成長?
「エリック様、朝ですよ」
ニコラに促され目を開ける。
昨夜は皆で夕飯を取り、一緒に大浴場にて入浴を行なったりもした。
色々な話しをして、一人になるなんて時間は就寝時しかなく、楽しい一日だった。
表情を動かしすぎたからか頬が突っ張って痛い。
ダメもとで夫婦の寝室で寝ようとレナンを誘ったら断られてしまったので、そこは非常に残念だった。
何もしないと言ったのに。
「おはよう、ニコラ」
発した声に違和感を感じ、エリックは喉を押さえた。
「何か、変だ…」
昨日よりも低い声。
「声変わり、でしょうか?急ですね」
突然起きてもおかしくないが、体にも違和感も感じる。
毛布を跳ね除け、体を、まじまじと見下ろした。
「体も成長しているな」
ぴったりだったはずの夜着からは、腕や足がはみ出している。
お腹も若干見えていたので、ニコラが慌てて毛布をかけた。
「お腹を痛めてしまいますよ」
「俺は子どもか」
過保護過ぎるニコラにため息が出た。
しかし、どうした事か。
こんなに急に成長するものではないだろう。
成長期なのか?
「鏡を見せてくれ」
ニコラが鏡をエリックに手渡す。
「やはりおかしい。髪も伸びている」
明らかに異常だ。
成長期で体が大きくなっても、髪までなんてありえない。
「シュナイ医師に見てもらいますか?」
シュナイは王族付きの医師で、口も固く博識である。
長年勤めており、信頼は厚い。
「レナンに心配をかけるかもしれない、内密に連絡を取ってくれ」
「はい」
ニコラが離れたあと、着替えを始める。
エリック用として様々なサイズの服がクローゼットに入っていて、ホッとした。
昨日のサイズでは既に着られなくなっていたから助かる。
エリックの体の大きさがわからず、色々揃えたのだろうなと、感謝した。
着替えを済ませていると、ニコラが戻ってくる。
改めて髪や身だしなみを整えてもらい、レナンたちが待つ食堂へと向かった。
挨拶をして席に着くが、皆からの視線が痛い。
「エリック、昨日とは雰囲気が違うわよね?」
「髪を結んでるからかもしれないな」
レナンの言葉にエリックはさらりと言った。
二コラに髪を編んで貰い、長さを誤魔化している。
「いいえ、声も変わってるわ」
「声変わりだろう、急に起きるものだから」
声は隠せない、成長の一環としてごく普通の常識を言った。
背丈はどうにも出来ないから、ばれないように祈るばかりだ。
早く大きくなりたいとは願ったが、一晩でこの成長は異常だ。
このペースでいくと下手したらレナンよりも年を取ってしまう。
先に老衰死するなんて嫌だ、またレナンを悲しませてしまう。
「父様、明らかに大きくなりましたよね?ちょっと僕の横に立ってください」
アイオスの促しに頭を抱える。
そう言われては誤魔化せない、渋々エリックは立ち上がった。
皆の視線が集まる。
「ほら、昨日は同じくらいだったのに、もう越している。どういう事ですか?」
「すまないが、俺もわからない。朝起きたら急に背も大きくなり、髪も伸びていた」
本当にわからないので、何とも答えようがない。
「そんなに急に大きくなるなんて。今まではなかったのですか?」
ティタンの疑問にエリックは記憶を遡る。
「いや、ないな。ここに来てから初めてだ」
エリックの意識を取り戻す前も後も、そんなことはなかった。
ここの王城で一晩過ごした後で大きくなったのだ。
「昨日大きくなりたいと話したからか?そうエリックが願ったから、それが叶ったとか」
アルフレッドの言葉に首をかしげる。
「それならば早くレナンに会いたいと願った事こそ叶うべきでしょう。成長は望んだけれど、何故今それが叶ったかもわからない」
願いの強さとしてはレナンに対しての方が大きいはずだ。
「そもそもエリック兄様が生き返った仕組みもわからないのに、成長の理由などもわからないでしょう。そういえばキュアはエリック兄様の体が消える前、魔力を感知したといってましたよね?」
リオンの問いかけに、キュアは頷く。
「はい。あの時、誰かの魔力を感じました。感じたことのない魔力で、どこからかもわからず。思えばあれはエリック様が生き返る予兆だったのでしょうか?」
詳しくはわからないと、キュアは首を振る。
「生き返らせる魔法などあるのですか?」
マオがミューズに聞く。
「そんな魔法があれば、夢のようね。例えば死者を操る死霊使いとか、魂を呼び戻す降霊術とかお伽噺でなら聞いたことはあるけれど、死んだ人を完全に生き返らせる魔法は聞いたことないわ。お母様なら何かわかるかもしれないけど」
ふと、ミューズが考え込む。
「後で通信石で聞いてみましょう」
魔法に詳しいリリュシーヌなら何か知ってるかもしれない、エリックも早く原因を知りたかった。
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