第16話 母さーーんチェック!!
はたして妹の表情は――――……寝てるーー!!!
いや、まあ、うん、安心したような、せっかくだから意見を聞いてみたかったような、そんな複雑な気持ちです。
なんて考えてる間も、領主さんとササラスさんの言い争いは続いていた。
「わ、わたしが妹をそんな目で見るはずがないだろう!!」
「いいえ見てました!!いつもいつもじっとり胸やお尻を見られてて気づかないと思うの!?だいたい兄さんの部屋にはそういう兄と妹でエロい事するような本がいっぱいあったじゃない!!」
「そ、そういうものも中にはあったけど、そんなのはほんの一部だよ!いろんなジャンルのものを集めてた中にそう言うのも交じってたってだけだろ!っていうか、勝手に人の部屋を漁ったな!!」
「漁りもするわよ!!下着が盗まれた時に絶対兄さんだと思って部屋の中を探したら、そういう本と一緒に押入れの奥にしまってあったからね!」
決定的な証拠過ぎるますよ領主さん……というか、やっぱりユウミが寝てて良かった。こんな醜い兄妹の喧嘩聞かせたくないよ……!
というか、このままだと収拾がつかないですねこれは……なんとかこの場を納めないと……とはいえどうすりゃいいんでしょうかこんなわけわからん状況。
畑はめちゃくちゃ、原油はまだ漏れてる、依頼人と村の領主は喧嘩してるし、兄妹の喧嘩もある……
「―――――よし」
僕は立ち上がり、決意を込めて言葉を吐き出した。
「…………帰っちゃえ!!!」
知らん!もう知らん!!
そもそも僕らの受けた依頼は畑を荒らすモンスターを退治することで、それは達成したんだから他はもう知らん!!
しかし、そんな僕の腕を引っ張る感覚。
「おにぃ、帰っちゃダメだよ」
「ユウミさん、起きてましたか……おはようございます」
眠そうに眼をこすりつつも、僕を諫める妹です。可愛い。
「そう言われても……どうすればいいのか……」
ユウミは周囲を見回すと、土の円柱から零れ落ちる原油を目に留めた。
「父さん、手伝って」
ゆっくりと立ち上がってオロオロしている父さんの元へ行き、何やら話をしたかと思うと、二人で魔法を使い始めました。
円柱を作った時と同じように、ユウミが土魔法を、父さんが風呪文で補助しながら新たな円柱を積み上げていく……というか、アレは……塔だな?
真っ直ぐ長く、かなり高い。5階建てのビルくらいはあるだろうか。
上の方に何か丸っこい小さな部屋のようなものがあり、てっぺんの部分だけ少し尖っている。
なんか宮殿の屋根みたいな玉ねぎ形と言えばわかりやすいですかね?
しかし、すぐにその先っちょの尖った部分から油がたれ始めるのが見える。
これじゃあ、結果的には同じなのでは……そう思った次の瞬間、
「プチファイア」
ユウミが、そのてっぺん部分に向かって弱い炎魔法を飛ばした!
当然油に引火して、塔のてっぺんから炎が立ち上る。
あっ、そうか!
こうしておけば油は燃えて気化するから漏れ出る事も無いのか。
精製してない油だと有害物質が出るという話も聞いたことあるような気がするけど……あのくらいの高さならまあ大丈夫でしょう、たぶん。
「ちょっとちょっと!人の畑に何作ってんの?」
タケムツさんが慌てて駆け寄ってきた。
まあ気持ちもわかります。
ユウミは人見知りが出てワタワタしているので、僕が間に入ります。
「まあまあタケムツさん、あの黒い水は火をつけると燃えるし、燃えるとなくなるんですよ。だから、ああやって燃やしておけば零れてこないんです」
「そ、そうなのか?しかし、こんなものは……」
「いやいや、考えても見てください。あの炎は黒い水が出続ける限りずっと燃えているので、夜も畑を照らしてくれますよ。つまり、動物とかが荒らしに来てもすぐ見つけることが出来るし、夜にちょっと畑の様子を見まわりたいという時にも役に立ちますよ。魔力の必要が無い明りです」
「あの臭い水にそんな使い道が……?しかし、肝心の畑が……」
それはまあ、そうなのだけど……油で汚れてしまった土では作物がちゃんと育つとは思えないし……。
「……任せて」
再びのユウミ。
神経を集中させて、魔法を唱えます。
「アースムーヴ」
すると、油で汚れた部分の畑の土が一気に空へと舞い上がり、空中で大きな泥団子のようになると―――
「えいっ」
それを投げるような動きをするユウミと連動して、土が畑の向こうにある林の中へと投げ捨てられた。
「……んで、代わりに向こうから持ってくるね」
もう一度魔法を唱えると、今度は林の中から土を持ち上げて、それを畑に持ってきた。どさりと一度置いたかと思うと、そこから土が綺麗に広がっていき、見事な平地が出来上がった……。
「出来たよ」
いや、あの……凄いあっさり言うじゃん……!!
出来たよ、じゃなくて!なんでできるのこんな事!?凄すぎない!?僕の妹凄すぎない!?こんなに可愛いだけでも天才なのに凄い魔法!!
「あ、あの、出来たそうなんですけど……ど、どうですかね土の感じは……」
「え、あ、ああ。ちょっと確認するよ」
僕と同じようにあまりの出来事に驚き呆けていたタケムツさんが、土の状態を確認する。
「――――うん、多少雑草や枯れ枝なんかも混じってるけど、良い土だ。これなら何とかなるかもしれない」
あー、良かった!!それは良かった!
これで、畑の問題は解決だ!!
「凄いなユウミさん。どうしてこんなことが出来たんだ?」
「精霊さんが教えてくれたの。土も、良いのをお願いしますって頼んだんだよ」
にっこり笑った顔が可愛いな!
っていうか、魔法って精霊さんとお話しすることで使えるのか……?
どんな声なんだ精霊さん……聞いたことないぞ……まあ、だから魔法使えないんだろうな僕!
ともかく、畑の問題さえ解決してしまえばあとはもうこっちに何の責任も無いぞ!
兄妹の喧嘩は勝手にやってもらいたいところだけど……ほったらかすと後々どうなったのか気になりそうではあるな。
いやまあ、さっき逃げ帰ろうとはしてたけどさ。
とか考えてる間にも、まだまだ喧嘩は続いていて、ついにはササラスさんが鍬を持ち出して振りかぶったところをタケムツさんが止めるという展開にまで発展しておられる。
刃傷沙汰はさすがに勘弁ですよ!!
「ええええええええーーーーい!!!めんどくせぇなお前ら!!!」
あ、ついに母がブチギレました。
地面を抉るように大剣を振り上げると、喧嘩してる二人の間に土の壁が一瞬出来上がる。どんな威力ですか。
さすがにそれに脅威を感じて動きを止める。
「よし、じゃあお前!!」
母さんは剣先を領主さんの眼前に突きつけます。
「ひいい!な、なんでしょうか……?」
うーん、まあ仕方ないけど、結局は暴力で黙らせるのが一番簡単なのかなぁ……結局は、領主さんの一方的な勘違いと片思いだしなぁ。
「お前……この子に告白しろ!!」
―――……ん? なんて言いました母さん?
「こ、告白……ですか?」
あまりに突然のことに先ほどまでの怒りも恐怖も忘れてキョトンとする領主さん。
「そうだ、元々はお前がこの子のことを好きなのが始まりだろう。だから、告白するんだよ!」
「い、いや、私は別に好きとかではなく、ただ家族として心配していただけで……」
「なら何の文句があるんだ。家族として心配してたなら、もうここで幸せになっている以外の何が必要なんだよ」
「何がって……それは……ちゃんと連絡をくれなかったりとか、私のことを誤解しているとか、いろいろあって……」
「なるほど、じゃあそっちのあんた」
今度はササラスさんに剣を向ける母さん。
その大きな剣、司会者の指し棒みたいに使うのはちょっと怖すぎますよ?
「は、はいなんでしょう」
「あんたにもいろいろあるかもしれないけど、家族に黙って心配をかけたことは確かだ。だから、そのことだけは謝ろうか」
「そ、それは……」
母の言葉に、少し考え込むササラスさん。
しかし、それほどの時間を必要とせずに顔を上げた。
「そう、ですね。確かにそれは私にも悪いところがありました」
そう言うと、覚悟を決めたような顔で領主さんに向き直り……
「兄さん、心配かけてごめんなさい。でも私、今この村で、タケムツさんと……村の皆さんとも楽しく幸せに暮らしているわ。農業も良いものよ。だから、もう心配しないでね」
一度、深く深く頭を下げた。
「……っ……―――――……」
それに対して、何か言葉を紡ごうとするも、領主さんは何も言えずにいた。
まだ彼の中ではなにか葛藤が見える。
「どうした、まだ満足じゃないのか。謝罪を受け入れないのか」
再び母さんの大剣が領主さんへ。
「い、いやその……確かに、あなたの言う通りではある。本来ならこれで諦めて帰るのが筋なんだろうさ……けど、なんか……まだモヤモヤしてて……」
「だから告白だろうが!!!!」
「そうなのか!?」
領主さん、僕も そうなの!?と、思ったよ!
「アンタはなんだかんだ結局この子が好きだったんだよ!!その気持ちを認めて、ぶつけろ!!それしかモヤモヤを解消する手段はない!!」
そういうもんなんだろうか……?
ただ、なんか自信満々にそう言ってる母を見ると、確かにそうのような気もしてきました。
そしてそれは、領主さんも同じのようで――――
「……わ、わかりました。やります!告白します!!」
覚悟完了した!!マジですか領主さん。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!ササラスはオイラの妻だぞ!それを告白なんて!」
話に割って入るタケムツさん。
今まで「オイラ」とか言ってなかったよね……さすがに焦って素が出たのですかね。そりゃまあ出ますよね。夫の目の前で妻に告白する男……あまりにも倒錯的なプレイ過ぎて普通の感覚なら嫌でしょうとも。
……それはそれで好きな人も居そうな気はするけど!
「黙らっしゃい!!」
おっと、母さんの黙らっしゃいが出ました。
アレが出た時には逆らえないんだよなぁ……。
「良いだろう告白くらい!!人妻に告白してはいけないって決まりがあるのか!?あぁん!?それで誰を選ぶも自由!それともあれか? アンタは妻が自分に見切りをつけて出ていくとでも思ってるのか? そんなに大事にしてなかったのか!?」
「し、してましたよ!!めちゃめちゃ大事にしてましたし、オイラにとって一番大事な人は間違いなく妻だ!」
「よーし、その意気や良し! そんなアンタに魔法の呪文を教えよう!!」
母はタケムツさんに近づいていくと、耳元で何やら囁いた。
なんかろくでもないことになる予感がするな……。
「よっしゃーじゃあ行くぞ!告白っっっっっターーーーイム!!!」
テンションたっかいな母さん!!
「告白するのはこいつだ!!自己紹介!」
「えっ、はっ、えっ?あっ、はい。ウサクシと言います」
「よーしウサクシ、行ってこい!!」
領主のウサクシさんがゆっくりと歩いて、ササラスさんの前で止まる。
「ササラスさんの前だ!!」
いや母さん、一人しかいないからそれはそうだよ?
なんかテレビ番組の司会者のノリでやってませんか?
「えーと……今更こんなこと言うのもおかしな話だとは思うんだけど……私はやっぱり、妹としてじゃなく、女性としてサラの事が好きだったみたいだ……だから、付き合ってください!」
そこで再び母さんが近づき、領主さんとササラスさん両方に耳打ちをすると、領主さんが頭を下げて手を差し出す。
あっ、これ ねるとんだ!!ねるとん方式だ!!
ということは――――……
「ちょっと待ったーーーー!!!」
き、来たぁぁぁぁーー!!
「ちょっと待ったコールだ!!」
ちょっと待ったコールだ!!
母さんのシャウトと、僕の心の声が完全にシンクロしたよ!!
さっきタケムツさんに耳打ちしてた魔法の呪文ってこれかい!!
駆け寄ってくるタケムツさん……でもなんか、面白くなってきたぞ!!
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