久々の再会

「おおーエリック!変わらないな!!」


大声で話しかけるのはシェスタ国の王太子グウィエンだ。

相変わらず明るく、声がでかい。


両脇に女性を侍らせている。


「俺の妻と、妻だ。よろしくな」


タイプも年齢も違う女性二人に頭を下げられ、エリックもレナンも挨拶する。


「俺は初めましてですね。お二人とも本当にお綺麗だ、グウィエンには勿体ない」


シェスタ国は一夫多妻が認められているし、グウィエンの女好きについては前々から知っていたから驚くこともない。


二人の女性も挨拶を返す。


「会えて嬉しいです、エリック様。体調を崩されていたと聞いて、夫と共に心配でしたわ」

赤い髪をした第一夫人リーディアが優雅に微笑んでいる。


事前の話に合わせて話を進めてくれている。



「よかったです、お加減が良くなられて。それにしても本当にお綺麗ですね。レナン様と並ぶとまるで絵画のようです」


うっとりとした瞳で見つめるは青い髪をしたアイリーンだ。


「ありがとうございます、リーディア様、アイリーン様。皆様の助力で本当に助かりましたわ」


レナンの微笑みに三人は驚いていた。

「やはりエリックがいると違うな」


この十年では見られなかった笑顔にグウィエンは苦笑した。


「いい笑顔をするようになった。どうだ?今からでも俺の妻に…」

グウィエンのナンパにエリックが拳を突き出す前に、グウィエンの両脇から手が伸びる。


「あら、グウィエン様。約束をお忘れになって?」

「もう妻は増やさない約束ですわよね?」


二人はグウィエンの耳を千切らんばかりに引っ張った。


「いたたたたっ!冗談だ、すまん!」


グウィエンは血のにじんだ耳を押える。


「加減をしてくれ、本当に取れたらどうする気だ」


「わたしが治しますから大丈夫ですよぉ」

にっこりとアイリーンが笑う。


「本当に取れてほしくないなら、その悪癖を直してくださいね」

リーディアもにこにこと微笑む。



「仲が良さそうで何よりだ」

頼もしい諫め役に安堵する。

レナンの前でグウィエンを張り倒す手間が減って良かった。




「レナン様も幸せそうで良かった」

二人がレナンと会ったのはエリックが亡くなってからだ。


社交場にて会うレナンはいつも笑顔を絶やさぬものの、どこか陰を帯びていた。


それが今やにこやかな、朗らかな雰囲気だ。

本来のレナンはこうなのだろうというのがわかる。



「皆に心配と迷惑をかけたな、改めて感謝する。俺がレナンから離れることはもうない」


それを示すようにエリックはレナンの肩を抱き寄せ、レナンもそれを抵抗なく受け入れている。


「またこうやって仲が良い姿を見られてよかった」

グウィエンは涙で滲む目頭をそっと抑えた。


死んだと思っていた親友が戻ってきたのだ。


嬉しさしかない。



ノックの音が聞こえ、エリックが入室の許可を出す。


「エリック!グウィエン!」

ドアを開け入ってきたのは、パルス国のルアネドだ。


王妃である妻のロゼッタも連れている。

「この間は世話になった、ロゼッタ妃もありがとうございます」

「いいのです。こうしてまた会えて嬉しいですわ」


柔和な雰囲気の二人にエリックの気持ちも落ち着く。



ルアネドもエリックとレナンを見て肩の荷が下りた気分だ。

あれからずっと心配していた。


「元気そうで良かった。でも、逆に違和感があるな」

ルアネドはエリックを見上げる。


ルアネドが保護した時のエリックはまだ子供で見下ろすほどだった。


しかし、完全に元に戻ったエリックはルアネドよりも背が高い。


「無事に戻れたよ。もう子ども扱いしないな?ルアネド」

「また頭を撫でてやろうと思ったのに」

「あ、なんか狡い。俺も話に混ぜてくれ」


エリックとルアネドとグウィエンが話に花を咲かせている。


夫たちのそんな気やすい友人関係を妻たちは笑顔で見つめている。




「そういえば、二コラは?彼もいるとティタン様に聞いたんだが」


小さくなったエリックを保護し、アドガルム行の馬車を見送る時に、そっとティタンに耳打ちされて教えてもらった事だ。


「おっ、二コラもいるのか。しばらく会っていなかったが、あいつも元気か?」


常にエリックに付き従う二コラとグウィエン達は旧知の中だ。


きょろきょろとあたりを見回す。


「俺はここに…」

エリックの後ろから声がする。


薄ぼんやりとした姿がかろうじてわかった。


「認識阻害の魔法をかけているのか…わからなかった」


仮面をつけているのを見て、顔を見られたくないのだろうとルアネドはそれ以上追及しなかった。


「二コラ、顔見せろ。久しぶりなんだから」

グウィエンは気にした素振りなくそう言って二コラに近づく。


「だいぶ変わりましたよ?それでも見たいですか?」


「当たり前だ。二コラは二コラだし、そんなちょっと変わったくらいで気にせん」


良くて鷹揚、悪くて大雑把なグウィエンだ。


「でしたら少しだけ…ご婦人たちはおやめになったほうがいいかもしれませんね」


二コラは仮面を外し、グウィエンとルアネドを見る。


真っ赤な目と血管の浮き上がった顔。


ルアネドは少し表情を強張らせるが、グウィエンは気にした様子もない。


「怪我したわけではないのか。なら良かった」


べたべたと顔を無遠慮に触られ、二コラは嫌そうな顔をする。


「おやめください、グウィエン様」


「怪我だったのなら、我が国が誇る治癒師に治させようと思ったのだが、そうではなさそうだな」

二コラの仮面も手に取る。


「こんな仮面など必要ないだろう。見目が少し変わったぐらいでお前を否定するものなど、俺やエリックがぶっ飛ばす。なぁそうだろ?」


「まぁそうだが。子どもに泣かれるのが嫌なんだそうだ」

エリックは二コラの意思を尊重していたが、グウィエンは遠慮などしない。


「そうか。では子どものいない今日みたいな日はいいのではないか?」


グウィエンは仮面を手の中で弄ぶ。


「俺達が来た理由は再びエリックを返り咲かせるためだろう?ならばありのままで行け。いくらでも力を貸す」


二人がアドガルムに来た理由は、死んだとされたエリックの復帰の為だ。


国葬まで行なった後も残された空白の王太子の座を、本日ようやく埋めるのだ。


助かるはずのない怪我をし、霊廟に安置されたエリックの遺体は多数の者が見ている。


忠実な従者だった二コラも死に、その遺体は消えた。


そんな中、十年も経ってから突如現れたエリックに似た子どもがあらわれたのだ。


異様な速さで成長し、王族にあっという間に受け入れられ、レナンと共に行動している姿は多数の者が目撃している。



普通に受け入れるには難しい話で、カイルのように偽物ではないかと疑うものも多い。


それらを払拭するために、友好国の二人を呼んだのだ。


他国の王族が認めるならば、疑いの言葉など口に出来なくなる。


「隠し事は説得するうえで不利になる。すべてを話せ、という事ではないが、懸念は減らした方がいいかもね」

ルアネドも二コラの仮面をはずすのに賛成のようだ。


「戦の時も、今回も、二人には力を借りてばかりだ。どう返せばいいか」


二人の友人には感謝しかない。






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