死んだその後
自室にいるレナンに会いに行くと、安心した表情でこちらを見てくれる。
エリックも笑顔を見せ、レナンに近づいた。
「少し、二人にしてくれるか?」
キュアにそう頼み、エリックは二人きりとなる。
この間に二コラがリリュシーヌから聞いた話を伝えていってくれるだろう。
レナンと二人きりになるのは久しぶりだ。
緊張した面持ちのレナンにエリックは不安になる。
「二人きりは嫌か?」
怖がらせないよう、極力優しく声を出す。
「そういうわけではないけど、お母様との話はどうでした?」
急激な成長を心配してくれていたようだ。
レナンをソファーに座らせる。
「問題ないそうだ。アドガルムに来て、レナンと会った安心感からこのような現象が起きたらしい」
「まぁ」
レナンがどう信じるかはわからないが、嘘は極力避けよう。
落ち着いたら真実を伝えるのだから。
エリックはお茶を淹れ始める。
二コラもキュアも追い出したのでお茶を淹れるものもないので、エリックが率先して行う。
「君に淹れるのも久しぶりだ。日常が戻ってきて本当に嬉しい」
「そうね、ずっと夢見ていたから嬉しいわ」
エリックはレナンの隣に座り、レナンもそれを受け入れる。
「こうして会えるまでレナンに好きな人が出来ていないか心配だった。誰かに言い寄られたりはしなかったか?」
「疑っていたの?わたくしにはエリックしかいませんよ。子どもも三人いるし、こんなおばさんになったのですから、言い寄るものなんていませんし…あっ」
小さく声を出したレナンをすぐさま問い詰める。
「誰だ、そいつは。今すぐ教えるんだ」
両肩を掴み、逃げられないようにされる。
緑色の双眸がまっすぐにレナンを見る。
「シェスタ国のグウィエン様が…寂しくなったらシェスタにおいでって」
「あいつ…あとで怒鳴ってやる」
そういえばまだ連絡を取っていない。
レナンがそっと通信石を渡してくれた。
「これ、あなたのよ。ずっとわたくしが持っていたわ」
レナンはお守り代わりにずっとエリックのものも持っていた。
繋がるわけがないと知りつつ、それでも置いておけなかったのだ。
「ありがとう」
「それとグウィエン様を責めないでね。あの方はあなたの仇を討つために一緒に兵を出して戦ってくれたの」
「そうか…俺はまだ自分が死んだあとどうなったか知らない。アドガルムが平和であるから、何らかの決着がついたのだとは思ったが…事の顛末を誰に聞けばいいか、決めあぐねている。戦になったのだろう?」
レナンには聞けない。
辛い記憶を思い出させてしまうし、恐らく戦争に発展しただろうから。
王太子の命を奪ったのだから、ただではすまないはずだ。
二コラはすぐに自分を探しに出たと言っていたから、別なものがいいかと思っていた。
「そうね。戦になり、シェスタ国とパルス国が加勢してくれたのだけど、詳しく知りたいならティタン様やリオン様ね。叔父様も前線に出てくれたしたくさん手助けしてくれたから今度一緒にお礼に行きましょ」
「ロキ様か。何をしてくれたのだろうな」
今でも結界の維持や魔道具の開発に力を入れてくれている。
「あなたを殺した魔道具についてを解明してくれたのよ」
レナンの目が伏せられ、エリックは思わず抱きしめる。
昨日よりは背も伸びているが、まだ理想に遠い。
早く包み込んであげたいし、キスをしたい。
子どもの姿が歯がゆい。
「わかった、今度その話をしよう。今は夫婦の時間だ」
レナンの長い髪を手に取り。口づけをする。
「もう数日したら、俺は元の姿に戻るはずだ。そうしたら、受け入れてもらえるか?」
「受けいれる?」
首を傾げたレナンをエリックは立ち上がって見下ろした。
「もう子どもじゃなくなる。今までのように触れていいかってことさ」
ぐぐっと顔が近づいて、唇が触れないくらいに迫った。
レナンの顔から首から耳まで赤くなる。
「やっ、えっと、それは…」
身動きも取れず、固まってしまう。
「その日を楽しみにしてるよ」
額に口づけされ、エリックは離れた。
レナンは一気に力が抜け、ソファーにへたり込む。
「変態、エッチ!」
「どこでそんな言葉覚えた?あぁ、恋愛小説か」
王太子妃らしからぬ言い回しにエリックはくすっと笑う。
「子どもを三人も出産しているのにまだ恥ずかしがるなんて、本当に君は可愛いな。さて、そろそろリオンの仕事を奪う事にしよう。俺の体が戻ったその日はゆっくりしたいからな」
呼び鈴を鳴らし、キュアを呼ぶ。
「けしてレナンから離れぬようにな。あと俺以外の男が近づかぬようにしてくれ、絶対だぞ」
エリックに会えてまだ日にちも経っていないのに。レナンは元の慈愛に満ちた表情を取り戻している。
規則正しい生活と、安定した心があれば、また他のものを虜にするほどの美しさを
取り戻せるはずだ。
それを見越しているから、エリックは面白くないのだ。
変わらぬ冷たい目と嫉妬心にキュアは安心する。
依然エリックは家族以外のものを信用していない。
「お任せを」
変わらぬ主はやはり安心する。
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