本人という証

姿を現したエリックを見て、貴族たちは明らかに動揺した。


国葬にも参加し、死んだとされていた。


だがその後、エリックは生きていて、その為に王太子の座は開けているのだと、十年もの間その席は空白になっていたのだ。


リオンはあくまで代行で王太子ではないと何度も説明されたが、信じるものはいなかった。




しかしこうして招待状を受け、説明を受け、目の前にしたからか、貴族たちの大半は半信半疑ながら受け入れた。


王太子妃であるレナンと共に入場、しかも隣にはパルス国国王ルアネドと王妃のロゼッタもいる。


反対隣にはシェスタ国の王太子グウィエンとその妻、リーディアとアイリーンがいるのだ。


他国の王族もいるのでは、偽物などと糾弾など出来るはずもなかった




「今日は皆に大事な知らせがあって、この場を開かせてもらった」

国王アルフレッドが厳かに話し始める。


「十年前、エリックがかつてのナ=バーク国の者に襲われ、命を落とした事は皆も知っているだろう」


皆が静かに聞いている。


「しかしその後、エリックの命が尽きていなかった事に気づいた我々は、再びエリックが狙われないようにと、秘密裏に療養をさせる事を決めた。国葬まで行ない、混乱させてしまったことは謝罪する、本当に申し訳ない。諸外国にも詳細を伝えるのは伏せていた。依然エリックは危険な状態だったからだ」


アルフレッドは長く息を吐く。



「その後姿を見せることなく、そして王太子の座も長らく空席にしていた。皆も戸惑い、疑問を抱いていたであろう。しかし、生きているエリックを差し置いて、次の王太子を置くのは出来ないとも言われててな」

ちらりとアルフレッドはリオンを見るが、リオンは静かに微笑むばかりだ。


「療養先もアドガルムではなかったため、姿を見せることも出来ず、さぞ心配をかけただろう。しかし、こうしてまたエリックは公務を行えるくらいになった。まだ療養から帰ってきたばかりなので無理は出来ないが、だが改めて王太子としてまた皆と共にアドガルムを支えるようになることをここに宣言しよう。それを伝えるため、本日は集まってもらったのだ」


アルフレッドは重臣たちに目を移す。


「ここ数日、王城にて幼き頃のエリックを見たものもいるな。エリックは大怪我を負い、更に呪いまでかけられていたのだ。それ故にあのような姿になっていたが、今やそれらも全て問題ない。怪我も完璧に治り、呪いも完全に解けた。今後エリックは変わらず公務を行なっていく」


皆がエリックに注目している。


本日初めて姿を見るものは肖像画と同じであること、昔会ったことのあるものは記憶のままであることをみとめ、国王の言葉を信じる。


堂々とした立ち居振る舞いで王太子妃レナンの隣りにいるエリックは、王族の中にいても違和感なく馴染んでいる。


臣籍降下した弟であるティタンも側で控え、王太子代理を務めたリオンもまた敬意を払っている。




「異論があるものはいるか?」


アルフレッドの問いに口を開くものはいない。


国王自ら説明をしているし、他国の王族も認めている。


大半の者は納得していた。


国が大きく傾くことがなければとくには問題ないと判断したからだ。



しかし、困惑しているものも少なからず見られる。




「この場での発言は不敬とは取らない。気になった者はどんどん発言してくれ、なぁカイル殿」


宰相であるカイルにエリックは声かけた。


「そのような顔をした男と、今後一緒に執務が出来るか心配だからな。何でも言ってくれ、何せ俺は次期国王になるんだ」


カイルは唇を噛み締める。


エリックが国王になれば、自分はその右腕となって仕事をしなければならない。


カイルが認めなくても、これだけの者の前で承認されたのでは覆せない。


「不敬にはならない、それは本当でしょうか?」

カイルはエリックに問い返した。


こうなったら徹底的に口論させてもらおうと思ったからだ。


「本当だ、遺恨を残すと後の仕事に響きそうだからな。では聞こうか、宰相殿のご意見を」


偉そうな態度のエリックに苛々しながら、カイルは口を開く。


エリックの隣にいるレナンが、ハラハラしながら二人を交互に見ているのが分かったが、止められない。


あれほど前宰相であった父に仕事に私情を持ち込むなと言われたのに、明らかなる私情をエリックにぶつけようとしていた。


十年も不在にしておいて、のうのうと皆が守ってきた地位につくのも図々しいし、無条件に愛されている、というのが実に腹立たしい。


「まず最初の質問をします」


冷静さを保つため一拍置いた。





「あなたは本当に、本物のエリック様なのか。明確な証拠を見せてください。俺が納得できるほどのものを」


カイルの言葉に、エリックは首をひねった。


自分が自分である証明。


明確に、と言われるとなかなか難しい。


これだけの貴族の中で、父である国王は本物だ宣言してくれている。


家族である王族や、他国の王族に認められている中で、カイルは納得していないと言うのだから、納得させるのにはなかなか骨が折れそうだ。


「明確な証拠か…それは持っていないな」



皆からの証言が証拠だから、それ以外はなかなか難しい。

カイルを納得させるような二人だけのエピソードなども持っていない。


カイルの言葉を素直に認めた。




周囲に動揺が広がっていくのも感じるばかりだ。











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