第12話 人妻に期待してはいけない。
「美味かったー。助かりました!ごちそうさまでした!」
タケムツさんの家のリビング……なのかな?
二階建ての家で、一階は奥にトイレ・風呂・キッチン、そして二階へ続く階段がある以外はこの一部屋しかなく、10畳ぐらいの広さで中央に大きな机が置いてあり、そこで食事を頂きました。
依頼人の美人奥さんササラスさんの作った食事は簡単なものだけどしっかり美味しくて、料理の上手い人なんだな、という印象が乗っかりました。
ちゃんとピィの分のご飯まで急遽用意してくれたし、優しい。
美人で料理が上手くて優しい奥さん……羨ましいなタケムツさん……!
まあ旦那もイケメンだもんなちくしょう!!でも変な人だけど!馬だし!
とは言え、ですよ?
「はいはーい。質問です。お二人はどこで出会ったんですか?」
「なんだ急にお前」
母にツッコミを受けるが、こんな幸せそうな夫婦のなれそめは聞いておきたいじゃないですか。今後の僕の恋愛の参考に!
「え、いやぁ……その、出会ったのは王都ですね。収穫した野菜を売りによく行くんです」
「ほうほう、そこでどう……この、なんていうかその、出会って付き合うことに?」
自分から質問したことなのに、いざとなると恥ずかしい。
いやでもここを乗り越えねば。妹も興味無いふりをしつつ耳を傾けています。兄ちゃんにはわかるのです。耳年増な子だよ!
「えーと、まあその、簡単に言うとですね、彼女が困っていたところを、僕が助けて、それでまあその仲良くなって……という感じですね」
「やだもうあなた、恥ずかしい」
二人とも照れている!!美男美女が!!照れている!!絵になるなぁ!!憎い!
「おにぃ、急に憎しみが生まれるのは魂をこじらせてるよ」
「妹よ、なぜ兄の心が読めるのだ」
「顔に出てるからだよ」
……じゃあ仕方ない!
「助けたって、そもそも何に困ってたんだ?」
母も興味が出て来たのか、質問を始めました。
「いや、それは……その、なんといいますか」
タケムツさんが言いよどんでいると、
「そうだ、私お風呂沸かしてきますね!」
ササラスさんは話をそらすようにそう言うと、部屋から出て行ってしまわれた。
ちょっと気まずい空気が流れる。
「……す、すいませんね。彼女の家はちょっといろいろありまして……きっとまだ、そのことを乗り越えられてないのだと思います」
タケムツさんが謝罪をするが、これはむしろこっちが申し訳ない。
「いや、こちらこそすいません……そんな事情があるとは知らず……美男美女はどうせさほど苦労も無く幸せになったのだろうからグイグイ聞いてやろうと思ってしまって」
「おにぃ余計なこと言い過ぎじゃない!?」
はっ、僕は何を。嫉妬だ、嫉妬が全てを狂わせるのだ。
まさか妹にこんなしっかりとツッコミを受けようとは!
「いや、あの、ほんとすいません!!」
「ははは、いやいや、構いませんよ。実際僕はそんなに苦労してないですからね。昔からイケメンだって言われてモテてきましたし、仕事も父の畑を継いだだけですからね」
場を和ませようと言ってくれているのですよね……?
そうですよね?だから、これはイラッとしてしまった僕が悪いんですよね???
「とはいえ、僕が勝手に彼女のことをべらべらと喋る訳にもいきませんからね、ご容赦ください」
まあ、それはそうでしょう。ちゃんとした人ですよタケムツさん。心までイケメンですわい。
……こんなちゃんとした人がなんでさっきは馬で現れたの……?
「みなさん、お風呂どうぞー」
外からササラスさんの声が聞こえて来ました。薪で沸かすタイプなんですかね。
「おお、風呂が沸いたようです。みなさんお先にどうぞ」
「いやそんな、僕らはあとで良いですよ。タケムツさんからどうぞ」
「いやいやそんな」
「いやいや」
「いやいや」
なにこの譲り合い。
「じゃあアタシが入る!」
「あ、じゃあユウミも入るー」
母と妹、女性陣二人が遠慮なしに手を上げました。
……うん、まあ、ある意味良し!
このまま譲り合ってても埒が明かないもんね。
というか、考えてみたらよく知らないイケメンの入った後の風呂に妹が入るのなんか嫌だな!?と気づいたので、むしろ手を上げてくれてよかった!
「では、お先にどうぞー」
タケムツさんも、不毛な譲り合いが終わって安心したように先を譲ってくれました。
その様子を見つつ、僕はしっかり反省していた。
うーん、一番風呂は家長にと気を使ったつもりが上手くいかなかったな。まだまだ人付き合いは難しい。なにせこちとらまだ17歳のガキなのですから。日々精進。
その後、二人が風呂から出るのを待って、次に父が入って、僕が入った。
さすがに僕は父と二人ってわけにはいかないし、なによりも妹が入った直後の風呂に今日会ったばかりのイケメンが入るのもなんか嫌だな!っていうことにも気づいてしまったので、家族二人で成分を薄めるのです。
……なんかアレだな?そんなこと気にしてる僕がアホなのでは?と思わなくもないけど、気になってしまうのだから仕方ないのです。
ちなみにピィは普通の猫並みにお風呂が嫌いなので、早々に二階に逃げました。
二階には寝室があるって話は聞いてたので、きっと誰かの布団かベッドで寝てるのでしょう。
母や妹は早々に二階に上って眠りについた様子なので、最後にタケムツさんがお風呂に入ったのを僕と父で待って、出てきたら挨拶して寝室に行こうと思い少し雑談をしていたら―――
「いやぁ、さっぱりしました」
と風呂から出て来たタケムツさんは、馬の着ぐるみを着ていました。
「……それ寝間着だったの!?」
今日イチの全力ツッコミが出てしまった。
っていうかよく見るとあの馬と違う馬だ!
後ろ脚に自分の足を入れて、立って着られるタイプの馬だ!!
それあるならそっちにしなよ最初から!!!
いやまあ、あっちの方が少しだけリアルに馬っぽかったけど!!
「どうしたんですか?」
「いやあの、馬好きなんですね……?」
「はい!牧場主ですから!」
うーんさわやかな笑顔過ぎて何も言い返せないよ!
しかしこうなると、奥さんの寝間着も気になって来ましたよ……?
「では、私も失礼して……」
ちょうどいいタイミングでササラスさんも外から戻ってきてお風呂へと向かいます。
…………待とう!!!
人妻が風呂から出てくるのを待つっていうのもなんかアレな感じするけど、そう言う気持ちよりもシンプルに寝間着が気になるから待とう!!
父は眠かったらしくタケムツさんに挨拶を済ませると二階へと登って行ってしまったけれど、タイミングよくピィが降りてきてくれたので、ピィと戯れつつタケムツさんと世間話なんかをしながらササラスさんを待つことにします。
なんでしょうこの謎のドキドキは。
美女の湯上がり姿を見たいとか、そういうのを全く超越したところにあるドキドキ!
もはや僕の期待は、ササラスさんがどんな着ぐるみを着て出て来てくれるのかだけに注がれています!!!
やはりお揃いの馬か!?はたまた牛でしょうか!?捻って豚というのもそれはそれで可愛いし、ヒヨコやニワトリという線もありますね!なんならシンプルに犬や猫というのも可愛くていい!!
楽しみだ!楽しみだあぁぁぁぁーーー!!!
その時でした!!!!
ガチャリ、と扉が開き、その扉の向こうから、ササラスさんが………来たーーー!!!!!!
……めっっっちゃめちゃセクシーネグリジェ!!!
胸元ざっくり空いたスケスケのミニ丈ワンピースみたいなヤツ!!
予想外!!!予想外の展開に同居する喜びと落胆!!!
何この気持ち!!
普通に考えたらこんな美人のセクシーネグリジェ絶対嬉しいはずなのに、どんな面白着ぐるみかを期待しすぎて落胆が出ちゃう!!!
「あらあらあなた、こんなところで寝てはいけないわ」
いつの間にか椅子に座ったままウトウトしてたタケムツさんを起こそうと前かがみになるササラスさん。
うううっ!胸の谷間があらわに!! ミニ丈の裾もヒラヒラ!!
いかん、見てはいけない!人様の妻を、旦那の前でエロい目で見てはいけない!!
でも見ちゃう!ちらちら見ちゃう!だって思春期だもん!!
ダメだ!このままでは他人の家で性欲が暴発してしまう!
「あ、あのじゃあ僕もそろそろ寝ますね!」
慌ててピィを抱いて、ササラスさんの「あっ、はい寝室は階段上がって向かいの部屋で……」という言葉を最後まで聞かずに階段を駆け上がります。
「にゃー!」
乱暴な脚運びに、ピィから「揺れるだろ!」的な文句が出ました。
すまないピィ、でもありがとう。独りでは抱えきれなかったこの感情、お前と一緒なら耐えられる!お前の癒しパワーでこの気持ちを静められるよ!
その日はなかなか眠れなかったが、ベッドの上で気持ちが落ち着くまでひたすらピィを撫でた。ぐるぐると喉を鳴らして気持ちよさそうな様子を見ていたら、いつの間にか僕も眠くなってきて、無事安眠出来ました。
ありがとう、ありがとうピィ。
こんど美味しいご飯買ってあげような!!!
「うにゃーう」
・
・
・
「来ました!!」
しかし安眠は、突然の大声に妨げられる。
驚いて目を開けると、タケムツさんが息を切らせて、ドアにもたれ掛かるように立っていました。
「来たって……」
何がですか? と言いそうになり、自分がなぜここに来たかを思い出した。
ってことは――――
「畑に、モンスターが出ました!!」
その言葉で、全員が飛び起きる。
こんな時の為に、みんな風呂上りでもまた同じ服に着替えて寝ていましたからね、準備は万端です!
慌てて起き上がると、いつの間にか僕のお腹の上で寝ていたピィが抗議の声を上げる。
「ごめんごめん、でも行くよ!」
しょうがないにぁ、とでも言いたげに伸びをするピィ。ホントいい子。
一方、全然起きようとしない妹を優しく起こします。
「ユウミさーん、起きてくださーい。敵が出ましたよー」
妹は寝起きが悪いのです。
無理やり起こすと機嫌が悪くなるので優しく優しく。
「オラオラ起きろぉ!!蹂躙しに行くぞぉ!!」
蹂躙チャンスが訪れたので、寝起きからテンションMAXの母がユウミにダイビングボディプレスを決めます。やめてあげてよー。
「げほっげほっ!もう!なにすんのおにぃ……なんだ、お母さんか……じゃあしょうがない」
僕だったらブチギレられるところですが、母の場合はそうはなりません。
信頼関係があるのか、母はもうそういう人だと諦めているのか、どっちでしょうね……?
一応言っておきますが、母の暴力に怯えて言い返せない、とかではないです。
母は家族には手をあげないので。
そういうタイプの暴力性は持ち合わせてないのです。
いやまあ、フライングボディプレスは暴力ではないのかと言われると怪しいところですけど!
でもちゃんと手加減してますから、さほどダメージは無いです。
ともかく、これで全員目が覚めました。父はとっくに起きてますし。
「んじゃ、行きますか!モンスター退治に!!」
「よっしゃ!!蹂躙蹂躙お宝お宝ぁ!!」
……母さん、本音が漏れ過ぎてますよ。
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