第13話 暴れ乱舞で大歓喜……?

 僕らは急いで外へ出て、畑へと向かいます。

 外はまだ薄暗く、ようやく朝日が昇り始めたくらいの時間でしたが――――そこには、畑一面を埋め尽くすほどのモンスターの大群がうごめいていました。

「なんだこの数!?タケムツさん!いつもこんなに!?」

 少し離れた位置でこちら理様子を窺っているタケムツさんに大声で問いかけます。

「い、いや!いつもはこんなに居ないです!いつもの10倍は居ます!」

 なんですかそりゃあ……僕らが来たその日……いや、翌日の早朝に10倍のモンスター……あまりにもあからさま過ぎないですかね?


「けどまあ―――――わかりやすくて良いかな。母さん!父さん!!」


「おっしゃあ任せろ蹂躙じゃあああああぁぁぁぁああい!!!!」

「サポートはパパにお任せだよ!」


 さあ始まりましたよバーサーカーの蹂躙タイムが。

 中空から身の丈を超える大きな大剣を取り出しながら、敵の大群のど真ん中へとジャンプ!!

 それを見越して父さんが既に素早さと筋力を上げる呪文を使っていたので、常人では到達できないほどの上空から敵陣ど真ん中に落下する母!


「雌輝嗚弾苦!!(メテオダンク)」


 剣に衝撃波をまとわせ、それを飛ばしてぶつける剣技。

 相変わらず当て字はクソダサいですが、自身の落下の衝撃は衝撃波によって抑えられるけれど、その衝撃波によって落下地点に居たモンスター達は見事なまでに吹き飛ばされたり押しつぶされたりするという恐るべき技です。。

「キャシャシャシャシャ!!さあ怯えろ雑魚どもぉ!!テメェらの命を終わらせる死神の降臨だぁぁ!!」

 ジャンプして落下しただけで、モンスターの死体とその血だまりを作りそれを撒き散らす母。赤い特攻服に血が混じって溶けていきます。

 ……もしかして、あの服って最初は白かったのでは……? とか考えてしまいますね。

 というか、自分を死神と称する冒険者とは。

 勇者とか目指そうよ……いやまあ、無理か!!無理だな!!

 だって勇者っぽい人間が一人もいないもんウチの家族!!

「じゃ、僕らも行くよっ!」

「あいあーい……よいしょっ……と」

 ド派手に登場した母とは違い、こちらは地味に準備します。

 しゃがんだ僕の頭を妹がまたいで、それを確認したら妹の足を支えつつ、ゆっくりと角度をつけないようにまっすぐ立ち上がる。

 これで、肩車の完成です。

 地味!!!

 妹は魔法と弓が強いだけで身体能力が高いわけではないので、母のようにジャンプして、下で待ち構えている僕と合体!みたいなことは出来ないのです。

 父さんの呪文補助があれば可能かもしれないけれど、どうせ肩車される気満々の妹の身体能力を強化することに魔力使うの勿体なくない?っていう話ですよ。

 なので、盗賊自前の素早さで頑張って、僕が妹の足になるのです。。

 いやまあ、父さんの素早さ上げる呪文僕にもかけてよ、という気持ちは無くもないですが、それで母に割く魔力が減ってしまうと総合的な戦力が大幅に下がる可能性もあるので。なんたってうちの攻撃力は母が7割、妹が2.5割、ピィが0.5割ですからね。

 ピィも戦力としては強いのですが、ほら、猫は気まぐれですから……。

「さあ走れあにぃ!!駄馬でもユウミは許してあげよう!!」

「はいはーい、いきますよー」

 なんかアレだな、ユウミ僕の上に乗るとちょっと性格変わるというか、いつもより当たりが強くなる気がする……もしかしてアレか? 車運転すると性格変わるタイプ?

 ……えっ!?アレって肩車でも出るもんなの!?

 肩車に乗ると性格変わるタイプって聞いたことないけどな!?

「はいよー!!走れ走れー!!」

 ……まあ、それはそれでよし!妹の為に走るぞ兄ちゃんは!!!


 というわけで、蹂躙が始まりました。

 相変わらず母は大暴れでとても楽しそうだし、父は忙しそうに母の後ろで補助してるけど必要以上に幸せそうだし、妹も魔法をまとった弓を敵の大群に打ち込んでは「っしゃおら!」とか言ってます。血は争えませんね。

 ピィは、たまに敵を倒してますが、同じくらい遊んでます。猫ですからね。

 さてさて、当然のことながら畑はめちゃくちゃで、昨日領主と約束した「畑は荒らさない」という約束はビックリするくらい守られてませんが、それには理由というか、昨日の夜に交わされた会話の内容が関係しているのです――――


           ・

           ・

           ・


「思うんだけどさ」

 領主に挨拶に行った帰り道、僕はおもむろに思いついたことを口にする。

「なんだよ」

「畑に損害を出すな、ってことはさ、畑に何かが埋まってる可能性があると思うんだよね」

「――――なるほどな!!」

 母さんの目が一気に輝いた。漫画だったら目が¥か$になってるところだろう。

「でも不思議なのは、タケムツさんたちは畑を荒らされてるって依頼してきたでしょ?畑は確かに荒らされているのに、僕らには傷つけるなと言う……それって矛盾してると思うんだよね」

「……そう言われると確かにそうだねぇ……」

 父さんも話に入ってきて首をかしげます。

 ユウミはそんな父さんのフードの中に入っているピィとじゃれている。可愛い。

「で、考えてみたんだけど……畑に何か埋まっていて、モンスターにそれを探させている……っていう可能性はないかな」

 畑にある事はわかっているけど、正確な場所まではわからない。

 だから、荒らすふりをして探している……という可能性だ。

「可能性はあると思うけど……今の段階じゃあ何とも言えないなぁ」

「まあ、そうだよね。それは僕もわかってるよ。でも、仮にだよ、仮にそうだとしたら筋が通るって思うんだよ。畑を傷つけるなってのも、軽く荒らす程度ではなんともないけど、僕らのような冒険者が全力で戦ったりしたら地上に出てきてしまう、もしくは傷ついてしまうようなものが、少し深い場所に埋まってるんじゃないか、とかさ」

「お前は相変わらず喋りが回りくどいな。つまりどういうことだ?」

 さすが母、気が短い。

「つまり、領主は何かを手に入れるためには住民も僕らも邪魔だと思っている。まず外部の人間である僕らを追い出すために何をするかって考えたら、きっとモンスターに畑を荒らさせると思うんだよ」

「なんでさ」

「だって、「畑に損害を出すな」って契約をしたからには、畑を傷つけた時点で僕らを追い出す口実が出来るだろ?」

「そりゃそうだけど、それだと畑に埋まってるお宝が壊れる可能性があるんじゃないのか?」


「そう、だからさ……次にモンスターが出た時に、もしも「モンスターが近寄らないスペース」があったとしたら――――そこはまだ領主が探してない、お宝の可能性が高いスペースだって、そう思わない?」


            ・

            ・

            ・


 どうも再び戦場です。

 僕らに畑に損害を与えさせて追い出したいなら、モンスターを「荒らされても良い場所」に配置するハズ、という考え方に基づいた推理だったのだけど……ビックリするくらいモンスターが近寄らない一角があるな!!

 怪しい、怪しすぎる。

「母さん父さん!!」

 僕はアイコンタクトで、怪しい場所を示す。

 遠目からでも、母さんの顔がニヤリと歪んだのが見えた。

「やったるぞーーー!!!」

 念のために、昨日の食事中にタケムツさんに許可は取ってある。

 畑はモンスターに荒らされ始めたから、まだ少し早かったけど今季の野菜は全て収穫した状態なのだそうだ。

 けれど、来季の為の種はモンスターの影響もあって植えられなくて困っているから、倒すためなら多少は畑が荒れるのは許容範囲だと言ってくれた。

 領主との契約がどうであれ、畑の持ち主に許可を得たならやったろう!!

 そして、畑からお宝を見つけたらそれを材料に領主と交渉だ!!

 だってそもそもあの母に周りを傷つけない繊細な戦い方なんて無理なんだから、僕らがこのクエストを解決しようと思ったらそれしか道無いんですよね!


「再びのぉぉぉ!!! 雌輝嗚弾苦!!(メテオダンク)」

 

 はい、母が派手にやりました。

 誰も居ない場所をボカーンです。 

 正直、一番怖いのはこれによって埋まっている何らかのお宝が粉々に砕けたりしてしまうことではあるのだけど……その辺は、父の補助呪文で地面にバリアを張り衝撃を和らげると同時に、妹の風魔法で浮き上がったものを空に留めて落ちないようにする、という二つの保険で対処している。

 それでも万全ではないけど、だいぶ防げるだろう。

 そもそも、そんな簡単に割れるようなお宝を地面に埋めるとも思えないですし。

「でやっはぁぁぁぁ!!!!」

 母のご機嫌な一撃で、地面が恐ろしいくらい抉れました。

 その衝撃で浮き上がった色々なモノを妹が風魔法で浮かせて一か所に集めているが、今のところ特に貴重な品は無さそう――――ん?なんだ?

 なんか、地響きみたいなものが……地震か?いや、そういうのとも違うような――――――そんな戸惑いが辺りを包んだその瞬間でした。


 母が抉った地面から、黒い水のようなものが吹き出て来たのは……!!


「えっ、まさか、まさかまさか、えっえっ!?」

 僕は慌てて駆け寄る。

 肩車されてる妹も気づいたようで……

「ねぇ、おにぃ……この臭いって……」


「ああ、間違いない、油だ……うおおおおおお!!油田だ!!油田を掘り当てたぞーーー!!!これで大金持ちだぁぁぁ!!!!」


 まさかこんな大当たりがあるとは!!!

 母も油を飲むかのような勢いで、間欠泉のように噴出した油にまみれて狂喜乱舞しております。


「ちょっ、ちょっ、ちょっと何してるんですか!?」

 おっと、遠くからタケムツさんが慌てて駆けてきましたよ。

 ふふふ、しかし残念ですね、この依頼は確変型……!!! つまり、クエスト中に発見したこの油田も僕らのものです! とはいえまあ、せっかくですからタケムツさんにここの管理を任せて、利益の数%を提供するくらいの懐の深さは見せても良いですよ?ええそうですとも、何せ僕らはこれで大金持ちで―――

「こんなものが出ちゃったら畑が台無しじゃないか!!これからどうやって生活していけばいいんですか!?」

 ……ん? これはおかしなことを仰る。

「いやいや、油田が出たんですよ? これを売れば畑で作物育てるよりも圧倒的な利益が――――」

「何言ってるんですか!!誰が買うんですかそんな臭い水!!」


 ―――――――おやぁ……?


 どういうことだろ、だって油田―――――……はぁ!!!!

 ま、まさか、まさかそんなことがあるのか!?


 そんな、そんな恐ろしい可能性が―――――!!!!!

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