちかねの宝箱 開封タイムでーす!!」

 家族みんなの歓声が、ワッと上がる。

「どうもどうも、拍手ありがとうございます」

 拍手はそれほどされてないけど、されたつもりで前に出る。

 目の前には、山と積まれた宝箱。

 モンスターを100匹倒したことで、17個の宝箱が手に入りました。

 この異世界はまるでゲームのように、モンスターを倒すと宝箱が出るのです。便利ですね。

 ただ、不便なこともあり、全ての宝箱には鍵がかかっています。

 その鍵を開けるには、お店で売ってる使い捨ての鍵を買うか、もしくは鍵開けスキルを持つ盗賊をパーティに入れるかの二択です。

 まあ、鍵開けのスキル自体はそれほど難しいものではないので、大抵のパーティは盗賊を仲間に入れてますけど、僕がそうであるように戦闘ではあまり役に立たないので、足手まといを仲間にする事を嫌がる人たち用に鍵も売っている、という感じなんだとか。

 なんにせよ、宝箱開封は冒険者たちにとって大事なイベントなのです。


 そんなイベントの参加者は、こいつらだ!


「良いもん出せよ!!明日の生活が懸かってんだからな!」

 ガラの悪いヤジを飛ばすのは、蹂躙大好きバーサーカーこと母、名前は「冬世(フユセ)」です。

「ママが喜び狂うくらいのお宝頼むよ! ママはとにかく狂ってる時が一番輝いてるんだから!」

 異常性癖ハイプリーストこと父の「史郎(シロウ)」。母からは「シロ」と呼ばれているので、犬感が凄いです。

「ホントはおにぃに任せたくないのよねー。おにぃくじ運悪いし」

 僕をディスっているようで実は心配してくれているに決まっている、ゴスロリマジックアーチャーの妹「悠美(ユウミ)」

「にゃー!」

 何を思うか忍者猫の「ピィ」

 そしてこの僕、役立たず長男の「燕(ツバメ)」でお送りします。


「ではまず、記念すべき ひと箱目です!」

 チャチャッと鍵を開けて、蓋に手をかける。

「いきますよー……!」

 じらすようにゆっくりと蓋を持ち上げる。

 家族もみんな息をのんで見守っています!

 さあ、何が出る!?さあさあさあさあ!!

 パッカーーーン!!!

「……100ギルカ!!」

 ギルカはこの世界の通貨単位で、大体円と同じ価値だと思ってください。

 つまり、100円です。

 あ~~~……と、みんなから一斉にため息のような落胆の声が上がる。

「いやいや、まだ一個目ですら。まだまだありますよー!」

 二個目の宝箱に手をかけて、鍵を開け、蓋を―――――開ける!!

 てってれー!!

「薬草ー!!」

 道具屋で75ギルカで売ってます。

 まだまだ行くぜ!

「こんぼう!」

 武器屋で80ギルカです。

「木の棒!」

 一応武器という扱いのようで、武器屋で10ギルカで売れます。

「生魚!」

 腐ってやがる。

「紙の帽子!」

 おもちゃです。

「右だけの靴下!」

 せめて両足よこせ。

「ジャガイモっぽい何か!」

 たぶんジャガイモ。

「牛乳!」

 腐ってやがる。

「牛の鼻輪!」

 なんで?

「古着のパンツ!」

 履きたくねぇよ。

「石鹸!」

 パンツを洗えと?

「丸くて奇麗な石!」

 価値があるかと思いがちだが、ただの石なので売れない。

「あっ、それ奇麗。欲しいー」

 妹のユウミが欲しがったのであげた。

「いいの?やったー!」

 初めて喜んでもらえたのでなによりです。

 しかしその後もろくなものが入っておらず、ついに最後の一つになった。

 みんなもう期待することすら諦めて、適当に寝転がったりしてこっちを見てもいない。ユウミがピィと奇麗な石で遊んでいるのは可愛いから許す。

 まあともかく、開けてしまおう。

 せめて1000ギルカくらい出てくれたら、今日の飯代くらいにはなるんだけどな……僕の期待値もたいがい下がってんなぁおい。

 まあともかく期待せずに最後の鍵を開けて、蓋をーーーオープン!!


「―――――ん???」


 なんだこりゃあ!?!?!?

「ちょっと!!ちょっとみんな!!来て来て!!早く!」

 慌ててみんなを呼ぶと、みんなダルそうながらも近づいてきてくれた。

「なんだよ、わざわざ呼びつけてつまらんもんだったらアレだぞ、アッレアレだぞ」

 ボッコボコみたいな言い方されてもそれ僕なにされるんですか母よ?

 そんな、期待値が底辺まで下がったみんなが宝箱の中を見ると―――

「「「なんだこりゃあ??」」」

 シンクロした。息の合った家族だこと!


 全員で恐る恐る覗き込んだそこには――――華やかなピンクのドレスに身を包んだ女の子が体を丸めて眠るように入っていた。


 白い肌にウェーブのかかった金髪、鼻筋の通った整った横顔、少し厚い唇。

 なんというか、いかにも姫って感じの若い女性だった。


「っていうか……眠ってる…んだよね?」

 僕の問いかけに、家族みんな嫌な顔をする。

 そりゃそうだ、もし死んでたらあまりにもやるせないし、どうしていいかわからない。

 みんなが、僕に指やら顎やらお辞儀やら にゃーやらで、確認を促す。

 うう、嫌な役目だ……けど、この中で唯一の常識人としては僕がやらねばなるまい。

「なんか今、凄い失礼なこと考えただろ」

「気のせいですよ?」

 母は悪意に敏感だ。けど、僕だけが常識人なのは本当の事なので失礼かどうかは検討の余地があるよね。

 ともかく、確認だ。

 ……とはいえ、どう確認すべきか……こういう時はやっぱり心臓か? 心臓が動いてるかどうかなのか?

 そうなるとこう……アレですね、胸、胸をその、アレですね?

 ゆったりしたドレスに隠れてはいるけど、なんだかだいぶ大きそうですよ?

「おにぃ……顔がクソゲスい」

 妹よ、口が悪いぞ?

 っていうか、僕そんな変な顔してたか?

「竿役のおじさんが「体に聞いてみないとなぁ?」って言う時の顔してた」

「どこで覚えたそんな顔」

 というか、だとしたら酷い顔だな!?

「竿役ってなんだ? 知ってるかシロ?」

「さあ、パパも知らないんだ。ごめんよママ」

 両親が二人して、こっちに純粋な疑問の目を向けて来るが、説明できるわけないのでスルーする。

 こら、と妹を小声で叱る。

 てへぺろっ、と軽く舌を出すユウミ……可愛いから許す。

 僕の影響でわりとオタクだからな妹も……にしてもシモ系の知識はどこから……はっ、まさか隠し持っていた僕の秘蔵コレクションをこっそりと……!?

 ……まあ、今となっては闇の中だ。

「まずは、息してるかとか、脈測るとか、そういうのでしょ」

 ナイスアドバイスだ妹よ。

 そうか、胸は触らなくていいのか……。別に悲しくないけどね?


 さて、ひとまず鼻先に手を近づけてみる。

 ……ん、くすぐるような息が伝わってくる。呼吸はしているようだ。

「とりあえず生きてるみたい」

 僕の報告に、家族みんなほっと息をつく。

 良かった良かった。

 となれば次は……

「あのー、すいませーん。あのー、起きてくださーい」

 呼びかけて目を覚ましてもらおう。

 ……しかし、反応が無い。

「もしもーし!起きてくださーい!」

「ううん……」

 あっ、ちょっと反応したぞ?

「起きてくださーい!!」

 ……うーん、反応はするけど起きないな。

「よし、面倒だから殺そう」

「母さん!?人の心を捨てたのかい!?」

 いくらバーサーカーでも限度があるよ!

「冗談だよ」

「……なら、座ったまま頭上で大剣をぶんぶん振り回すのやめてくださいね?怖いから」

 まあ、殺すのは冗談……だと思いたいけど、イライラし始めているのは確かだろう。そろそろお腹も空いてるだろうし。

「よし、妹よ」

「なによ」

「任せる。好きにやりなさい」

「良いの?」

「兄が許す!」

 異世界とはいえ今のご時世、無理やり目を覚まさせようとして何かしたら訴えられるかもしれないので、ここは同姓の妹に任せよう。

 母さんに任せたら命が危険だし。

「じゃあ、いっくよー。えーい」

 ユウミは言うや否や、全力で氷魔法を宝箱に向けて放った。

「!? ユウミさん!?何を!?」

「えっ、寒くなったら起きるかな、と思って」

「寒いとかじゃなくて凍ってますけど!?コールドスリープで半永久的に眠ってしまいますよ!?」

「じゃあ火ー」

 続いては炎魔法で燃やし始めた。

 あーら木製の宝箱がよく燃える事。

「じゃなくてぇぇぇぇぇ!!加減!!加減をしよう!?」

「えー……? だったら、炎と氷の魔法を融合して、全てを消滅させる呪文を……」

「さらっとメドローア使おうとするんじゃないよ。ポップかよ」

 新アニメ版どっぷりハマってたもんな。

 じゃなくて。

「寒くさせるにしても、ちょっと……だいぶ手加減しような?」

「えー……わかったよ……」

 不満げながらもちゃんとわかってくれる。良い子だ。可愛い。

「うぬぬぬーえいっ」

 ユウミは右手に魔力を集中させると、その手の中にたくさんの小さな氷が生まれた。

 なるほど、この氷で冷やそうというのか。見た感じ本当に普通の氷っぽいし、これならまあなんとか―――

「ていやっ!」

 投げたーー!!全力で振りかぶってから宝箱の中に氷を投げつけたーー!!!

 バチバチバチ!!って凄い音したよ! 氷が直撃してるよ!!

「いたたたたた!!冷たい!痛い!!冷たい!!何!?」

 あっ起きた。

「一体何なの……なんだか氷を全力で投げつけられたみたいな感じだったけど……そんなわけないわよね……」

 ごめんなさいそんなわけあります。

「―――って……あれ? ここは……??」

 ようやく自分の置かれた状況に気付いたのか、左右を見回し、僕ら家族と目が合う。

「あっ、どうも」

 僕が代表して頭を下げる。

 氷を投げつけた妹は人見知りが発動したので、僕の後ろに隠れて服の裾をぎゅっとつかんできます。可愛い。


「えっ、あっ……はじめ、まして……あの、ここはどこで、あなた方はどちら様ですか?」

 最初こそ驚いていたのか少し言葉が荒かったが、少し落ち着いたら喋り方も仕草もとても丁寧で上品さを感じさせる。

 やはりどこかいいとこのお嬢様なんだろうか。


「えーと、どうも、初めまして。風霧一家です!」


 どう説明していいか判らずに、とりあえず一家まとめて自己紹介してみた。

「……はぁ」

 そりゃそうですよね、説明不足ですよね、わかります。

「あっ、申し訳ありません。名乗るのが遅れましたね。わたくしはトモエリン・ネルメール・ソルベと申します。トモエ、とお呼びください」

 立ち上がり、スカートの端を持ち上げて頭を下げる。

 これは麗しい。高貴な感じがするぞ。

 ただ、宝箱の中なので、なんかこう……宝箱から生えてるみたいになってるのはちょっと面白いけど。


「それであの……ここは、どこなのでしょうか?」


 改めて聞かれてしまった。不安そうな表情だ。

 まあそりゃそうだよね。いきなり目が覚めたら草原で変な家族に囲まれてたら不安にもなるだろう。


 さて……どう説明したもんかなぁ………。



   NEXT STORY  episode 1 「宝箱の姫」

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