信用失墜行為

少年は下男として働くようになった。

雑用を行い、屋敷の事を把握していく。


まだ若輩者のため、子爵の部屋には近づけない。


掃除や雑用などから覚えていく。




周りからは好奇の目以外にも嫌悪の目が感じられる。

子爵の男娼達からだ。


(地位が成り代わることを懸念しているのか)




少年が来た理由は知っているはずだ。


同じ立場の者なら、危機感を感じるだろう。


案の定嫌がらせを受けるが気にしないことにしたが、食事が食べられないのはきついので、しっかりと言い返すことにした。


「俺は今、体を磨かなくてはいけない。子爵様と約束しているからだ。俺が体を整えるまで待っていてほしいと。それを邪魔するって事は、子爵様の命に背いていることだ、わかるか?」


噛み砕いて、皆の前で、堂々と言い放つ。

「意地悪をする気持ちはわかるが、それならば子爵様に全てを話、諫めてもらう。俺への代金は高くついたそうだ。お前ら代わりに払えるのか?」


食事に異物を入れた者、わざと怪我をさせようとした者に大声で訴えた。


「これ以上何もしないなら何も言わない。だから余計な手出しをするな」




わざと高圧的に話したので孤立はしたが、それ以上余計な事はされなくなった。

馴れ合う気もなかったため、一人は心地良い。


安定した食事と、規則正しい生活。

順調に少年の体が作られていく。





「君、元気だった?」


外で掃き掃除をしている少年に話しかけたのは、人買いだ。

「元気です。あなたは?」


「そこそこかな。にしても変わったなぁ」


少年の髪も肌も、艶を取り戻している。

人買いは感嘆の声を上げた。


「磨いて光る者も多いが、君の変貌は凄い。本当の貴族のようだ」

少年の見た目の美しさもあるが、話し方も仕草も品があると感じていた。


「ありがとうございます。子爵様を見倣い、見様見真似ですが努力しておりました」


子爵は壮年だが、なかなか整った容姿をしている。

元偉い人だった少年から見ても、子爵の仕草などにも違和感は感じられなかった。




「はぁ…それだけでここまで出来るもんかね」

人買いは感心しっ放しだ。




少年には死ぬ前に得た知識と、経験がある。

そこらの者に負けたりはしない。


「まだまだですが。それよりも子爵様にご用事ですか?」

「んん、まぁ新しい情報をね…」

歯切れの悪い言葉だ。


「でお呼びいたしましょう」


掃除を中断し、玄関を開ける。


奥から怒声と怒号が聞こえてきた。




「子爵様、如何いたしましたか?」

人買いの事は置いておいて、少年は声のする方へ向かう。


まだ子爵の部屋に入る許可がないため、廊下の途中で止まった。



「これはどういうことだ!」


子爵と目が合うと怒鳴り声をかけられた。

少年は首を傾げる。


「何のことでしょう?」

少年は表情を殺し、答える。


「お前が私の部屋に無断で入り、絵画に傷をつけたという話だ!」




まるで覚えがない。

そもそも部屋にすら近づいてはいけないと言われてるし、少年は新参者のため、仕事が忙しくそんな暇はない。


「何かの間違いでは?私は子爵様のお部屋になど、入ったことがありません」 


「しかしコイツラが証言している、お前が入り込むのを見たとな」


子爵の後ろで笑うは、少年に意地悪をしていた男娼達。




(分かりやすく嵌めようと動いたか)


証拠はない。

やった証拠もやってない証拠も。


少年は悩んだ。


論破するか、計画には早いが皆殺しにするか。


今更人の命を奪うのに躊躇いはない。


この屋敷の者に恩義はない。

しかし、玄関にいる人買いだけは違った。


あの者だけは、少々気になっている。

(まだ役に立ちそうな男だったな)


非情な人買いのはずが少年を助けようとした。

あり得ない事が逆に気になった。




「子爵様、信じてください。俺はやっていない」

信じて貰えないだろうが、訴える。


「では誰がやったと?他の者というのか」

声のトーンが落ち着いた。


大声を出した事で、少し冷静さを取り戻したようだ。


「わかりません。ですが俺は子爵様の部屋に近づく許可も得ていませんし、けして入り込むような事もしていません」




「嘘をつくな、忍び込むお前を見たぞ!」

「その金髪、確かに見た!部屋にも金髪が落ちていたんだぞ!」


余計な事をいう二人を少年は睨みつける。


二人はその視線にビクリと体を震わせた。




「していないものはしていません。子爵様、是非その公正な目で判断してくださいませ。俺が斯様な事をする理由も、道理もありません。約束通り心身共に子爵様に相応しくなるよう、精進を重ねている最中…わざわざ機嫌を損ねるような事を致しません」


淡々と少年は矛盾点をついていく。


「普段から子爵様の部屋には、誰でもいつでも入れるようになっているのですか?そのような大事な物があるというのに」

「いや、許可した者だけだ。鍵も掛けている」


子爵の部屋には疚しいものが多いだろうし、鍵をかけるなど当たり前だ。


「その二人は、鍵付きの部屋に俺が入ったのを見たと証言しましてが、俺が鍵を持っていると?」


少年が持ってるはずはなかった。


「誰かのを盗んだのだろ!その者に罪を擦り付けようとして…」

「盗まれるような迂闊な者が、子爵の寵愛を受けてると?それは子爵の信用を落とすことでは?」


少年は自分ではない事を証明していく。


「それにいつ入り込んだというのです。まさか俺が入ったのを見て、放置したのですか?」

「違う、すぐに確認したら大事な絵画に傷が…だから今子爵様に知らせてて、それで」

「俺は先程まで玄関の掃除をし、あまつさえ子爵様へのお客様と話をしていました。証人には充分かと」


「お客様とは?」




「失礼。いつまでも声が掛からんし、大声が聞こえたから勝手に入ってしまいましたが、まさに修羅場ですね」


外にいた人買いが罰が悪いといった顔で立っていた。


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