構築された体

朝食の後、一応シュナイに見てもらったが、医療的には何も異常は見つからなかったらしい。


「特に何も変わったところはないですな。しかしこの頃のエリック様をまた診られるとは、懐かしい」


頭を撫でられた。


家族以外でエリックに対してこんな風に接することが出来る数少ない人物だ。


「シュナイ医師にもお世話になりました。子ども達も診てもらえ、感謝しています。あなたの腕なら信頼できる」


「子ども達か。わしにとっても孫みたいなもので成長が嬉しいですよ。わしはすっかり独身を謳歌してしまいましたから」


シュナイは独身だ。


王族専属の医師として、身を粉にして働いてきたため。婚期をすっかり逃してしまった。


その為、エリック含め、王族の子ども達が可愛いらしい。


「皆いい子だし、健やかに成長してくれていて嬉しいよ。エリック様を含めてな」


また頭を撫でられた。


「魔法については詳しくないが、何か心配なことがあったら言ってください。いつでも診ますので、無茶をしないように」


「ありがとうございます」

改めてたくさんの人に支えてもらってることに感謝した。






ミューズの呼びかけに応じ、リリュシーヌが来てくれた。

応接室に通し、話しをしていく。


「お久しぶりですね、エリック様。レナンを身を挺して守ってくれたこと、本当に感謝しています」


深々とリリュシーヌは頭を下げた。


「いいえ、夫として当たり前のことをしただけです。ただ、泣かせないと約束したのに、憔悴するほど傷つけてしまったことはすみません」


レナンと婚約する時に泣かせないと宣言したのに、それを破ってしまった。

そちらに関しては申し訳なく思う。


「仕方ありません、それはレナンもわかってくれているはずです。レナンが助からなければ、リアムは生きてないのですから。あなたも」




「…やはり何か知っているのですね」

核心の言葉だ。



リリュシーヌはゆっくりと紅茶を飲む。


「わかりますか。さすがエリック様ですね」

「二人で話したいと言われれば、誰でも勘づくでしょう。レナンに聞かせたくないと言うのなら、尚更」



今部屋にはエリックとリリュシーヌ、特別に二コラもいる。


二コラも関係ある話なのだと言われた。


「十年前、エリック様の体が花弁のように散って、消えたと聞きました。そこには魔力の存在もあったと」

リリュシーヌが確認のために聞いてくる。


「そうらしいですね。俺は知りませんが」



キュアとレナンの証言だ。


「一度だけ私もその光景を見たことがあります」


リリュシーヌの金の瞳が、エリックを見た。


「レナンの力ですか?」


話の流れと、おおよその検討でそう言った。

理屈はわからないが、そう思った。


「えぇ。レナンは小さい頃は魔法が使えたのですよ。ミューズのように色々なものを」


ミューズも知らないくらい小さな頃だ。


「ある時、レナンが大事に思っていた小鳥が死んでしまったの。初めて死というものを見て、とても悲しんでましたわ。泣いて泣いて、大変でしたの」


顔を真っ赤にして泣きじゃくっていたレナンを、リリュシーヌは思い出す。


「そしたらその小鳥が花弁のようになって、どこかに行ってしまいましたわ。倒れてしまったレナンの事をディエスにお願いして、私はそれを追いかけてみたのです」


飛行魔法まで使って、どこまで行くかを必死で追いかけた。



何が起きたのか、リリュシーヌも知りたかったのだ。



「着いたのは山の中の木の上。そこにあった小鳥の卵に入り込みました」


リリュシーヌはその卵を持ち帰り、孵化を試みた。


上手く育てられるかわからないから、レナンには知らせずこっそりと。


「驚いたわ。レナンが買っていた小鳥と似たような姿をしていたのだもの」


野鳥にはあり得ない、青い色の鳥。


山中の鳥から生まれる品種ではない。


「原理はわからないけれど、生き返らせたんだと思いましたわ。その小鳥はレナンを知っていたかのように、あっという間にレナンに懐きました」


それだけではない。


孵化してある程度大きくなってからレナンに渡したのだが、その翌日急速に成長したのだ。


「多分レナンの近くにいたからじゃないかしら。あっという間に元の大きさに戻りました」


今のエリックと同じだ。


「それで、その小鳥はどうなったのです?」

ここから先、自分はどうなるのか。


二コラも息を飲んで聞いている。




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